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俺が立ちふさがったことで、ワイルドハントの連中の意識が完全にこっちに向いていた。
それは正しい。
ここにいるのは俺だけ。
そして片手間に俺と戦えるほど、こいつらは強くない。
全力で排除しにくるのは想定内。
「だけど、状況は刻一刻と変わっていくもんだぜ」
こいつらに見つからないよう、俺は部隊を遠くに置いてきた。
ただし、戦闘が始まったら、魔法を撃ち込むように伝えてある。
つまり……俺の作戦勝ちだ。
――ちゅどーん
――どどーん
魔法弾が炸裂した。
遠距離から振ってくる魔法弾は、ラミア族が放ったものだ。
ラミア族は、デカい図体の割りに魔法が得意。
ラミア族といえば、獲物を蛇の胴体で締め付けて、頭からがぶり。
毒で仕留めるんじゃないのかと思ったが、魔法で殲滅した方が楽らしい。そりゃそうだ。
――どっかーん
そのため、今回の作戦では、ラミア族に固定砲台をしてもらった。
奴らは慌てて周囲を探っているが、そんな近くにはいない。
この魔法弾は矢と同じだ。
弧を描いて遠くまで飛ぶ。
こんな林の中じゃ、発射元を見つけられる訳がない。
「つぅわけで、プレゼントフォーユーだ。存分に堪能してくれよ」
俺は早々に距離を取っている。巻き込まれては敵わないからだ。
「散れ!」
敵部隊の中から、そんな命令が何度か出された。
この魔法弾。
飛距離と威力は凄いが、命中精度はあまり高くない。
それでも周辺を焼け野原にするくらい、数を揃えられた。
少々散ったところで、いつかは直撃する。
敵の腕が吹き飛ばされ、ちぎれた足が宙を舞う状況を、俺は腕を組んで眺めている。
「さあ、逃げろ逃げろ……もっと逃げてしまえ。くっくくく……」
おっと、悪役みたいな笑い方になってしまった。
今の俺は悪を懲らしめる正義の味方の心境なのに……いけない、いけない。
俺が見るに、このワイルドハントの面々。
防御力が高い。
直撃しても手足を一本失うくらいで済んでいる者がほとんどだ。
「オーガ族なら一撃で消し炭だぜ。不条理だよな」
奴らは腕を一本飛ばされても、そのまま平気で逃げやがる。
まったく、なんてタフさだ。
「そんなやつには、第三弾をプレゼントだ」
魔法の飛来が止んだ。
魔素切れではなく、一定時間が経過したら止めるように言い含めておいた。
ラミア族はそれを忠実に守ったようだ。
なぜならば、次にやってくるのは。
「ひゃっはー! 消毒しちまえぇ!!」
空から脳筋族……も、もとい、ヴァンパイア族がやってくるからである。
「俺たちゃ、無敵のヴァンパイア族。戦場では前進あるのみ!」
「敵はすべて、ぶっ殺せ。死地の中へでも、前進あるのみ!」
「ついでに味方もぶっ飛ばせ。味方を押しのけ、前進あるのみ!」
変な節をつけた連中が暴れ回っている。
とりあえず、味方は避けような。
俺はこのヴァンパイア族がちゃんと待っていられるか、心配だった。
駄目ならば、「ハウス」を申し渡すところだった。
ともすれば防御無視の特攻を仕掛けかねない連中を制御するのは、並大抵の苦労ではないのだ。
奴らには、言い聞かせて、力で思い知らせて、だめ押しの念押しをするくらいで丁度いい。
「……どうしてこうなっちゃったんだろうな」
ヴァンパイア族と脳筋は、相容れないはずなんだが。
これは魔界七不思議のひとつだな。
残り六つは知らないけど。
ともかく上位種族のヴァンパイア族が、脳筋オーガ族もかくやとばかりに突撃を敢行した。
先のラミア族の魔法弾で大地が焼け焦げている。
奴らの姿を隠していた林は、見る影もない。
そしてここが大事なところ。
「……いい具合に散ってくれたな」
魔法弾を避けるために、めいめい距離を取ってしまった後である。
そこへヴァンパイア族が襲いかかったのだ。
「やっちまえー!」
爪を振るい、敵の首を一瞬で刎ねる。
上位種族のヴァンパイア族は、個々の戦闘力がやたらと高い。
こういった乱戦では、個の力が重視される。
そこかしこで敵の首が舞った。
「ダメージが酷い者から狩られているのか。これはいい連携になるな」
遠距離から魔法を撃って、敵陣が乱れた直後に上空から強襲させる。
戦術パターンのひとつとして、今後も訓練を続けさせよう。
個々の戦いを見ていると、どの戦場でもヴァンパイア族が圧倒していた。
だが、ネヒョルがいる一角だけは違った。
ネヒョルとその側近がいるのだろう。
あそこだけは無傷で残っている。
「そろそろ第四弾……には早いもんな。ちょっくら、行ってくるか」
行ってくる? いや、言ってくるの方か?
俺は戦場を進み、戦っている連中をかき分けて敵隊列の中まで入った。
「てめえらぁ!」
ここで大声を出す。
「「「うぃーっす!!」」」
うん、よく訓練されている。
なぜだろう。オーガ族を率いている気分になる。
「蹂躙しろっ!!」
「「「うぇーっす!!」」」
綺麗な唱和が返ってきて、ヴァンパイア族の勢いが増した。
俺は周囲の敵の首を刎ねながら、もっと奥を目指す。
さあ、俺たちの距離が近づいて来たな、ネヒョルさんよ。
俺は歯をむき出して笑った。
○ワイルドハント ネヒョル
魔王トラルザードの天幕を急襲しようと軍を動かしたら、前が詰まった。
「……ん?」
闇走族の『共隠れ』は効果を発揮しているから、敵の斥候が周囲にいても発見される可能性は低い。
先に見つけて排除しているはずだ。
「敵の斥候が多かったのかな?」
戦闘音が聞こえてきた。やはりそうだ。
どうやら、トラルザードは慎重な性格らしい。斥候を周囲に多数配置していたのだ。
しばらく待った……が、一向に前に進む様子はない。
「あれれ? レグラス、見てきてくれる? ボクの背じゃ、見えないし」
「畏まりました、ネヒョル様。少々お待ち下さい」
隠れやすい場所を選んだため、周囲の木々が視界を邪魔している。
レグラスが確認に向かったそのとき、『共隠れ』の効果が切れた。
「えっ? まだ早い」
同時に、前の隊列が大きく乱れた。
兵が左右に割れ、たまたま前が見通せた。
そこに信じられない者の姿があった。
「ゴーラン!? どうして?」
ゴーランがこんなところにいるはずがない。
つい最近、小魔王キョウカの所で出会ったばかりだ。
「どういうこと!? ……いや、ゴーランがここにいるってことは、またボクの邪魔をしに来たってこと?」
『共隠れ』が解除された以上、早急にゴーランを排除する必要がある。
「あいつを囲んで!」
そう告げた瞬間、空から魔法弾が降ってきた。
大量の魔法弾は、隊列のそこかしこに着弾する。
大木が一瞬でコナゴナになる威力だ。
それでも即死を免れる者は多い。
このくらいなら、まだまだ戦える。
「でも、数が多い」
どこから撃っているのか分からなかった。
魔法を撃つ者が、四十か五十はいるだろう。どこから連れてきたのか。
「レグラス、散開させて!」
固まっていては駄目だ。まず魔法の範囲外へ逃げなければ。
「分かりました」
レグラスもこの場にいる危険性が分かったらしい。
「くぅ~、ゴーラン。もしかしてやってくれた?」
罠を張っていたらしい。
行動が読まれていたことになる。
以前からゴーランはオーガ族らしくないとは思っていたが、こんな芸当もできるらしい。
「散れ!」
レグラスの声が響く。
魔法部隊をどこかに伏せさせていたのだろうが、これさえ凌げば問題ない。
トラルザード軍には気付かれるが、仕方ない。
まずはゴーランを仕留めに行こう。
「道を空けて!」
そう叫んだとき、不意に魔法弾が止んだ。
「……魔素切れ?」
ならば好都合。これでゴーランを狩れる。
「ヒャッハー!」
喜んだのも束の間。
ヴァンパイア族が空から特攻を仕掛けてきた。
「なぜヴァンパイア族が?」
まったく意味が分からない。




