027
「引き受けたい……ですね」
ネヒョル軍団長がなぜ勢力図の話をしたのか。
俺に情勢を分からせようとしたのではなく、意見を引っ込めさせるため。
それでも俺は、自分の意志を貫く。
「話を聞いていた? ボクの予想だとファーラはこの辺り一帯も手に入れて魔王になる。そしてファーラは決して死神族を許さない。それでもゴーランは内に抱え込むというのかな?」
「そうですね。それがなにか?」
「ふふっ、おもしろいね、ゴーラン。キミはちゃんと分かっている。なのになぜそう言うかな?」
「偶然にしろ何にしろ、俺を頼ってきたからですかね」
「それでボクと敵対する? さっき言ってたでしょ。ボクには勝てないって」
「ええ。今のままじゃ勝てませんね」
俺とネヒョル軍団長の差はどのくらいあるのだろう。
単純に俺の五倍くらいはありそうだ。
俺ではなく、おれだって勝てない。
「近いうちに進化する予定があるのかな? ハイオーガ族になる」
「まさか。そんなこと考えたこともありませんよ」
なるほど、進化すれば、魔素量だって数倍に跳ね上がるだろう。
その状態ならおれといい勝負ができそうだ。
「ねえ、ゴーラン。最後にもう一度聞くよ。ファーラを恐れて、この周辺の小魔王たちは死神族を引き受けない。この国も同じだよ。ボクが反対する。つまり、ゴーランはボクと敵対する道を選ぶわけだけど……」
「敵対しているつもりはありませんが」
「それでもだよ。結果的に敵対しているなら同じでしょ」
「だったら、そうですね。でしたら……」
敵対しましょう。
俺はそう言った。
○ネヒョル軍団長
突然ゴーランが尋ねてきたのには驚いた。
防衛戦が終わって、今頃村で英雄扱いされているはずだ。
なにしろ、下克上でその地位を勝ち取ったのだから、歓迎ぶりはすさまじいはず。
なのに、ボクのところへやってきた。
これはあれかな。
村でおだてられて、調子に乗っちゃったかな。
残念だ。ゴーランはもう少しおりこうだと思ったのだけど。
ボクは部下に下克上があるかもしれないから、近寄らないようにと言い添えた。
部下は随分と驚いていたようだけど、ゴーランがボクに用事なんてそれくらいしかない。
大牙族を倒したというその力、見せてもらおうかな。
勝つのはボクだけど。
……と思ったら、死神族を引き受けたいだなんて、奇妙な話を持ってきた。
本当にゴーランは変わっている。
「ねえ、最近の情勢は知っている?」
死神族は小魔王ルマハムのところに身を寄せていたはずだ。
ゴーランは知らないと思うけど、ファーラの国とルマハムの国で戦ったとき、主攻を受け持ったのが死神族だった。
かなり苛烈な戦いだったとボクは聞いている。
死神族は後がないものね。当然だ。
死神族は単独でも強いし、集団でも強い。
仲間にするならうってつけだけど、何しろこの辺りでは死神族の〈一撃死〉は有名だ。
まるでだまし討ちのようにして魔王を殺した技として知れ渡ってしまっている。
そんな種族を配下に加えたら、いつ寝首をかかれるか分かったものじゃない……と言われている。
ボクからしたら、騙される方が悪いんじゃないの? と思うんだけどね。
それでボクがゴーランにした話は本当。
ファーラは遠からず魔王に名を連ねることになるだろう。
そんなファーラが死神族を殲滅するのも、もう決まっている。
なのにゴーランは引き受けるという。
変わっていると思ったけど、ここまでとは思わなかった。
ボクと敵対するよと少し脅したら、平然と言い返してきた。
口では勝てないと言いつつ、戦う意志はあるらしい。
本当に変なやつだ。
もっとも、ファーラが魔王になるには、周辺の小魔王国すべてを手に入れないと無理だろう。
大魔王や魔王たちが小魔王国をいくつか併呑してしまえばその野望は潰える。
もしくは、ボクたちがとって変わるかだ。
兵力が揃っていない今の状態では、レニノスに勝つことすら難しい。
だけど、隣のクルル、ロウス、ルバンガ、ナクティといった小魔王国を取り込んでしまえば立場は逆転する。
最終的にレニノスを倒してファーラと決戦すれば勝機はあるとボクは思っている。
(ただしなぁ……メルヴィス様はいまだ深い眠りの真っ最中なんだよねえ)
ファルネーゼ将軍が軍を動かそうとしても、他の二将軍は反対するだろうし、この案はおそらく使えない。
やはり死神族には出て行ってもらうに限るのだけど……ゴーランは意地をはっているし。
いっそのこと、もったいないけど、ここで決着を付けちゃおうかな。
この先ゴーランがどう成長するのか楽しみなんだけど、部隊長が軍団長に逆らったままじゃ、示しがつかないからね。
もったいないけど……本当にもったいないけど、死んでもらおうか。
「敵対しましょう」
ゴーランの言葉に、ボクは思わず笑みを浮かべてしまった。