表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第9章 異界の旅路編
293/359

293

 冥界より抜け出た魂が、しゅるしゅると転生への細道を辿り、世界を隔てている境界を越えてゆく。

 魂はまるで行列を待つかのように規則正しく並び、次々と新たな生への扉を開く。


 だがここに、とある嬰児みどりごに入ろうとして弾かれた魂があった。

 器にくらべて魂が大き過ぎたのである。


 器から弾かれた魂はフラフラと漂い、別の器の中に……入っていった。




「知らない天井だ」


 俺は目を開いた。

 記憶が混濁しているのが分かる。


(なぜ俺はここにいる? 何があった?)


 何度も頭を振って、思い出せる限りの記憶を引っ張り出した。


 俺の名前はゴーラン。

 オーガ族の若者だ……いや、違う。


「進化して、素盞鳴尊すさのおのみことになったんだった。それからどうしたんだっけ?」


 最後の記憶……たしか誰かと戦っていたはず。ああ、思い出せた。

「ネヒョルだ。アイツを見つけて、一騎打ちに持ち込んだ。それからどうした?」


 この辺から記憶が曖昧だ。

 勝ったのか? それとも負けたのか?


 戦いは断片的に覚えている。

 苦戦していた。


 俺はなぜか力が出せず、アイツを倒せるビジョンを持てないでいた。

「ああ、そうか」


 ――魔素喰い


 あれを使ったのか。

 だんだんと思い出せるようになってきた。


 聖気の塩を浴びて、魔素がかなり減ったのだ。

「あれは減ったというより、消されたといった方が正しいのかもな」


 魔素を使ったり、出て行った感覚はなかった。

 あのとき、魔素がその場で消滅したように感じた。


「だから魔素喰いか。土壇場で使うとは、いかにも俺らしい」

 魔素は劇薬。安易に取りこむべきではない。


 魔素喰いを使えるようになった俺は、ためしに同族の……サイファやベッカの魔素を吸収してみた。

 結果、もの凄い吐き気に襲われ、すぐあとで倦怠感がやってきた。


 他人の魔素は、そのままの状態で吸収しようとすると、身体が拒否するらしい。

 肺が水で満たされたような、普段とは違う異物としか身体が認識しなかったのだ。


「訓練で多少はマシになったが、完全じゃなかったんだよな」

 吸収と同時に魔素の性質を自分に合うよう、変換する必要があった。


 イメージとしては、交流を直流にする感じだ。

 はっきり言って、「これ、使う必要あるの?」と思えるくらい面倒くさい。


 その時点で俺は、魔素喰いを伸ばすことを止めてしまった。

 有用かもしれないが、ひどく面倒くさい技という位置に落ちついたのだ。


「結局、切羽詰まって使うことになったわけか。まあ、あれがなければ、負けていただろうから、結果オーライか?」


 どうやらある程度ものにできたらしい。

 それと記憶も戻ってきた。


 俺はネヒョルと戦い、最終的に首を刎ねて殺すことができた。

 回復特化のヴァンパイア族でも、頭を潰されれば生きていないだろう。


「あとはトラルザードがなんとかしてくれるだろう」


 あのバアさんのドアップには参ったが、戦闘に関しては他の追随を許さない存在だ。

 きっと上手く収めてくれたはずだ。


「そして『オレ』か……」

『オレ』の最期は、否応なく思い出す。


 首だけになったネヒョルが噛みついてきたとき、もの凄く嫌なものが体内に入ってきた。


 あれは猛毒。

 詳細は分からないが、一部のヴァンパイア族が持つ、固有の毒ではないかと思われる。


 それを喰らって俺――俺たちは死んだ。


 そのままならば、俺たちの魂は冥界に向かい、長い刻を経て魂が浄化され、どこかへ転生していく。


 聖気の塩によってすでに浄化されかかっていた『オレ』の魂は、冥界でそのまま転生への道を辿ることになった。


 魂の海の底にある細道。

 ぽっかりと口を開けた、転生への道標。


 俺がくっついていたばかりに、その道へ入ることはなかった。


 俺が離れれば、『オレ』の魂はそのまま転生への道へ進んでいくはずだった。

「俺が奪った形になるんだろうな」


『オレ』を切り離し、転生に向かったのは俺の方だった。

 おそらく『オレ』は今頃、転生へ通じる道に入っていることだろう。


「想い出を持っていってくれか……」


『オレ』の魂は浄化された。

 もう現世で出会っても互いに分からない。


「分かったよ、『オレ』の想い出はずっとここだ」

 俺は自分の胸を叩いた。


「……で、ここはどこだ? そしてこの身体はなんだ?」

 自分の身体を見下ろした。服を着ていない。裸だ。


 頭を触ったら、鬼種特有のツノがなかった。

 身体つきもやけに貧相になり、魔界の住人特有の『魔素を持っている』という感覚も希薄になっている。


「なんだか、この姿はまるで人間みたいだよな」

 石の台座に寝かされたいたようで、背中が痛い。こんなところも人間っぽい。


「隣で寝ているのは……女?」

 二十代半ばくらいの人間の女性が、同じように石の台座の上に寝かされていた。


 周囲を見る。ここは軽く装飾が施された、石造りの建物だ。

 室内なので、ここがどこだか分からない。


「裸でも寒くないってのはありがたいな」

 俺は台座から降り、隣の女性の頬をつついてみる。


「まったく反応がない。生きているのか、死んでいるのかも分からないか」

 女も裸だが、それはいい。


 ここはどこなのかが、もの凄く気になる。


 この部屋に窓はない。

 唯一あるのは、やはり石造りの扉だ。

 観音開きになっているタイプの重々しい扉があるだけ。


 俺は扉の取手を握った。

「ふむ……重いな」


 部屋が密閉されているような感じだ。

 俺は腕に力を入れて、扉を開いた。


 ――ピィシィイイ


 耳障りな破砕音を残して、扉は開いた。

 ぶわっと、外の風がなだれ込んでくる。部屋の中より生暖かい風だ。


「そして廊下か」

 まっすぐな廊下がずっと続いている。


 壁も天井も床もすべて石造りだ。

 俺は部屋を出て、廊下を進む。この先に何があるのか。


 すると向こうから、空中を泳ぐようにして蛇とも竜ともつかない生き物がやってきた。

 頭を上下に揺らしながら空中を泳ぐ姿は、魔界でたまに見かける種だ。


「これはこれは、どちら様がお入りになったのでしょうか。儂は封印墳墓ふういんふんぼの管理者であるレンオルム族のボージュンと申します」


「はっ? 封印墳墓? なにそれ?」

「封印墳墓をご存じないとは……あなた様は、どちらよりお越しになったのでしょうか」


「どちらって、俺は……冥界からかな?」

「冥界とは一体どこのことでございましょう。もしかして、ヤマト様が新しい異界を造られたのでございましょうか?」


「えっ? ヤマト様?」


 どこ、ここ?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ