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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第8章 屠所の羊編
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「しばらくこの町に残る」

 俺がそう言うと、リグは「分かりました」とだけ言った。

 やけに素直だ。


「理由を聞かないのか?」

 リグはよほどの事がない限り、俺の決定には逆らわない。


 その代わり、「なぜそうするのか」を必ず尋ねてくる。

 俺が判断を下したときの「根拠」を知りたがるのだ。


「ゴーラン様の顔を見れば分かります。何か面白いことが起こるのですね。これ以上ないくらいやる気に満ちているのがよく分かりますので」


 リグには俺がどう見えているんだろう。

 やる気に満ちていると言うが、俺には分からない。

 身体全体でひゃっほい、ひゃっほいしているのかもしれない。


「そうか……楽しいこと、そうかもしれないな。ネヒョルのやつが軍勢を引き連れてこの町にやってきている。万難を排して、迎え撃ってやるつもりだ」

 俺がネヒョルを倒すと公言しているので、リグもそれについては知っている。


「なるほど、でしたらゴーラン様の存在がバレないようにした方がいいですね」

「たしかにそうだな」


 わざわざ俺が待ち構えていることを知らせる必要はない。

 警戒していないところで登場する方がインパクトもあるし、効果も高い。


「部下たちにも徹底させましょうか」

「頼む……いや、俺が言おう。それと俺は変装した方がいいかな」


 ネヒョルの目的は間違いなく、魔王の支配のオーブだ。

 メルヴィスが言う進化の条件からすると、それしかない。


 奴のことだから、無策で突っ込んでくることはない。

 部下か商人、傭兵などを必ず事前に町へ潜入させるはずだ。


「変装ですか? それはどのような……?」

「そうだな……」


 俺が考えた変装後の姿をリグに伝えた。


 具体的には、昔の漫才師が着るようなキンキラ背広にでっかい蝶ネクタイ、山高帽にクルクルメガネと付け髭。

 息を噴くと「ぴょー」と鳴って、くるくると空気が入った筒が三方に伸びる笛を咥えるのはどうだろうか。


「これならば俺だと分からないだろう」

「そうですね。あまりに不審すぎて、捕まると思いますが」


 ……駄目か。まあ、本気じゃなかったんだけど。


「俺はネヒョルの部下とも何度か戦っているし、戦っている姿も見られている。顔を知られている可能性がある。そこをどうするかだな」


「重点的に探るのは城内だと思いますので、町中にいればそうそう目立つこともないと思いますが……大人しくしているのが前提になりますけど」


「結局、そうなるか」


 情報集めも、自分で動くと目立つ。

 俺みたいなのがワイルドハントに関する情報をこの町で集めていると分かったら、ネヒョルの耳にも入りかねない。


「ゴーラン様と部下の方々は、目立つ行動を控えるのが最善かと思います」

「そうだな」

 いつだってリグは正しい。そう思った。


 その後、俺は部下を集めて、帰還を延期する話とネヒョルが近くにいるので待ち構えてぶち殺すと話した。


 これを聞いて、オーガ族はもとより、ヴァンパイア族もまた気炎を上げていた。

 ヴァンパイア族はファルネーゼ将軍を騙して裏切ったネヒョルを快く思っていないのだ。


 ちなみにオーガ族は昔のことはどうでもいいらしい。

 単純に暴れられるのが嬉しいのだ。


「俺たちがこの町にいると知られない方がいい。だから暴れるなよ。力は溜めておけ」

 俺がそう言ったときの部下たちの顔はなかった。


「ええ~?」「マジ!?」のオンパレードだ。

 こいつら、どれだけ暴れたりないのか。


 それでも強引に黙らせ、なるべく外にも出歩かないよう言い聞かせた。

 すべてはワイルドハント殲滅のためだ。


「いいか、言いつけを破った者は、その場で首の骨を二、三本折るからな。覚悟しておけよ」

 そう言って、俺は話を締めくくった。




○ワイルドハント ネヒョル


 ネヒョル率いるワイルドハントの一行は、街道を避けてトラルザードの住む町を目指していた。


 姿を隠して道を進むことは可能だが、道の行き着く先にある村へは、もう入ることを諦めていた。


「情報が出回っているみたいだし、これ以上足跡を辿られるのは避けたいよね」

「その方がよいかと思います。町はおろか、村にまで通達が行き届いているようですし」


 どこかで腰を落ち着けて情報を得たいのだが、各町や村には日に何度も兵が行き交っている。


 たとえ村の住民をすべて排除したとしても、朝夕の巡回兵に見咎められてしまう。

 それを排除すれば、巡回兵が戻らないと兵が大挙してやってくる。


 そんなことを繰り返していたら、こちらの狙いがバレる恐れがある。

 そのため、今では町はおろか村へ赴くことも止めていた。


 今回ネヒョルが連れてきたのは、精鋭三百五十名、それと斥候に特化した者が五十名。

 ほかに荷を運ぶ者が二十名である。


 空を飛べる者だけで一気に移動し、残りは置いていこうと考えたこともあったが、後続組が見つかれば、全滅は必至。


 捕まった者からネヒョルの情報が漏れるのも避けたい。

 そのため、どうしても一緒に行動せざるを得ないのである。


「トラルザードの町に潜ませていた者たちがいなくなったのが痛いですね」

 レグラスの言葉にネヒョルは頷きかけたが、思い直して、首を横に振った。


「軍師の暗殺が失敗した時点で引き揚げさせたから被害が少なかったわけだし、あれはしょうがないよ」


 その後、天界からの侵攻で町に入れていた者は死んだ。

 残った者も聖気を回収させるために使い潰している。

 あれから撤退に次ぐ撤退で、いまだあの町には部下を潜入させる準備ができていなかった。


「それでもどこかで腰を落ち着けて情報を集めませんと……」

「そうなんだよね。いっそ、森の中を拠点にしてみる? どうかな」


「食糧の問題もありますので、時間はかけられませんが、可能です」

「うーん、食糧かあ。どうしようかなあ」


 トラルザードの町のすぐ近くに潜伏した場合、見つかった瞬間に計画は破綻する。

 拠点はできれば、飛んで半日か一日、もしくは走って二、三日の距離が望ましい。


 その場合、十日かそれ以上、情報収集に時間をかけることになる。

 食糧はまだあるが、帰りを考えると、あまり無理もできない。


 とにかく今回はいつになく数が多い。

 移動や野営にも広い場所が必要なのだ。


「しょうがない。精度に欠けるけど、短期間で情報を集めよう」

「では森に潜伏する感じで?」


「そうだね。トラルザードの居場所が確定したら、一気に突っ込むことにする」

「その場合、トラルザードの周辺を守る者の情報が入りませんが」


「機が熟すまで待つのもいいけど、今回は対応できないうちに一気に行く。ボクらの突破力なら、それも可能でしょ?」


「分かりました。そのつもりで準備します」

「うん、お願い」


 こうしてネヒョルたちの計画は決まった。



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