表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第8章 屠所の羊編
287/359

287

 あらためて見ると、周囲は凄いことになっていた。


 バタバタと倒れて、そのまま息絶えた者が周辺に散らばっている。

 俺のせいじゃない。


 その少し外側には、いまなお苦しんでいる者たちが、絶望の表情でのたうち回っている。


 これをもたらした元凶はというと……全滅していた。


 黒い箱を持ったまま、全員息絶えていた。

 聖気の塩を至近距離で浴びたのだろう。


 倒れ伏して、ピクリとも動かない。

 聖気の塩は魔界の住人にとって猛毒。

 ずいぶんと鬼畜な手段を考えついたものだ。


「これをトラルザードにやるつもりだったわけか」

 魔王相手にどう戦うのかと思ったが、奥の手があったわけだ。


 いかな魔王とてこれを喰らえば、かなりのダメージを受けたはずだ。

 最悪、何もできずにネヒョルに狩られたかもしれない。


「全身に浴びてもなんともないって……心底不思議なんだけど、どういうこと?」

「日頃の行いがいいからじゃないか?」


 魔界の住人の中にあって、俺くらいモラリストはいない。

 うん、嘘は言っていない。


 まあ、こんな軽口を叩けるのも今のうちだ。

 身体に力が入らないのは本当。


 これは少々ヤバい事態だ。

 ゆっくりと身体を動かすとよく分かる。


 力が入らないばかりか、関節まできしむ。

 風邪の症状そのままだ。本当に風邪じゃないだろうな。


 一方のネヒョルは、聖気の塩の影響をまったく受けていない。

 そのかわり、俺から距離を大きくとった状態のまま、近寄ってこようとしない。


 俺……というか、聖気の塩を警戒しているのが、ありありと分かる。

 激昂していた状態から醒めて、いろいろ考えたようだ。


 いつもの俺なら、大口を叩きつつ「このまま逃げてくれねえかなあ」と考えたりするが、ここでネヒョルを逃がすと、もう会えない気がする。

 こっちの状態はよくないが、どうしても今日、ここで決着をつけたい。


 逆にネヒョルは、打つ手がなくなったことで、逃走にはいることを視野に入れたと思う。


 聖気の塩があれば、他の魔王を襲ってもいいのだ。

 おそらく、今回ここに来たのは、一番与しやすしと考えたからだろう。


 よほどのことがないかぎり、アクティブに動かないと判断したのかもしれない。

 得てして魔王にまで上り詰めると腰が重くなると思うが、年齢からいって、トラルザードは狙いやすいはずだ。


 だがそうだとすると、困ったことになる。

 いまネヒョルに逃げられたら、もう追いつけない。

 そしてどこかの国の魔王が狙われる。


「さあ、続きといこうぜ!」

「…………」

 俺が挑発しても、ネヒョルは乗ってこない。嫌な傾向だ。

 大股で近寄ると、逆にネヒョルは距離を取った。


「どうした? こっちに来いよ」

「そんな聖気の塩まみれのゴーランに近寄りたくないじゃないか!」


 なるほど、それはそうか。

 聖気の塩はまだ俺の身体についている。


 ネヒョルを逃がしたくないから、腕で塩を払った。

「さあ、これでいいだろ」


 俺がそう言っても、警戒したままだ。

 攻めてくる気配がない。


(ヤバいな。これは逃げられるパターンか?)


 戦った場合、力の入らない俺の方が不利なのだが、ネヒョルがそれを知っているとは思えない。


 いまのネヒョルをみていると、逃走準備しているようにしか見えない。

 さてどうしよう。俺が歩を進めると、ネヒョルは下がる。


「ちゃんと戦おうぜ」

「…………」


 困った。もう、答えやしない。

「チィ!」


 俺は六角棍を構えて重心を下げた。

 ここからは一気に行く……と思ったら、俺とネヒョルの間に何かが転がりこんだ。


「なんだ? ……って、サイファか?」


 ゴロゴロとやってきて、俺たちの真ん中で止まったのはサイファだった。

 大の字に寝てしまった。気絶したのだろう。


 全身に切り傷を負っていることから、レグラスと戦っていたらしい。


「ネヒョル様」

 やってきたのは、緑色した虫みたいな奴。レグラスだ。

 やはりサイファはレグラスと戦っていた。


 レグラスを見たら、片腕がない……みたところ、怪我はそれだけだ。

 サイファの方が酷い状態だ。


 サイファとベッカが向かっていっても、レグラスには太刀打ちできなかったようだ。

 あの二人も進化してかなり強くなったが、上には上がいたようだ。


「これで二対一になったか」


 俺の方から言い出してみると、ネヒョルの表情が変わった。

 少しはやる気になったか?


 そういえば、ヒャッハーたちはどうなった?

 すっかり忘れていた。


 周囲を見てみると、オーガ族が好きなように暴れている。

 種族的能力値の差で、通常なら大負けするところだ。


 だが、死神族がよくフォローしてくれている。

 オーガ族と死神族。意外と、いいコンビなのかもしれない。


 オーガ族は耐久力だけはあるから、壁役にピッタリ。

 一方、死神族は上位種族の中でも耐久力はかなり低い方。


 死神族は何かに隠れて、魔法を撃つような戦いに向いている。

 オーガ族がヘイトを溜めている間に、上手く立ち回っている感じだ。


 ワイルドハントの連中は強いが、互角かこちらが押している状態だ。

 ここでネヒョルを下せば、戦況は決する。


「俺は二対一でも構わねえぜ。掛かってきな」

 敢えて挑発すると、レグラスが乗ってきた。


「ネヒョル様、こやつは私が相手をします」

「ほう……大した自信だな」


 なんか俺が偉そうに言っているが、力が入っていないのでただの虚勢だ。


 相手は片腕がないし、戦ったら互角か?

 ただ、戦い始めれば、力の減衰がすぐにネヒョルにバレる。


(うーん、どうしようか)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ