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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第8章 屠所の羊編
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○魔王トラルザード


「何だ、この音は?」

 魔王リーガードとの決戦に向かう途中。

 今夜の野営準備を終えたところで、林の方から戦闘音が聞こえてきた。


 ――ちゅどーん、ちゅどーん、ちゅどどどーん


 かすかにそんな音が聞こえてくる。

「この着弾音は……魔法弾か? とすると、かなり大規模な戦いだわ」


 野営前に斥候を出してある。

 その者が小競り合いを始めたと思ったが、そうではないらしい。

 これはもっと大規模戦闘の音だ。


「だれか、林の奥へ兵を出すのだ! 数は多めだぞ」


 何が行われているか確認せねばなるまい……最初に放った斥候は少数。

 すでに消された可能性がある。



 しばらくして様子を見に行った者が戻ってきた。

 戦闘中らしく、中に入って確認まではできなかった。

 どうやら、ふたつの勢力が戦っているらしい。


「たまたまこの地で偶発的な戦闘が起こるとは思えん。直属をつれて、我が向かうぞ」

 考えられるのは、魔王軍だが、国境からここまで何の情報もないのはおかしい。


 そもそもリーガード本人が国境を越えて来たのだから、戦力はそこに集中させているはず。

 自身を囮と使う性格ではないので、別働隊を派遣するとは思えない。


 それに、ここは我が国内だ。さすがに軍団規模の勢力を見逃すとは思えん。


 もうひとつの可能性。

 それは、最近目撃情報が増え始めたワイルドハントだ。


 あれはどの国も手を焼いている。

 神出鬼没の集団ゆえに、誰にも気付かれずここまでやってきた可能性は高い。


「一方がワイルドハントの可能性は高い……とすると、もう一方はどこだ?」

 この辺にいる味方はすべて把握している。


 我が国内で、未知の勢力などそうそういてたまるものか。

 どの勢力が戦っている?


「準備ができ次第、向かうぞ!」


 斥候からの報告では、それなりの数が確認されていた。

 魔法弾の直撃を受けないよう、林の奥から様子見しただけらしいが。


 我が部下を引き連れて急行したときには、もう両軍が入り乱れていた。

 襲っているのはオーガ族。


「えっ!?」

 我は目をしばたたいた。


「なぜオーガ族が!?」

 戦場の肉壁……も、もとい、オーガ族が縦横無尽に暴れ回っている。

 死神族のフォローが上手いからか、強者相手に、押し気味に戦っている。


「こんなこと、ありえるのか?」

 到着早々驚きが大きすぎて、指示が遅れてしまった。

 我は反省し、すぐに気を引き締めた。


「ひゃっはー!」

「ひゃっはー!」

「ひゃっはっは-!!」


 オーガ族がゴキゲンで戦っている。


「相手の種族構成は、報告にあったワイルドハントにそっくりだ。まずはそれを排除せよ!」

 部下たちが殺到する。


 我が国内の村や町を襲いながら北上してきたワイルドハント。

 目撃情報は数あれど、こちらが先に発見できたことはない。


 それが今、目の前にいる。


 部下たちが突撃したのを見届け、我はもっと奥に向かった。すると……。


「ゴーラン、なぜお主がここにおる!?」


 敵の一体を踏みつけたまま、我は固まった。

 神出鬼没のワイルドハント以上にゴーランの行動が理解できん。


 ゴーランが、ここ(・・)にいるはずないのだ。

 我は足に力を入れつつ、考えを巡らせた。それと足下のコレは何だ?


(ゴーランは自国に帰還すると報告に来たおり、ワイルドハントの情報を聞いた。その後は我が町で大人しくしていた……はずだが)


 我が出征する直前、ゴーランは町中にいると報告があった。

 何か画策しているようにも見えなかった。


(おかしい……)


 我が軍がここにいることは知らないはず。

 ワイルドハントがここにいることもだ。


(分からない……なぜゴーランがここでワイルドハントを襲っているのか……いや、襲えるのか、皆目見当がつかない)


 どうやって情報を得たのだ?

 他国でそんな諜報活動ができるのか?


 神出鬼没のワイルドハントを逆に襲うなどということが可能なのか?

 分からないことだらけである。


 驚く我を尻目に、ゴーランはワイルドハントの首領ネヒョルに一騎打ちを申し込んだ。

 ゴーランは剛の者……どちらかというと無茶し過ぎな者という印象を受ける。


 通常、こんなことを繰り返せば、成長する前に死ぬか大怪我をしてお終いになる。

 改めて考えるとおかしい。

 よく生きておるな。


「我が見届けよう」

 気がついたら、そう叫んでいた。


 ゴーランとネヒョルは元上官と部下の関係らしい。

 色々と因縁があるようだ。


 この下克上がどうなるか、我も興味がある。

 どのみち我が国内を荒らし回ったネヒョルは倒さねばならぬ。


 ゴーランが負ければ我が向かうまで。

 それまでは手を出さずにおいてやろう。


(しかし……周囲の屍の山はなんだ?)


 周辺にある死体はみな苦悶の表情を浮かべている。

 我が到着するまでに一体何が行われたのか……。




 ゴーランとネヒョルの戦闘は一進一退……のように見えるが、ゴーランの様子がおかしい。


 どうも、身体のどこかが悪いようだ。

 力を温存しているのかと思ったが、何か変だ。


 力が使えないのだろう。

 これは下克上を行う上で、最悪の状況ではなかろうか。


 ゴーランは何を考えて、戦いを挑んだのか。


「なんだと!?」


 戦いを見ていて驚いたのはふたつ。

 ひとつは、ゴーランの技量の高さ。


 力をほとんど使わずに、強者の攻撃をしのいでいるのだ。

 あんなことができるとは、我は長い時を生きても知らなかった。


(力を受け流す……?)


 一見すると、軽く手を添えているようにみえるが、そうではない。

 高度に計算された動きで、相手の力を反らしている。


 戦いを計算することは我でもできんぞ。

 力で押し切るのが正解だとずっと思ってきた。


(だが、そうではない力の使い方があるわけか)


 もしあのような技が誰でも使えれば、強者がひっくり返ることが往々にして起こりえる。


(もっとも、やろうと思ってもできないだろうが)


 結局、相手と自分の動きを完全に理解しなければ不可能そうだ。

 見よう見まねでやったところで、表面を真似るだけしかできそうにない。


 そして驚愕したふたつめ。


「魔素を吸収した?」


 あれはかつて、小覇王ヤマト様が使っていたもの。

 種族の類似性からもしかしてと思い、伝えるだけは伝えていたが……よもや使うことができたとは。


(ヤマト様は手の平から吸収していたが、ゴーランの場合は両手で挟み込まないと吸収できないようだな)


 それでも驚愕に値する。

 何しろ魔界の住人は、内包する魔素量で強さが変わり、それをどう使うかで戦いに勝ち抜いてゆけるか決まる。


 相手の魔素を吸収し、自分のものとできるならば、永遠に戦い続けられる。

 そもそもどんなに強大な力を持った相手であっても、魔素を吸収しながら戦えば、最後は勝ち得ることができてしまう。


「……ゴーラン、恐ろしいやつ」


 まさかという言葉以外、出てこんわ。


 何度かネヒョルの魔素を吸収し、それを自分のものとしたゴーラン。

 魔素を奪われると分かってからは、ネヒョルがかなり戦いにくそうだ。


 このままゴーランが押し切るか……と思ったが、ここで戦況が動いた。



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