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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第7章 いにしえの大魔王編
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 幼少時に俺が会った人物は、「ヤマト本人」なのだろうか。

 同じ名前の別人かもしれないし、有名な名前を騙ったシャイボーイの可能性もある。


 シャイな魔界の住人を見たことはないが。


 メルヴィスは本物と考えているようだ。

 というよりも、本物であってほしいと願っている風な?


「もしあれがヤマト様本人であるならば、人界から魔界に移動する手段があることになる」

 そうメルヴィスは言った。


 ゼウスが張った結界を抜ける方法はない。

 少なくとも、メルヴィスには不可能だった。


 だが、ヤマトならば可能かもしれない。

 そういうことだ。


 そもそも先の大戦の勃発理由。

 ヘラがヤマトの支配のオーブを狙って起こしたものだ。


 ヘラの力をもってしても、魔界でヤマトと戦っては勝てない。

 そこで一計を案じたヘラは、多くの犠牲を払って、魔界を聖気で満たそうとした。


 魔界全土を聖気結界で覆ったのだ。


 あの聖気結界。

 俺も喰らったことがあるが、結界が完成すると中は聖気で満たされ、魔素が減っていく。


 こちらが弱くなる代わりにあちらが強くなる。

 とても戦いにくい。実に嫌になる結界である。


 そんな無敵の聖気結界だが、ヤマトほどの力なら、破壊できてしまうらしい。

 というわけで、破壊できないほど巨大で、かつ広範囲の聖気結界を張る必要があったようだ。

 それが大戦で使われた聖柱。


 現在魔界に残っている六つの塩の柱はそのなれの果て。

 あの地で多くの天界の住人が命を落としたという。


 さて問題はヘラの動機である。

 支配のオーブを狙ってきたわけだが、その目的は死者蘇生。


 ゼウスを生き返らせるのに、ゼウスと同等の支配のオーブが必要だったからである。

 つまりその時点で人界の結界は完成して、ゼウスは己の身体を代償に死んでいたことになる。


「それではヤマト様は、結界を越えられないのではないでしょうか?」

 この話を聞いて、俺はそう思った。


 順番としては、ゼウスが結界を張って死亡。

 その後ヘラがゼウスを生き返らせるために、魔界に侵攻してきた形となる。


 ヤマトとヘラが戦い、互いにどこかへ消えたことで大戦が終了。

 今に至るわけだ。


「私もヤマト様が人界にいると思わず、別の場所を隈無く探した。しかしすべて空振りに終わった。だからもう、人界にいるしかない」


 そうすると、ヤマトは結界をくぐり抜けたことになる。


「なるほど。一度結界を抜けられたのならば、もう一度抜けることも可能と考えたわけですね」


 幼少時の俺が出会ったのが本物である可能性が出てきたわけだ。

 魔界に戻ってきたのになぜ存在を示さないのかは置いておくとして、ヤマトはまだ魔界にいるか、もしくは人界に再度行ってしまった可能性がある。


 昔の仲間に会えないのか、会いたくないのか。

 メルヴィスも当然そのことは考えているだろう。だから別の話をしてきた。


「どうやって人界に張られた結界を抜けたのかが分かれば、多くの疑問が解消される」

「たしかにそうですね」


 俺も興味がでてきた。

 俺の身体に二つの魂が入っていたことを見抜いた存在。

 あれは本物のヤマトだったのだろうか。


「そして私は、冥界でヘラの魂をみた。あれは自死するタイプではない。殺されたのだろう。だが誰がそれを行った。そしてなぜヘラは死んだのか」


 冥界に行って、謎が増えたらしい。


 ヘラはゼウスを生き返らせる目的をもっているのだから、死ぬはずがない。

 生き返らせる研究は天界で行われていたらしいし、自信もあったのだろう。


 大規模な侵攻作戦をするくらいだから、準備もほとんど終わっていたとみえる。


 大戦時、ヘラとヤマトが一騎打ちして、両者は消えた。

 メルヴィスが駆けつけたときには、時空の歪みだけが残っていたという。


 そのとき、ヘラとヤマトはどこへ行ったのか?

 別々なのか、一緒にいなくなったのか。謎はいまだに残ったままだという。


「人界に張られた結界は、壊すこともすり抜けることもできないのですよね」


「そうだ。破壊されたという話は聞かない。すり抜けようにも、死した魂が冥界に落ちるときと、浄化された魂が冥界から戻ってくるとき以外に出入りできないのは何度も確かめた」


「そうですか……」


 どういうことだろうか。

 メルヴィスは、ヤマトが人界にいないと考えて、他の場所をずっと探していた。


 ゼウスの結界があるのだから、当たり前だ。

 では逆に考えよう。



 ――どのような状態になれば、結界を越えることができる?



 恐らく、キーとなるのは魂だ。


 人界から冥界へは、死した魂が向かう。

 冥界から人界へは、浄化された魂が戻ってくる。


 これから分かることは、結界を越えるには『魂の状態』でなければいけないということだ。

 だが、それだけで越えられるならば、こんなにも悩まない。


「浄化された魂は、結界を越えられる」

 これがひとつ。そしてもうひとつは……。


「死した魂は結界を越えられる」

 これは人界から冥界へだ。


 ゼウスはそのように結界を設定することによって、魂の循環を阻害しないようにしたのだろう。


 人界へいく方法は分からないが、人界から冥界へいく方法ならば簡単だ。

 死ねばいいのである。


 冥界から魔界へ行くことは可能らしい。

 メルヴィスがそれをなし得たのだから、ヤマトにできないはずがない。


 だがヤマトは死んでいない。

 支配の石版がそれを裏付けている。


 ならば俺が会ったのは別人か。


「……ん? いやそんなことはないか」

 できるかどうかは分からないが、ひとつ思いついたことがある。


「なんだ? 何か分かったのか?」

「たとえばですが、死を偽装……言葉は適切ではありませんが、死んだように見せかけて、魂が人界から出ることは可能かもしれません」


「どういうことだ?」

 メルヴィスの目が厳しく光った。



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