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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第8章 屠所の羊編
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○??? ????


 そこはトラルザード城外苑の中でも、だれも寄りつかない一角。


 城の陰に隠れ、日中でもほの暗い場所である。

 建物と建物の間の細い通路が続いた先に、普段使われていない小さな建物があった。


「くっ……ふふふふ」

 押し殺した笑い声が、その建物の中から響く。


 夜になるとここは、完全な闇に閉ざされる。

 外灯もなく壁を登る者がいたとしても、だれにも気付かれない。


 そもそもこのような奥にある場所は、城で働く者すら知らない者が多い。


 陽が完全に没し、周囲が暗くなると、建物の中からその者は現れた。

 迷いなく通路を進み、ふと壁を見上げる。


 城の壁の高みに小窓があった。


 ヒョイッと壁を伝い、スルスルと登っていく。

 瞬く間に小窓にたどり着くと、そのまま中へ消えていった。



 ……しばらくして。


「なるほどなるほど……」

 満足そうな声が聞こえた後、その者はそっとその場を離れた。


 その者が離れた場所こそ、魔王トラルザードと軍師セイトリーの密談部屋の隣だったのである。




○魔王トラルザードの城 トラルザード


「そうか、リーガードの奴がやってきおったか」

 南から上がってきた報告に、トラルザードは目を細めた。


 魔王同士の戦いは熾烈を極める。

 自軍にも大きな被害が出るため、簡単に戦ってよいものではない。


 よほど追い詰められるか、最終決戦とならない限り、軽々しく出てきていいものではない。


 もちろん腰の軽い魔王はいる。

 だが、魔王リーガードは、そういうタイプではないとトラルザードは思っていた。


「魔王が直接出てきましたので、他の者では足止めが精一杯でしょう」

「そうであろうな。リーガードめ、何を考えておるのやら」


 忌々しげに呟くトラルザードだが、セイトリーは冷静だった。


「恐らくですが、わが国が東西で戦ったことが大きいかと思います」


 セイトリーの意見はこうだ。

 もし、トラルザードがリーガード領へ攻め入る場合、どのような理由が考えられるか。


 それはもちろん、リーガードが大魔王へ至るために、活発に動き出したときである。

 その場合、トラルザードを喰って大きくなることは想像に難くない。


 リーガードにその兆候が見えた瞬間に、トラルザードは決断するだろう。

 今こそ雌雄を決するときだと。


 リーガード領とトラルザード領は接しているが、他にも多くの小魔王国が周辺に点在している。


 リーガードが大魔王へ至ろうとするならば、十を越える小魔王国を併呑しようとするだろう。

 それで力をつけ、トラルザードへ挑む。


 一方のトラルザードは、そうはさせまいと、リーガードが小魔王国を襲い、国を留守にしている間に城まで攻め上り、配下を蹂躙しに向かうはずである。


 少しでも強くあろうとするリーガードに対して、その力を少しでも削ごうとするトラルザードという図式が完成する。


「もしかして、我が大魔王への野心を露わにし、動いたと思ったのか」

「ではないでしょうか」


「ふーむ」

 トラルザードは考える。


 西と東へ積極的に軍を派遣した。北の魔王軍とも戦った。

 トラルザードとしては、売られた喧嘩を買ったに過ぎない。


 だが外から見た場合は、どうだろうか。

 全方位に喧嘩を売っているようにしか見えない。


 危機感を抱いたリーガードが先手を打ったのではないかと、セイトリーは言うのである。


「それで本人が出張ってきたわけか」

「理由はどうあれ、倒さねばなりません」


「そうであるの。まったくめんどうだわ。……して、セイトリーよ、何か策はあるのか?」


「リーガードの目的によって、こちらの打つ手が変わってきます。単純にリーガード本人が軍を率いて、わが国を攻めたのでしたら、どうとでも対処できます」


「そうであるな。こちらは全兵力で当たればよい」

「ですが、戦力を削りに来たのか、直接陛下を討ちに来たのか、それとも誘いに来たのかまだ分からないのです」


「誘い……もあると?」


「可能性はあります。これまで西と東、それに北に派兵いたしました。ならば南にもとリーガードが考え、誘いにきたのかもしれません。こちらが迎撃に向かえば、リーガードは自領へ引く可能性もあります」


「そして我が追いかけ、国境を越えると……」

「包囲殲滅の罠が出来上がっているかもしれません」


 机上では冷静に判断できるものの、いざ戦場だと様子が違う。

 敵が逃げれば追いかけるし、途中で罠と気付いても、引き返せない場合もある。


 とくに竜族は戦いになると、相手を殲滅するまで止めない。止められない。

 誘いに乗ってしまうことは十分考えられた。


「なるほどのう。セイトリーはどう思う?」

「情報が足りませんので、なんとも。ですが今回のこと、リーガードを叩くよい機会かと思います」


「迎撃は変わらぬのか」

「はい。ただ、できればこの町の兵はなるべく残しておきたいと考えます」

「ワイルドハントの件だな」


「その通りです。城の守りにメラルダ将軍を据えればよろしいかと」

「うむ。では我は直属の部下のみを率いて向かうとするか」


「それでしたら、途中の町で増援と合流できるよう、手配しておきます」

「分かった。それでよい」


 その後も、魔王トラルザードと軍師セイトリーは、戦いの詳細を詰めた。

 トラルザードが軍を出発させ、街道を南下する感じになる。


 進軍を続ければ、三日後に城塞都市グエストに辿り着ける。

 そこで各所から集まった増援を加える……そんな作戦が完成した。


 これにより、トラルザードの親征が決まった。



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