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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第8章 屠所の羊編
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「喜べ、俺が町に帰ってきてやったぞ!」

 なんとなく言ってみたかっただけだ。意味はない。


「すでに先触れを出しております。このまま城まで進みましょう」

「……お、おう。用意がいいな」

 リグにスルーされた。


「準備は万全です。城の前で待っているよう伝えてありますので」

「そ、そうか」


 なんて手回しのよい副官なんだ。

 俺が前回来たときは、何日も待たされた。

 謁見の順番が来るのを宿で待ってたんだよな。


 それがリグにかかるとこれだ。

 町に入ったときには、準備が終わっているのだから凄い。


 ひとつ手前の町から慌ただしく動いていたのを知っているけど、それとこれとは別。

 俺がこの町に着く日に合わせるように動いていたのなら、出来過ぎってもんだろ。


 今度からリグのことを出来過ぎくんと呼ぼう。

 でもあれか。それだと映画に出られなくなるな。


「手渡す土産は?」

「部下がしっかり運んでおります。昨日も確認しました。目録はすでに渡してありますので、問題ありません」


「そうか。なら心配ないな」

「はい」


 魔王トラルザードの使者が俺たちの国にやってきたとき、大量の土産を持ってきた。

 その土産には、「今後ともひとつよろしく」という意味が込められていたわけだ。


 国と国の関係だと、向こうは大国でこっちは小国。

 もらうだけもらって何も返さないと、借りひとつとなってしまう。


 あとで「あの時の借りを今返してくれ」となっても困るので、俺たちがこうして返礼品を届けに来たわけだ。

 対外的には「これで貸し借りなしね」と言っていることになる。


 もっとも俺たちが返礼品を届けたとして、「あげた分が戻ってきた」と思われるか、「これで借りは返した。次は戦場で会おう」と思われるかは未知数。


 トラルザードの事だから、「敵対しないでね」という意味で贈り物をしてきているはずなので、物騒なことにはならないと思うが。


 これらの外交を統括しているのは、この国の非戦闘種族たちだろう。

 魔王の意を汲んでいるはずなので、問題ないと思う……ないよな?


 穏便に受け取ってくれるといいな。

 出会い頭に魔法をぶっ放されたのは記憶に新しいが……それは忘れておこう。




 俺たちは町の大道を練り歩く。町が大きく、城まではまだ距離がある。

「だいぶ復興したんだな。このへんはかなりひどい被害だったはずだが」


 ここは天界の住人が暴れ回った場所だ。

 あの時、結界が張られたものだから、外は大したことはなくて、中だけ酷い被害に遭ってしまった。


 いい具合に復興が進んでいる。

 労働力があり、しっかりと統制がとれている証拠だ。


 さて今回の遠征。

 メンバーはだいたいいつもと同じ。


 戦争で死んだ者たちも多いので、その分は補充している。

 あと、俺の部下に加わったラミア族が新しいメンバーだ。


 ラミア族も上位種族に引っかかっているくらいの強さを持っている。

 文官タイプのような気がするが、タフで強いのだから戦ったら凄い。


 よく考えたら、俺の部隊は結構豪華な布陣だ。

 よく訓練されたオーガ族に上位種族のヴァンパイア族……という脳筋組。


 知的かつ強者である死神族とラミア族もいる。

 特殊進化した俺や馬鹿兄妹がいるので、タイマンも問題ない。


「なあ、リグ。このメンバーなら国ひとつくらい落とせるんじゃないか?」

「……ゴーラン様、声が大きいです」


 後ろのリグに話しかけたつもりだったが、声が大きかったか。

 俺の身体が大きいからな。声がよく通る。


 などと呑気に構えていたら、周囲の町民たちが真っ青な顔でこちらを見ていた。

 何人かが城や駐在所の方に走っていくのも見えた。


「別に戦争しにきたんじゃないよな、俺たち」

「ですから、声が大きいですってば。戦争なんて言葉は控えてください」


 険のある顔で言われた。

 最近、リグが冷たい。


 そのまま何事もなく大道を進み、城の目の前で囲まれた。


「国を落としに来たのはどこの者じゃ……って、ゴーラン?」

 城門の下で腕を組んで立っていたのは、久し振りの再会となるメラルダ将軍であった。


「お久しぶりです、メラルダ将軍」

「小魔王メルヴィス様は、我が主と戦うことをお望みか」


 悔しそうにそう吐き出すメラルダ将軍。

「いやいやいや……そんなことないですって」

 誤解が生じている。


 なぜか俺は、城の入り口で誤解を解くはめになった。




「相変わらず騒動ばかり起こしおるの、ゴーランは」

 ここは城の控室で、今はメラルダと二人っきり。


 なんとか誤解が解けたので、城の中へ入れてもらえたのだ。

 部下たちは別の大部屋にいる。


 俺はいまからメルヴィスの使者として、トラルザードと謁見することになっている。


「相変わらず? 俺は騒動を起こした記憶はないですが」

 俺の存在など穏やかなものだ。

 魔界で俺ほど理知的に考える者も珍しいはず。


 借りてきた猫のゴーランと渾名がついてもいいくらいだ。


「……ま、まあ、お主がそう言うのなら、それでもいいかのう」

 なぜかメラルダ将軍は、大いに歯切れが悪かった。


「それよりもこっちに戻ってきていたんですね」

「西はまだ安定していないが、わが国に被害が出ることはもうなさそうだしな」


 西の小魔王国が連合しても、もはや大国に喧嘩を売ることは不可能らしい。

 小魔王どうしが争い、消耗しすぎたようだ。

 そのため、メラルダ将軍は城に帰還する余裕ができたらしい。


「もともと将軍は南で戦っていて、帰還途中で東……俺たちの国がある方に向かったんでしたっけ」

「そうじゃ。西でも戦ったしのう。しばらくは城勤めじゃな」


 なるほど。

 だったら、メラルダ将軍がここにいるのもあたりまえか。


「あと、さっきのアレ。俺の戯れ言ですけど、過敏に反応しすぎやしませんか?」

 大国がガクブルし過ぎだろう。

「過敏かのう?」


「俺はそう感じますね。なんか、城全体がピリピリしていますし」

「ふむ……やはり分かってしまうか。最近リーガードの奴が本気らしくてな。いくつもの独立部隊をけしかけてきおったのじゃ」


「独立部隊ですか……それは大変ですね」


 メラルダ将軍の話では、リーガード軍が秘かに国境を越えたらしく、トラルザード領内で被害が出てから、その事実に気付いたらしい。


 いま敵の目的や規模を調査中だという。

 この町だけでなく、他の町にもお触れを出して、詳しい情報提供を呼びかけているらしい。


 そりゃ、町民も城の兵たちもピリピリしているわけだ。


 この町の住民からしたら、俺たちは支配のオーブで繋がっていない外国人。

 それが集団でやってきて、しかも戦闘種族が丸わかりの格好。


 加えて物騒なことを口走ったものだから、だれかが気を利かせて注進に赴いたということらしい。


 うん、住民の行動も間違ってない。

 ただ少し、大袈裟に考えただけなのだ。


「小魔王メルヴィスの国に友好の使者を送ったのは聞いておる。だからもう誤解は解けたし、問題ないぞ」

 というわけで、さっきの件はすでに処理済みらしかった。


「ありがとうございます」

 使者として来て、城内で暴れるのは避けたかったのだ。


 しかもいまのメンバーなら、国を落とすのは無理でも、本当にいいところまで行けそうなのが怖い。


「なに、こちらこそ済まなんだ……おっ、陛下がお会い下さるようじゃな」

 人が来た。謁見の準備ができたらしい。


「では行ってきます」

「うむ、わしもいこう」


 俺と一緒にメラルダ将軍も立ち上がった。



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