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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第9章 異界の旅路編
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 このまま人界へ降りるには、リスクが大きすぎる。

 この異界のことだけでなく、人界についていろいろ詳しいのはヤマトだろう。


 まずヤマトに会うべきだ。

 それに会うことができれば、かつて魔界に君臨していた小覇王本人なのかが分かる。


「それじゃ俺はヤマト様に会いに行ってくるよ。常春の野原だっけ? どうやって行けばいい?」


「常冬の里村はとても抜けることができるとは思えない極寒の地。常夏の海岸はヤマト様に反抗する者たちが占拠しております」


「それはもう聞いた。そうだな……常夏の海岸を抜けることにしよう。寒いのは嫌だ」

「常夏の海岸は危険地帯……いえ、無法地帯と言われております。三度の飯より戦いが好き。そんな連中の集まりです」


「俺はそういう奴らの扱いには慣れている。みな話せば分かる。根はいい奴ばかりだよ」

「いえ、とてもそうは……」


「俺も前は魔界にいたって話しただろ。そういうヤンチャな奴らはどこにでもいた。大切なのは対話だ。話せばきっと分かってくれるさ」

「…………」


 対話、これ大事。

 俺たちは獣じゃないんだ。合い言葉は「理知的に行こうぜ」だ。


「それより服はないか? 身体がすーすーして落ち着かない」

「これは気付きませんで、申し訳ありません……こちらに人界へ降りるときに必要なものが置いてあります」


 ちなみにボージュンも裸だ。

 魔界の住人の場合、服を着る種族とそうでない種族がいる。


 よく観察すると、性別や好みで服を着たり着なかったりする中間の種族もいたりするが、それはおいておくとして、獣タイプや水棲タイプの種族は総じて服を必要としない。


 毛皮や鱗がその代わりになるからだ。

 ちなみにボージュンの身体にも鱗がある。


 ボージュンに連れて行かれた先は、倉庫だった。

 服は端のほうに掛かっている。


「これはまた随分と古いな……」

 男物と女物が一緒になっている。……が、どれも古い。


 平安時代の狩衣かりぎぬがあり、その奥に貫頭衣かんとういやトーガがあった。


「段々と時代が古くなっていくな。国際色豊かな衣装も入っているし……とすると一番新しいのはこれか?」


 俺が取り出したのは着流しだ。

 テレビの時代劇で浪人が好んで着ているようなもの。


 俺の場合、道場主がときどき着ているのを見たことがある。


「どうでしょう。気に入ったのがございましたか?」

「なんで時代劇の衣装ばかり並んでいるんだ?」


「はて? これらは過去、人界へ降りていった方々が着て戻ってきたものばかりですが」

「…………」


 最後に人界へ降りたのって、いつだよ。


「何か問題でもございましたでしょうか」

「いやいい。何を言っても無駄な気がする」


「はあ、さようですか」

 最新の衣服ですら、日本に降り立った瞬間に悪目立ちするわ。


 最新の衣服が着流しだと、もう何百年も人界へ降りてないってことになる。

「なあ、ひとつ聞きたいんだが、人界へ降りられる場所はここ以外にあるのか?」


「ございます。儂はこの封印墳墓ふういんふんぼの管理者でございますが、他の場所にも同じように管理者が擬人の管理をしております」


 聞いたところ、このような場所があと三カ所あるらしい。

 各季節にひとつずつあるのかもしれない。


 俺は着流しを身に纏い、腰に剣を佩いた。

 剣は倉庫にあったものだ。


「剣というより刀だな。ないよりマシというレベルか」


 俺が以前使っていた『深海竜の太刀』は、日本の野太刀よりも頑丈だ。

 刀身が広く太く作られていて、力任せに振るっても折れない安心感があった。


 一方、倉庫にあった剣は厚みは半分ほど。

 しかも細いので非常に心許ない。


 履き物を探したら、靴やブーツは皆無。

 木靴があったが、それは見ないことにした。


 木靴を履いて蹴鞠でもすれば、どこぞの貴族みたいだな。


草履ぞうりか。これでいいか」


 わらを編み込んだ草履があったので、それを履くことにする。

 もしもこの姿で人界に降りたら、映画のロケと勘違いされそうだ。


「お着替えはよろしいでしょうか?」

「ああ、助かった。これで旅立てる」


「それはようございました。しかし、擬人に入られますと、普段と勝手が違って戸惑われたのではないでしょうか」


「そうかな? 多少不慣れな感じがするかな。でもその程度だぞ」

「他者の魔素が感じられませんし、自分の魔素すらもよく分からなくなるかと」


「? そうだな。それがどうした?」


「……普通、魔素量で相手や自分の強さを測っておりますので、それが分からなくなるのは不安ではございませんか?」


 どうやら、一般的な上位種族はそれだけで不安に思うらしい。

 俺は前から相手の魔素を測るのが苦手だったために、あまり変わったという思いがない。


 それに以前は『オレ』という存在が一緒にいたことで、自分や相手の魔素が掴みにくかった。

 かえって今の方が違和感がないかもしれない。


「その辺は気にしなくていいぞ。それより常夏の海岸までの道を教えてくれ」

「かしこまりました。お着替えの間に、道案内の者を呼び寄せておきました」


「それは気が利くな」

「何しろ、危険な場所に向かうのですから、なるべく道を知っている者を手配しました」


 連れていかれた先は、小部屋だった。

 そこで少年が片膝をついて俺たちを待っていた。


「この者は赤帽子族のジュガです。以前は常夏の海岸で暮らしていた者です」

「ジュガと申します。このたびは出陣と聞きまして志願しました。よろしくお願い申します」


「あ、ああ、よろしくって、出陣? ……どゆこと?」


 何か俺のこと、ひどく曲解していない?



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