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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第7章 いにしえの大魔王編
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 メルヴィスに興味を持たれるようなことはしていない……と思う。

 そもそも会ったのは、今が初めてだ。


「下っ端の部下に興味ですか?」

 勘違いですよね、という雰囲気を匂わせたが、通用しなかった。


「部下だろうが敵だろうが、私が興味を持ったのだ。文句はあるまい」

「「……はい」」

 ギロリという擬音が聞こえてきた。


 俺どころか、オレまでも大人しくなっている。

 俺たちとメルヴィス。

 彼我の力量差はどれくらいだろう……いや、考えるのも馬鹿らしいか。


「複数の小魔王を撃破した存在は軽くない。……が、時折、魔界には変わった者が現れる」


 つまり「下っ端」が撃破できるほど、キョウカは弱くないと言いたいらしい。だから興味を持つ対象には入っていると。

 あと俺たちが変わった者ってことか? そっちは分からない。


「俺は、どこにでもいる一兵卒だと思いますが」

 進化したけど、もとはオーガ族だし。


 メルヴィスのようなチートが振り切れているような存在からしたら、10も100も1000も一緒だろうに。


「それについてはもうよい。……して、幼少時に出会ったヤマトを名乗る者について詳しく話すのだ」

 そっちにくいついてきた。


「おぼろげな記憶しかありませんが、特徴のない顔をしていました。詳しく話しますと……」


 話せと言われたら話すしかない。

 別段内緒にしていたわけでもないし。


 ただ、俺はその時、死にかけていた。

 ほかに器とか、魔素とか気に掛かることが色々あったので、細かいところまで覚えていない。


 それでも出会ったいきさつ、ヤマトと名乗った人の外見、話し方、性格などを伝えた。

 とくにもらったアドバイスについては、覚えている限り話した。


 あのアドバイスで俺は救われた。

 あれが転機となって、俺の中にいるオレを自覚したのだ。


 オレの魂に「俺」がひっついたのが正解らしいが、その時はまだ分かっていなかった。


「似ているな。ヤマト様に……だがどうして?」


 メルヴィスの呟きは、俺の耳にもハッキリ聞こえた。

 だからだろう。つい「どういうことです?」と尋ねてしまった。


「ヤマト様はおそらく人界におられる。というよりも、それ以外の場所はすべて探したのだからな」

「…………」


 メルヴィスが言うには、人界に張られた結界がどうしても壊せず、いまだすり抜けることができないらしい。


 魂だけは天界、人界、魔界を行き来しているはずなので、魂だけの存在になれば行けると考えたらしい。

 だが魔界の住人の魂は、支配のオーブの中にある。死ぬ以外で魂が離れることはない。


 メルヴィスは「狹間はざま」と呼ばれる、天界、人界、魔界、冥界以外の場所をずっと探していたらしい。


 これはどういうことか。

 簡単に言うと、天界と魔界は世界がくっついているわけではない。


 離れて存在しているが、その世界の間は「存在しない」。


 離れているのに間がないとは「とんち」かと思ったが、概念的に「狹間」が存在していて、物質的には存在していないのだという。なんのこっちゃ。


 メルヴィスはその狹間――つまり概念的な空間を隅々まで探し回り、ついに見つけ出すことができなかった。

 あと残されたのは人界と冥界。


 冥界は魂でなければ行くことができず、メルヴィスは魂を分離させて向かったらしい。

 できるのかよ! 支配のオーブから抜け出せないって言ったじゃんと思ったら。


「意識だけの存在では赴けるが、結局人界へは渡れなかった」と言われた。


 この意識だけというのは、どういうものなのか。


 俺は前世の影響か、頭でものを考えている。つまり、意識は頭にある。

 正確に言うと脳で考えているわけだ。


「何を当たり前のことを!」と思うかもしれない。

 だがこれは、無意識の訓練の賜物なのだ。


 考えすぎると頭がもやっとするし、悩むと頭が重く感じる。

 意識が肉体に影響を与えているわけだ。


 同じように心は心臓にあると考えている。

 恋をすれば心臓が「きゅん」となるし、フラれれば、心臓が「ぎゅーっ」となる。


 実際に肉体に影響を与えているものの、実はすべてまやかしなのだ。

 俺たちは、意識は頭にあると思い込んでいるし、心は心臓に宿っていると思い込んで……いや、思い込まされているだけなのだ。


 その証拠に、江戸時代では様子が少し違う。

 当時、ものを考えるのは頭でなく「腹」だと思われていた。


 たしかに腹には重要な器官がいっぱい詰まっている。


 悪いことを考えている人は「腹黒い」と呼ばれるし、忌憚なく意見を交換したい場合は「腹を割って話し合おう」と告げる。


 何を考えているのか知りたい場合は「腹を探る」し、いくら考えても相手の考えが分からない場合は「腹の底が読めない」と言ったりする。

 腹でものを考えるゆえんだ。


 もちろんメルヴィスはこういった事は知らないはずだ。

 だが長年生きてきた経験なのか、独特な感性なのか、意識を頭や腹でなく、身体の外へ出すことに成功したらしい。


 頭で考えるのならば、頭の外で考えられるのではないか。

 そんな感じだ。……できるのか?


 こうしてメルヴィスは意識――つまり魂になって死した魂が辿る道をすすんだ。

 生きたまま冥界に降りていったらしい。

 チートだ。


 冥界で小覇王ヤマトを探したが、見事空振り。

 残された場所は人界のみ。


 これはもう人界にいると結論に至ったらしい。


「冥界から人界へ向かおうとしたが、浄化された魂以外、通過できなかった」

 残念そうに言うが、それで人界へ向かおうとするのが凄い。


 俺がイメージするに、冥界は大きなプールのようなものだろう。

 排水溝に網があって、異物は引っかかる。


 メルヴィスの魂は浄化されていないし、他のものと一緒にそこを通り抜けることができなかったのだと予想した。


「俺が会ったのは、本物のヤマト様なのでしょうか」


「確証はない。……が、可能性はある」


 メルヴィスには、根拠があるらしい。



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