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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第7章 いにしえの大魔王編
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○小魔王メルヴィスの城 ファルネーゼ


 軍をまとめて城まで戻ってきた。

 今回の出兵は大成功。キョウカが死んだのだ。

 懸案だった北方もこれで静かになる。


 だが、ファルネーゼの顔は渋い。

(さて、どう報告するか)


 首尾良く目的を達したものの、よく分かっていないことが多すぎる。


「確証がありませんが、部下が斃したようです」

 そう報告するのが正しい選択だが、果たしてそれでいいのだろうか。


(ゴーランが気を失ってなければな……)


 そこが悔やまれる。

 一向にゴーランは目を覚ます素振りはない。


 ゴーランに何があったのか聞くという目論見は、脆くも崩れ去ってしまった。

 嘘やごまかしを告げるくらいならば、分かっている部分だけ報告した方がいい。


 ファルネーゼは部下から上がってきた報告しか知らない。

 もしかすると敵本陣で仲間割れがあったのかもしれないし、ゴーランが他の離反者と協力して斃したのかも知れない。


 もしくは、ゴーランが到着したときにはもう、キョウカは斃された後だったということもある。


 昨今の魔界は、何がおきても不思議では無い。

 秘かにキョウカを狙う者がいてもおかしくないのだ。


(仕方ない……分からないと正直に話すか)

 ファルネーゼは重い足取りを引きずりつつ、メルヴィスがいるであろう玉座の間へ向かった。




「……すると、その者は斃したのか?」

 メルヴィスの声が重く響く。


「分かりません。戦いに向かわせたのはたしかですが、到底斃せるはずもなく……かといって、状況からそうとしか思えないと、報告を受けております」


 なんと間抜けな報告だろうか。

 自分で言っていて情けない。そうファルネーゼは思った。


「して、そのゴーランは以前話に出た者か?」

「はい。オーガ族から進化した者にございます」


「ふむ……」

「…………」


 メルヴィスの沈黙が痛い。

 ファルネーゼは、身を小さくして待っている。


 どれだけ時間が経っただろうか。

 ずっと考え込んでいたメルヴィスが「なるほど」と小さく呟いた。


「はい?」

 何か聞き漏らしたのかとファルネーゼが顔をあげると、メルヴィスがおもむろに立ち上がった。


「その者のもとへ案内せい」

「ッ!! は、はいっ!」


 歩き出すメルヴィスに、ファルネーゼは遅れないよう小走りで付いていった。


 驚いたのは、城内で働いている者たちであろう。

 メルヴィスが闊歩しているのである。


 みな働く腕をとめて、膝を折る。

 メルヴィスがその前を去ると、みな戦々恐々とした目で、二人の後ろ姿を追っている。


「救護室といったな」

「その通りです」


 メルヴィスが救護室へ入ると、全員が目を見開き、直後、一斉にひれ伏した。

 全員「まさか」という顔をしている。


 メルヴィスは彼らを一顧だにせず、一際大きな男の前に向かった。

「魔素量からすると、これだな」

「そうです」


 寝ているのはゴーランである。いまだ目覚める気配はない。

 メルヴィスが来たことで、怪我人含めて、全員が救護室から退散してしまった。


 ガランとした室内でメルヴィスは「おるか」と呟いた。


「いるよ」

「いるよ」


「陛下のそばにいるの」

「陛下の近くにいるの」


 声がすれども姿は見えない。ジッケとマニーである。

「今から潜る」


「分かった。潜るんだって」

「分かった。潜るみたいだね」


「じゃあ、近づいたのがいたら、殺っちゃおうっか」

「殺っちゃおう、殺っちゃおう」


 メルヴィスはゴーランの胸に手を当て、小さく『夢幻の理』と呟いた。




○??? ゴーラン


「おい、またかよ」

 後ろからかけられた声に振り返ると、『オレ』がいた。


「よう、オレ。また会えたな」

『俺』が嬉しそうに呟くと、「そうだな」と『オレ』も返す。


「ここはどこだ?」

「さあ。つか、最後の方、覚えてるか?」


「もちろんだとも。よくキョウカを斃したな」


「ああ、オレが使える技はあれくらいしかないからな。直前で思い出せてよかったぜ。それと教えてくれて助かった」


「助かったのは俺も一緒だ。キョウカと戦う前に魔素を空にしてしまって、済まなかったな」


「斃せたんだからいいじゃねえか。それよりここは前と同じなのか? みたところ、同じっぽいが」

「そうだな。支配のオーブの中だと思うが、まだ二度目だし確証がない」


「んじゃ、前と同じ場所ってことでいいだろ。出口はどこだ?」


「……出口を探すのもいいが、少し話をしたいんだが、いいか?」

「おう、いいぜ。酒とつまみはねえのがいただけないが、もう一度ゆっくり話してみたかったんだ」


「それは俺も同じだ。なにしろ……ッ!? なんだこれは?」

「恐ろしいまでの魔素量だな。だれだ? というか、どこにいる?」


 おかしい。ここは支配のオーブ内ではなかったのか?

 俺たちとは違う存在がたしかにいる。しかも強大すぎて、どこにいるか見当がつかない。


「逃げないと見つかるぞ!」

「逃げるって、どこへだ? そこら中にいるような気配がするぞ」


 不穏な気配は、どこへ行ってもつきまとっている気がした。

 逃げられないなら、いっそ迎撃するか。


 俺がそんなことを考えていると、「オレ」の方も同じ気持ちらしい。

 足を止めて、虚空を凝視した。


「やるか?」

「やらないでか」


「だよな」

「ああ、俺とオレがかかれば、怖いものなんてないだろ」


 俺たちは不敵に笑った。息がピッタリだ。


 身構えた俺たちの前に現れたのは、一人の老人。

 といっても背が高い。そして眼光が鋭い。極めつけは……。


「あり得ないほどの魔素を濃縮したこの感じ……てめえ、何者だ?」

 オレの叫びに、そいつは首を傾げた。


「なぜ二人いる?」

「んだと!」

「よせ、行くな!」


 腕を掴んで止めた。近くで見て分かった。これはヤバい。

 魔王トラルザードと相対したときに感じた絶望感がここでも襲ってきた。


 といっても、このままでは戦うにしろ、逃げるにしろ位置が拙い。いっそ左右に開いて仕掛けるか?

 ただ、それだけで奴を倒せるとは思えない。


 ドンキホーテは風車に竜を見て立ち向かったというが、傍からみたら、俺たちも同じなんじゃないか? これは敵対していい存在なのか? 戦うのは無謀過ぎないか?


「おい、なんだその鎖は?」


 オレが指差したのは、老人の手首。俺も気になったが、ファッションかと思った。

 老人の腕にはぶっとい鎖が巻き付けてあったのだ。


「これが見えるのか?」

「見えないのか?」


 逆に俺は聞いた。そんなデッカいのを見落とす馬鹿はいない。

 ということは、普段は見えないようにしているとか。


「どちらがゴーランだ?」

 俺の質問には答えず、反対に聞いてきた。


「どっちもゴーランだぜ、へへっ」

「そうだな、どちらかと聞かれたら、そう答えるしかないだろ」


 俺とオレの息はピッタリだ。

 俺たちは二人でゴーラン。それでいいじゃないか。


「……ふむ」


 老人が考え込む素振りをみせた。

 今のうちに逃げるか戦うかしたいが、どちらも成功するとは思えない。


 というか、こいつは何者だ?

 ここは俺たちの支配のオーブ内じゃないのか?

 どうしてここに入ってこられる?


 オレが目で「殺るか?」と聞いてきた。

 俺は首を横に振った。


 相手が無防備に目線を切っているのは、俺たちの攻撃が脅威にならないからだ。

 仕掛ければ容易に反撃し得るだろう。待っているのは、俺たちの死。


「魂がふたつあり、そのどちらもがゴーラン。そしてこの鎖が見えると……」

 独り言か? 俺たちに話しかけているわけではなさそうだ。


「……おもしろいな。覗いてみるものだ」

「何ひとりで、ぺちゃくってやがる。てめえは誰だって聞いてんだ!」


 オレが喰ってかかりそうになるのを必死に留めていたので、反応が遅れた。


 老人はいつの間にか俺たちの方を見ていた。

 眼光が前に増して鋭くなっている。


 魔眼――そう直感したが、身体が動かなくなっていた。

 やられた。警戒しておくべきだった。

 もはや指一本だって動かせやしない。


 オレも同じらしい。ふたりして蛇に睨まれた蛙状態だ。

 そんな俺たちを眺めながら、老人は言った。


「名か? 私の名はメルヴィスだ。知っておろう」


 もちろんだ。俺は頷こうとして、金縛りにあっているのを思い出した。




 これが、魔界最凶とまで言われた小魔王メルヴィスとの邂逅だった。



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