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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第9章 異界の旅路編
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 ヤマトと会うには、このブロックを出て、冬か夏を冠するブロックを通過する必要がある。


 春→夏→秋→冬の順番に移動でき、逆回りも可能。

 秋から春へは直接行くことができないという仕様のせいだ。


「もう一度確認するけど、夏か冬のどちらかを経由すれば、ヤマト様のいる常春の野原へ行けるんだよな」


「その通りでございます。個人的にはお薦め出来かねますが」


「なぜ?」

「常夏の海岸は現在、ヤマト様に反抗する者たちが集まっております。かなりの危険地帯と聞いておりますので、上位種族といえども、擬人のままで通過は危険すぎるかと存じます」


 なんでヤマトの造った異界内に、ヤマトの反抗勢力があるんだか。

 反抗期の子供か?


「だったら、常冬の里村を通過すればいいんじゃないか?


「常冬の里村はあまりに厳しい環境ゆえ、通り抜けるだけでも、並大抵のことではございません。氷狼族ですらバタバタと凍死するようですので、擬人の場合ですと、すぐに動けなくなるかと存じます」


「……をい。なんでそんな危険なブロックがあるんだよ!」

「寒冷地を好む種族もございます故」


「氷狼族が凍死するんだろ。寒冷地ってレベルじゃねーぞ。なんでそんな場所を造るんだよ!」

「それはまあ、需要があるのかと」


「……ねえだろ」

 あってもごく一部だと思う。


 話を聞く限り、冬のブロックはやばい。

 行くなら夏だろうが、反抗勢力がどのくらい危険なのかが分からない。


「ここはヤマト様が造った異界だよな。それなのに、反抗勢力がいるのか?」


「はい。ヤマト様は人間と敵対するのを良しとしません。ところが種族の習性といいましょうか。戦わずにはおられない方々もいらっしゃいます。ですので、ヤマト様は人間との接触をお認めになりませんでした」


「なるほど、それで対立しているのか」

 一発で理解した。


 魔界の住人は、戦わずにいられるほど穏やかな連中ばかりではない。

 ヒャッハーが生きがいだってのはどこにでもいる。


「この異界には人間はいないよな」

 魔素が満たされているし、人間が生存できる環境ではないだろう。


「儂の知る限りでも、人間がここへ来たことはないと思います」

 やはりだ。この異界には人間はいない。いるのは、魔界の住人のみ。


「こんな異界を造れるのだから、人間が住める環境を整えることだってできるだろう?」


「ヤマト様でしたら可能だと思います。ただ、この異界を造った理由が、人間との接触を避けるためでしたので、そのようなことをするつもりはないものと考えられます」


 あえて魔界の住人専用の異界を造って、その上で人間との接触を避けさせている。

 つまり隔離したいわけだ。


「それはいつ頃からの話なのだ?」

「昔からそうだったと聞いております」


 何か問題があって隔離したのではなく、最初からか。

 やはり、何か意図があるのだろう。


 天界の住人が魔界に来ると、力や能力はほぼ半分になる。

 聖気を糧とする天界の住人にとって、魔素は毒だからだ。


 魔界の住人が天界に赴けば同じようになる。

 一方、人界はというと、俺の予想が正しければ、人界の大気は毒にはならない。


 そのかわり糧となる魔素がないため、力はやや落ちると思える。

 天界の住人も、魔界の住人も七割くらいの力しか出せないのではないかと思っている。


 このようなデメリットも存在するが、魔界の住人を人界に行かせず、隔離する意味にはならない。

 異界を造った理由は、この辺に答えが隠されているように思える。


「そういえば、俺の姿は人間そっくりだよな」


「それはもちろん擬人ですから、人間と見分けがつかないよう造られております」

「そういえば、人界に降りるために人に似せて造ったって話だよな。擬人状態ならば、いいのか?」


「はい。擬人は魔素を放出しませんので、人間に違和感を与えずに存在できます」

「つまり見た目だけでなく、雰囲気も人間に似せるわけか」


「そのとおりでございます。その分、『かりそめの器』に入りますと、身体の外の様子が把握しづらくなります」


「身体の外……ああ、魔素で相手を見ることか」


「はい。いまあなた様は、魔素の感覚を掴むのが難しいのではないでしょうか。これは外に発する魔素を完全に遮断しているからになります。いまは周囲に魔素があるからよいですが、その状態で人界へ赴きますと、すべて擬人の能力内でしか力を発揮できなくなります。簡単に言いますと、人界では人間並の力しか出せません」


 上位種族にとって、それは致命的ではなかろうか。

 そんなデメリットばかりで、人界に行きたいという酔狂な者はいるのだろうか。


 力こそすべてと考える魔界の住人の中で、とくに上位種族はその傾向が強い。


「ちなみに今の俺ならば、人界へ行くことも可能なのか?」

「はい、この封印墳墓から行けます」


 どうやら人界に行けるらしい。ちょっと行ってみるか?


「人界を十分堪能したら、ここに戻ってくることは可能なんだよな」

「行くことは可能ですが、戻れるのかどうか……本体と擬人は、本来魂で繋がっておりますので」


「どういうこと?」

 聞いてみると単純な話で、この擬人を使えるのは上位種族のみ。


 通常は、魂を器に移すのも難しいらしい。

 弱い魂だと、途中で損傷したり、擬人の中で劣化したりするのだとか。


 それで、本体から擬人に魂が移ったとしても安心はできない。

 いま言われたように、擬人の身体は魔素を外に漏らさない。


 今まで魔素を通して周囲を判断することに慣れているため、かなり戸惑うことになるようだ。


 擬人は非常に扱いにくい身体。それが上位種族の共通した認識だという。

 そして最大の問題。


 この状態で人界に降りると、魔素は一切使えない。特殊能力もだ。

 肉体強度は、擬人が本来持っている強さ――通常の人間とまったく同じになる。


 これは上位種族であればあるほど、困惑を伴うことらしい。

 ためしにと人界へ降りた者も当初はいたらしいが、みなすぐに戻ってきたという。


 そりゃそうだと思う。


 彼らがどうやって戻ってくるのか。

 それは魂が本体に引かれることで異界へと導かれるのだという。


 俺が目を覚ましたときに寝ていた台座。

 擬人の中に魂が入っているとき、本体はあそこで寝ているのだそうな。


 その間は劣化しない。

 擬人を長年置いておけるくらいだから、そんなことも可能だろう。


 本体が台座にあれば、魂はそこへ戻ろうとするため、人界へ降りていった者たちが戻って来られるのだという。


「それ、俺の場合、無理じゃね?」


 本体は魔界にあるし、すでに死亡ずみ。

 戻るべき本体がなければ、ずっと人界のままだ。


「というわけですので、気軽に降りられるつもりでしたら、再考された方がよろしかと思います」

「……そうだな」


 ただの人間の身体になって人界に降りたが最後、そのまま戻ることができなくなると詰む。

 何しろ一文無しの上に、戸籍すらないのだ。


 早晩行き詰まって犯罪に走り、いずれは捕まって余生を刑務所で過ごすことになりそうだ。


「人界に降りるよりもヤマト様に会う方がいいな」

 まずはそれからではなかろうか。



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