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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第9章 異界の旅路編
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 レンオルム族のボージュンと名乗ったその男は、俺の目の前でふよふよと浮いていた。

 見たところ、身体の長さは三メートルほど。ラミア族よりもやや小ぶりといった感じだ。


 ボージュンの顔には、白い髭がたっぷりと蓄えられている。眉毛も白い。

 顔には深いしわが幾重にも走っており、かなりの高齢であることがうかがえる。


 顔や全体のフォルムは、東洋の龍に近い。願い事を叶えてくれそうなタイプだ。

 だが龍や竜と決定的に違うのは、手足がないことだ。


 蛇やワームと同じタイプ。

 竜種ではなく、亜獣あじゅう種だと思われる。


「冥界というのは、魔界、天界、人界で死んだ魂が集まる場所だ」

 そんな説明をしていて気が付いた。


 そういえば魔界でも、冥界の存在を知っている者は少なかった。

 上位種族のごく一部の者くらいだろうか。最近まで俺も最初知らなかったし。


「死んだ魂が集まる場所……それが冥界でございますか。そのような世界があるのですね。そしてあなた様はそこから来たと」


「そうだ。反対に俺が聞きたいんだが、ヤマト様というのは、小覇王ヤマト様のことか? はるか昔に行方不明になったあの……」


「ヤマト様は儂らの祖先を守るために、この異界を造ったお方でございます。儂らは始祖ヤマト様とお呼びすることはあります。ですが、小覇王は存じない呼称でございます」


 小覇王を知らないのか? 魔界では小魔王や魔王と並んで、小覇王の存在を知らないことはあり得ない。

 何だか、話が噛み合わない。


「そもそもここはどこなんだ? いや、この場所じゃなく、世界のことだが」


「これは異な事を……ここはヤマト様がお造りになった異界『四季の庭(ザ・ガーデン)』でございます。人界とはまた別のことわりが支配する場所でございますが」


「人界? ここは人界なのか? 魔界ではなく?」

「はい。正しくは人界の中にヤマト様がお造りになった『異界』でございます。魔界は儂どもの故郷でございますが、戻ることは不可能と聞いております」


「……マジか」

 なんとなく分かってきた。


 俺がボージュンに担がれているのでなければ、ここは本当に人界なのだろう。いや、異界と呼ぶべきか。

 冥界を抜けた俺の魂は、天界でも魔界でもない、人界に転生したというわけだ。


(普通赤子に転生するよな。いまの俺は、成人男性のようだが?)


「どうされました? 何かお悩みでも」


「教えてくれ。いま俺の身体は――姿はどうなっている?」

「しっかりと動いております。機能に問題ないと思いますが、なにか?」

 だめだ、話が噛み合わない。


「この身体は人か? それとも何かの種族なのか? どっちなんだ?」

「いえ、どちらでもございません。あなた様はいま、擬人ぎじんと呼ばれる者になっております」


「擬人とは?」

「上位種族の方々が人に擬態するための『かりそめの器』にございます」


「上位種族」が「人に擬態する」ための「かりそめの器」って?

 やばいな。理解力を越えそうだ。


「すまんが、知識のすり合わせをしよう。俺の名前はゴーラン。かつては魔界にいた。そこで死んで、魂だけが冥界に行った。冥界はさっき説明したな。俺は転生したのかと思ったら、この擬人の姿でいるわけだ。いま俺は、かなり混乱している。何でもいい、この世界のことを教えてくれ」


「……はあ。説明するのは構いません。どこからお話しすればよいでしょうか」

「だったらまず、この異界について教えてもらえないだろうか」


「かしこまりました。異界についてでございますね。……大昔のことは伝聞でしか知りませんが、分かることをお話しましょう」


 こうして俺は、レンオルム族のボージュンから異界の成り立ちについて話を聞くことになった。


 結果、それなりに衝撃的なことが分かった。


 ここはやはり人界らしい。人界の中に造られた異界。


 人界には人間が住んでいるが、人間はこの異界のことを知らないという。

「人界に降りる方々には、異界のことを人間に告げないよう厳命しております」


 だれが厳命するのか。

 ここの管理者と名乗ったボージュンがその都度、伝えるらしい。


 ボージュンはこの封印墳墓の管理者に就任してから四百年ほど。

 建物と擬人の管理をしている。あと百年は現役で勤めを果たすつもりらしい。


 ちなみにボージュンの言う「ヤマト様」とは、おそらく小覇王ヤマトのことだと思う。

 千年くらい生きる長寿の種族ですら、物心ついたときにはもう、この異界があったらしい。


 異界ができたのはそれより古く、少なくとも千五百年以上前。

 もしかすると、二千年以上も前になるのではないかということだった。


 それほど昔から生きていて、こんな大きな世界――異界を造れる存在など、魔界の住人の中でも、小覇王と呼ばれるヤマト以外あり得ない。

 ここが人界の中にあるのなら、まず間違いない。


 そしてこの異界。

 驚くことに、魔素で満たされていた。


 人界の中に、魔素で満たされた異界を造ることがどれほど大変なのか、俺には分からない。

 だが、こんなのを成し遂げるヤマトの存在は、まさに小覇王の名にふさわしいと思う。


 ボージュンの話は続く。


 なんでも四季の庭(ザ・ガーデン)と呼ばれるこの異界は、四つのブロックに分かれているらしい。

 それぞれが春夏秋冬の名を冠しているので、合わせて四季の庭というのだ。四季の庭を並べると下のようになる。


 常春の野原

 常夏の海岸

 常秋の山林

 常冬の里村


 異界をホールケーキと考えた場合、それを四等分して時計回りに春夏秋冬と当てはめると分かりやすい。


 と言っても、切り口が集まる中央の部分は入ることができないので、実際にはドーナッツ型の方が正しいようだが。


 ちなみにここは「常秋の山林」というブロックに属しているらしく、時計回りで考えると、三番目の地。

 暑くもなく寒くもない穏やかな過ごしやすい気候が特徴で、非戦闘種族も多く住んでいるらしい。


「ここが常秋の山林というのは分かった。それで、ヤマト様と会いたいんだが、どうすればいい?」


「そうでございますね。ヤマト様がおられるのは常春の野原です。かなり距離がありますので、お会いになるのでしたら、何日も旅を続ける必要がございます」


「すると、各ブロックはかなり広いのか?」

「そうでございますね。また、常秋の山林から常春の野原へは直接行けませんので、どうしても時間がかかります」


 そういえばそうだった。

 ドーナッツでいえば、真北から真南まで移動するような感じだ。

 地理的な繋がりがないため、他のブロックを通過する必要がある。


 ヤマトのいる常春の野原へは、常冬の里村か常夏の海岸からしか行けない。

 つまり俺は、常冬の里村と常夏の海岸のどちらかを通らねばならないらしい。


 意外と面倒だな、この異界。



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