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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第7章 いにしえの大魔王編
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○小魔王キョウカの本陣 サイファ


「ヒャッハー!」

「蹴散らせーっ!」


「汚物はどこだぁ~!」

「汚物は俺だぁ!」


「お前かよ~!」


 キョウカ本陣へなだれ込んだのは、サイファが率いるオーガ族の群れだった。

 死神族たちも、「いやいや」ながら参加している。


 一部のヴァンパイア族もまたそこにいた。

 なぜ彼らがサイファに付き従っているのか。


 長い旅路の果てに……


「死んだ敵だけがいい敵だぜえ!」

「悪い敵はどこだぁ~?」


 脳筋に毒されたからである。


「ちょっとぉ、大丈夫なの? これ」

「何がだ?」


 サイファの後ろから、ベッカが追いついてきた。

 サイファに比べて身軽なベッカが後から来る。


 それは、本陣を守っていた敵兵の首をベッカが容赦なくへし折って回っていたからである。


「これって命令違反じゃないの? 突撃なんて命令、出てなかったよ~」

「じゃあ聞くが、『突撃するな』って命令が出ていたか?」


「聞いてないね~」

「だったら問題ないだろ」


「そうなのかな? そうかも~」

 ベッカは単純である。


「というわけで……うおりゃぁあああ!」

 サイファの振るう金棒に、敵兵の身長が半分に縮んだ。


 彼らがキョウカの本陣を強襲したのには訳があった。


 話は山の向こうで行われた戦いまで遡る。




「ちくしょう。また負けた! 次は絶対にぶちのめしてやる!」

「あははは……無理なんじゃない~?」


 益荒男ますらおに特殊進化したサイファは、意気揚々とゴーランに戦いを挑んだ。

 手も足も出ず、ボロ負け。


 以前のサイファより数倍どころか、数十倍にまで強化された能力が、まるで通用しなかったのである。

 進化してすらまったく届かない。こんな屈辱的なことがあるだろうか。


 しかもダキニに特殊進化した妹のベッカと挑んでである。


 自分たちは強くなった。

 だがゴーランはその上をいっていた。


「うぉおおおおおっ!」

 向けどころのない怒りが、サイファを包む。


 これはいわゆるストレスというやつである。

 ストレスは脳天気に生き、難しいことを考えないオーガ族には無縁のものだ。


 だが、サイファのように強くなることに貪欲な者は、自分と相手の実力差に多大なストレスを感じることがある。


 そしてそのストレスの発散先は……。


「全軍突撃!」


 軍に組み込まれたサイファたちは右翼に陣取り、小魔王キョウカ軍と対峙した。


 ファルネーゼ軍は、数の上で不利であったことで、戦いは劣勢から始まった。


 山の斜面から麓にかけて陣を敷いたキョウカ軍は、広く薄く部隊を展開させていた。

 数で勝っているのだから、包囲殲滅すればいいと考えたのだ。


 一方、ファルネーゼ軍は時間稼ぎができればいいと考えていた。

 そのような命令も下されていた。


 それゆえ、消極的な出だしのまま戦局が動き、中央と左翼が押されるものの、持ちこたえることができていた。


 問題はサイファが加わった右翼である。


 はっきりいって、八つ当たりである。

 ゴーランに負けたサイファは、その悔しさを敵兵にぶつけていた。


 いつのまにか、敵部隊の長が倒れたらしい。

 誰が倒したか不明。


 そんなことがあるのかと思うかもしれないが、気がついたら敵将がいなくなっていたのである。


 これはまずいとキョウカ軍が引いたところへ、サイファたちが猛攻をかけた。

 サイファはこれまでも目を見張るような斬り込みを見せていたが、ここからはもっと凄かった。


 結果、キョウカ軍はサイファたちの猛攻を支えきれず、撤退した。

 敗走である。


「行けぇ~! 一人も逃がすなぁ!」

 本来サイファに部隊の命令をくだす権限はない。


 だが戦いの高揚とゴーランに植え付けられたストレスで、サイファはたがをはずしてしまった。


 そしてオーガ族は脳筋である。

 もう一度言おう。オーガ族は脳筋である。


 行けと言われれば行く。

 潰走した敵を追撃しはじめてしまった。


 逃げた敵兵も驚いただろう。

 崩れた一角は中央に攻め立てる好機である。


 にもかかわらず、敗走した自分たちを追いかけてきたのである。


「行け、行けぇ!」

 逃げる自分たちの後ろから、そんな声が飛んできた。


 足を止めたら殺られる。

 兵たちは一目散に、安全な本陣へと舞い戻った。


 悲劇はここからはじまる。

 なにしろ、サイファたちは全速力で敵兵を追いかけたのである。


 しかも乱戦状態からの追撃。

 逃げる兵と追うサイファたちの距離は、ほとんどなかった。

 入り乱れていたと言っていい。


 あろうことかサイファたちは、逃げた敵兵に交じって、本陣の中まで入り込んでしまった。


 強者の多くはファルネーゼ軍と戦うため、陣を出てしまっていた。

 軍をふたつに分けてもファルネーゼ軍より数が多い。


 まさかそんな本陣を少数で攻めてくるとは考えていなかったのである。

 そして彼らにとって最悪なことに、サイファたちの部隊は精強であった。


 トラルザード領で何度も絶望的な戦いをくぐり抜けてきた精鋭。

 敵本陣に突撃する危険くらい、とうに承知済み。


 鼻唄交じりで本陣の門をくぐったくらいだ。


 そして彼らに『遠慮』という文字はなかった。

 手当たり次第、目に付いた敵を、片っ端から殺してまわった。


「まだまだ足りねえぞ。おかわり持ってこい!」

 サイファが本陣の奥に行く。


「……ん? あれは?」

「なあに? どうしたの?」


 サイファとベッカが、とあるものを見つけた。



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