表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第7章 いにしえの大魔王編
258/359

258

○小魔王キョウカの本陣 サイファ 上


 軍師フェリシアがのちに『番狂わせの喜劇』と呼ぶようになるこの戦い。

 小魔王キョウカ軍から見れば、悪夢としかいいようのない出来事だった。


「なんだ、やっぱり俺、強いんじゃん」

 サイファは両手にそれぞれ一本ずつ金棒を持って、振り回す。


 そして一振りごとにふっとぶ敵兵。

 通常ならば持ち上げることすら不可能なほど重いそれをサイファは軽々と振り回す。


 進化して強くなった自覚はあった。ありすぎるほど。

 ただし、戦場には規格外も多数存在していた。


 その最たるものがメラルダという、化け物のように強い将軍。

 また、その配下もまた精強ぞろい。


 進化した後のサイファですら、「あっ、これは勝てない」と思うメンツがあそこには揃っていた。

 そのため、いまいち自分の実力が判断つかなくなっていた。


「だよね~、ゴーランがおかしいんだよ、きっと」

 妹のベッカが同意する。


 メルヴィスの国に帰還するやいなや、次の戦場へ急行するよう告げられた。

「これでまた暴れられる」

 喜んだサイファは、合流地点でゴーランと再会した。


 もとは同じ村の同胞。

 いまでは互いに別種に進化したものの、サイファにとっては、これまで勝てたためしのない相手。


 いつも通り戦いを申し込んで、今度こそと思ったら、ケチョンケチョンにやられてしまった。

 それはもう、為す術もなく手玉に取られるだけだった。


 昔からゴーランは、魔素量と実力の関係がおかしかった。

 自分たちよりかなり少ない魔素量で、村一番の強さを誇っていた。

 何度挑戦しても勝てなかった。


 進化したゴーランは、魔素量でサイファたちを大きく上回ってしまった。

 それでも二人がかりならば……と思ったのは遠い昔の話。


 何度挑んでも勝てないと思わせるほどに、力量差が開いていた。


「ったく、ゴーランの強さはどんくらいなんだって話だな」

「あたしだって分かんないよ、そんなの」


「一度も勝てたことがないんだし」とベッカは頬を膨らませる。

 ベッカもゴーランに負け続けて、いろいろ思うことがあるらしい。


 そんな会話をしても、敵兵をなぎ倒す手を休めることをせず、キョウカ本陣の奥へ奥へと突き進んでいった。そして……。


「ん? あれはゴーラン……なんでここに?」


 サイファがゴーランを見つけた。

 なぜ敵本陣の中にゴーランがいるのか。

 そして倒れているのか理解できなかった。


「なになに~? あっ、ゴーランじゃん。しかも相打ち?」

 ベッカに言われてよく見れば、ゴーランと戦ったと思われる相手が倒れ伏していた。


 だれかがそれを介抱しているとサイファが思ったが、やっていることが尋常ではない。

 胸の真ん中を切り裂いて、支配のオーブを取り出していたのだ。


「んー……やっぱり死んでからじゃ駄目か。もともと達していなかったから、微妙かなと思ったけど、もう魔素が拡散しかけているのか。だめだな、こりゃ」


 支配のオーブを持ってブツブツ言っている。

「あいつ、かなりの魔素量だが、なにやってんだ?」


「さあ~、聞いてみたら?」

「聞くよりこっちの方が速いぜ……ハッ!」


 サイファが襲いかかったのは、キョウカの死体から支配のオーブを取り出したばかりのネヒョルである。


 ネヒョルは、サイファたちがなだれ込んできたのは知っていたが、取るに足らない相手と思って気にしていなかった。


「でやっ!」

 渾身の一撃は、ネヒョルに片手で受け止められ……ずに、ネヒョルの左腕を折り、肩を粉砕した。


「ええっ?」


 驚いたのはネヒョルである。

 なにしろ何百年もファルネーゼ将軍麾下の軍団長でいた。

 部下の強さは把握しているのである。


 ファルネーゼ本人ならばまだしも、配下とは戦いにすらならない。

 そうネヒョルは思っていた。


 一対一で戦えば、ファルネーゼを下すことができる。

 ネヒョルはそう思っていた。


「あれれ?」

 ネヒョルは飛び退いて、改めて相手を見る。


「うおりゃ!」

 追撃するも、サイファの攻撃はもう当たらなかった。


 戦闘経験の差だけではない。もともとも速さが違っていた。


「鬼種っぽいけど、そんな部下、いたっけな」

 サイファもベッカも、ネヒョルとは初対面である。


 同じ軍にいたことはあるかもしれないが、互いに言葉を交わしたことはない。


 そもそも最近のネヒョルは、エルダー種に進化することだけを考えていた。


 魔界の強者の情報は頭に入れていたが、有象無象については、「面白い奴」以外はまったく興味なかった。


「誰でもいいや。うん、殺そう」

 それまで攻撃をただ躱していたネヒョルが攻勢に移ろうとしたそのとき。


「はいは~い、ベッカさんだよ~」


 後ろから音もなく忍び寄ったベッカが、ネヒョルの残った腕の骨をへし折った。

「うえっ!?」


 ネヒョルは、またしても驚愕させられた。

 迂闊であったといっていい。格下だからと舐めていた。それがこれである。


 サイファに折られた腕と、砕かれた肩は治さないでいた。

 片手でも十分対処できると考えたからだ。


 その慢心を突かれた形になってしまった。


「もらいっ!」

 ベッカが首を折ろうと手を伸ばした。


「いけっ!」

 サイファの同時攻撃のおまけ付きだ。


「……まったくもう」

 瞬時に折られた両腕を治し、粉砕された肩の治療にはいる。


 両腕を完治させると、ネヒョルはサイファの攻撃を避けつつ、ベッカを引きはがした。


「もう治ったのか。ずいぶんと器用なことすんじゃんか。こりゃ、叩き放題だな」

「頑丈そうには見えないんだけどね~、タフだね~」


 舌なめずりするサイファと、がぜんやる気を出したベッカ。


 ゴーランから『駄兄妹』や『馬鹿兄妹』と呼ばれる彼らだが、二人が組んだときの効果はあまり知られていない。


 ゴーランも普段は難なく捌いているように見えるが、それはほぼ毎日戦ってきたからである。


 それぞれの動きを知り尽くし、何を考えて連携しているのか理解できているからこそ、対処できるのだ。



「いくぜ、ゴーランの仇!」

 サイファとベッカの声が重なった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ