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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第9章 異界の旅路編
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 ジュガと名乗った少年は、赤帽子族。いわゆるレッドキャップ族だ。

 邪妖精種の中でもわりと好戦的な種族である。


 常夏の海岸から来たということは、反ヤマト勢力に追い出されたか、自主的に逃げてきたかだろうか。


「俺は戦うとか、そんなつもりはないぞ」

 先に釘を刺しておく。

 トラブっても、平和的に話し合って解決するつもりだ。


 そもそも擬人の姿で戦えるのだろうか。

 あとで確かめてみる必要がありそうだ。


「そうなのですか? 世を忍ぶ仮の姿で悪者を懲らしめる旅に出ると聞きましたが」

 ジュガが「そうですよね」って顔でボージュンを見ている。


 世を忍ぶ仮の姿って……俺は印籠をもった隠居ジジイか。


「常秋の山林は上位種族が少ないものでして、擬人に入るほどの者はなかなか現れないのでございます」

 ボージュンがフォローを入れた。


 どうやらジュガは、俺がどこぞの上位種族で、正体を明かさないようこの姿でいるのだと勘違いしたようだ。


 冥界から転生して来たと説明してもいいのだが、最初から話すと話が長くなる。

 だから「この姿は趣味だ」で押し通した。


 一般的には、俺はヤマトに会いに行く途中の上位種族で、擬人に入っているのは、俺が変わり者だからだと説明するつもりだ。


 ジュガも納得したのか分からないが、それ以上何も言わなかった。


「なあ、ボージュン。擬人の姿だと、力はどのくらい落ちるんだ? 特殊能力なんかはどうなる?」


「特殊能力を含めて、本来の肉体が持っている固有のものは一切使えません。それ以外は、魂の強度によります。ここは魔素がありますので通常通りかと思います」


 たとえばネヒョルみたいに爪や牙を伸ばすことはできないし、体内で毒を作ることもできない。

 それは擬人に備わっていないからだ。


 そのかわり、魔法を撃ったり、魔素を体内に巡らせて身体強化をはかるのは可能らしい。

 これらはすべて魂が記憶していて、魔素を使うことで力を行使できるかららしい。


 爪が伸ばせないのは、いかに魂が記憶していても、肉体が反応できないからだと。

 信号を発信しても、受信しなければ意味が無いのと同じ理屈だろうか。


 ただし人界に降りると、周囲に魔素がないため、それすらも制限されるらしい。

 不便なことだ。


「俺は身体強化ができる。もとの肉体の強さを強化するのと、この擬人の肉体を強化するのでは、やはり勝手が違うのか?」


「そうでございますね。それを理解せずに無茶をしますと、擬人の肉体が壊れます。壊れた肉体を修復するのは、かなり大変になります」


 昔は擬人のスペアも一杯あったらしいが、結構な頻度で壊れたことで、今では残り少なくなったという。


「……ん? この擬人はヤマト様が作ったのではないのか?」

 てっきりそうだと思ったのだが。


「いえ、天界で作られたものだと説明を受けております。天界の住人が人界で活動するときのためのものをヤマト様がパクッ……拝借したとか」

「…………」


 天界のものを盗んだらしい。

 なかなかヤマトもいい性格してそうだ。


 そういえば天界を満たしている聖気は、人界の信仰心や祈る力が元になっていると聞いた。

 堕天した者が言っていたらしいから、正しいのだろう。


 そして擬人は、天界の住人が作ったと。そこから見えてくるのは。

 天界の住人はときどき人界へ降りて、信仰心を確かなものにしていたのだろう。


「結界が張られてから、天界は聖気不足になったとか言っていたな」

 結界で出入り不可能となったあとは、こういった活動ができなくなって、信仰心とともに聖気が不足していったのかもしれない。


「まあ天界のことはいいか」

 考えても分からない。


「それより、ヤマト様は常春の野原のどこにいるんだ? それと、会いに行けば、会えるものなのか?」


 塔の上に住んでいて、一階から階の番人と戦闘しつつ上がっていかないと、会う資格が得られないとかだったら、嫌だな。

 途中「番人は一人とは限らない」とか言われたりして。


「儂も常春の野原までは行ったことはございませんので、確たることは言えませんが、ヤマト様は水晶宮殿に住んでいると言われております」


「水晶宮殿? 随分と大層な名前だな。クリスタルパレ……」


「水晶宮殿です」

「お、おう」

 ボージュンの目が少し怖かった。


「それと擬人の姿で行けば、会えるのではないでしょうか。何しろ異界には上位種族は少なく、たいへん稀少ですから」


「なるほど」


 魔界のように小魔王や魔王クラスがゴロゴロいるわけではなさそうだ。

 この異界は魔界に比べたら、猫の額の広さだろう。


 そこに強大な力を持った連中が群雄割拠していたら、異界全土が不毛の地になりかねない。


 見て届く距離に敵対する小魔王がいたら、毎日最終決戦をしても不思議ではない。

 上位種族が稀少というのは、しごく当たり前の話だ。


「あとひとつ聞きたいんだが、この異界の中央部分には、何があるんだ?」

 最初ボージュンから、異界は四つに分かれていると説明を受けた。


 それでホールケーキを想像したが、中央付近へ行けないということで、連想をドーナッツに変えた。


 中央を通過できないので、秋から春へ直接渡れない。

 問題は、なぜ渡れないのかだ。


 中央付近になにがある? 結界か? それとも壁か?

「中央には山があります」


「山? だったらそこを越えた方がラクなんじゃないか?」

 たしかに山越えは大変かもしれない。


 だが大回りして夏の海岸を通過するより、いいんじゃないだろうか。


「中央部分にあるのは塩の山です。巨大な塩の山がそびえ立っておりまして、だれも近づくことは適いません」

「…………」


 巨大な塩の山。

 うん、それ。想像できる。


 というか、あれじゃね?


「その塩の山は、何と説明を受けているんだ?」


「結界のかなめと……いえ、塩の山がではありません。その中にある『もの』が結界の要と言われております」


 結界の要が塩の山の中にある……それって、死体だったりしないかな。

 なんか、心当たりがあるんだけど。



 ――というかゼウスの死体を使って、異界作っただろ



 すげーな、ヤマト。

 何でも利用しやがる。



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― 新着の感想 ―
[一言] この擬人の身体が塩に耐えられるのなら裏技でゴーランが強行突破できそう。
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