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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第7章 いにしえの大魔王編
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○魔王ダールムの城 メルヴィス


 キョウカと名乗る小魔王が、最近勢力を拡大させてきた。

 注意が必要であると大魔王ダールムがメルヴィスに告げた。


 そんな警告にも、「私が出ればよかろう」とメルヴィスは意に介さない。

 これにはダールムも怯んでしまった。


 もしメルヴィスが直接出向くことになったならば、想像以上の被害が北の地でおこる。

 もちろん、ダールム領にも影響を及ぼす。


 それは止めてくれと言いたいところだが、キョウカを放っておけば、遠からず魔王と成り上がることが分かっている。


 その場合、キョウカは自らの地盤を固めるため、周辺の小魔王国すべてを飲み込もうとするだろう。


 それだけならばいい。

 大魔王たるダールムに影響はほとんどない。


 問題は、すべてキョウカの思い通りにはいかないことだ。

 他の魔王が黙っていない。


 魔王キョウカの影響力が小さいうちに排除したい。魔王たちはそう判断する。

 北の地でキョウカを掣肘する魔王といえば、領土を接するトリニドートかジャニウスだろう。


 どちらも他の魔王と戦乱中、もしくは確執を抱えている。

 キョウカが生き残るためには総力戦を挑まねばならず、他の魔王も片手間で相手できるとは思えない。


 結局、複数の魔王が入り乱れて戦乱となる可能性が高いのである。

 それだけならばいい。よくはないが、まだいい。


 まかり間違って、魔王の中で抜きん出た存在ができたとする。

 戦乱を乗り切った魔王は、大魔王へと上り詰める。


 そうなればダールムとて黙っていられない。

 大魔王であるビバシニも同様であろう。


 三体目の大魔王を許容すれば、三すくみが成立してしまう。

 それはなんとしてでも避けたい。


 早めに芽を摘んでしまえばよい。

 だが、新たな大魔王を本気で排除に動けば、ビバシニから背後を突かれる恐れがある。


 なんにせよ、新しい盟主の誕生は、大なり小なり魔界中に影響を及ぼすのである。

 キョウカのような新参者の場合はとくにそう。


 メルヴィスが出張っても出張らなくても、あまりよい結果にはならない。

 ダールムはメルヴィスに気付かれぬよう、こっそりとキョウカを始末してしまおうかとも思う。

 それもまた下策だが。


「そういえばメルヴィス様、先ほど見えない鎖がどうとか言っておりましたが」

 ダールムにとって不思議なのは、メルヴィスがいまだ魂に直接影響を及ぼすしゅを受けていることである。


 ダールムを持ってしても、存在を感知することができないという。

 果たしてそんなものがあるのだろうか。


「鎖か。これがあると力が制限されるだけだ。影響はない」

「…………」


 力が制限される。

 通常ならば影響がありすぎる発言だが、メルヴィスにとっては、そうでもないらしい。


「それよりもヤマト様を探す手がかりが、これで全て失われてしまった」


 人界の中に囚われているとメルヴィスは予想しているが、それを確かめる手段がない。

 いま人界は、天界と魔界の双方から行くことはできない。


 今回、冥界からあらゆる方法を試したが、それも無理だった。


 もしメルヴィス以外で人界に赴ける人材がいたとすれば、それは天界のヘラだけであろう。

 だがヘラは死に、魂は冥界にある。


 メルヴィスにとってこの事実は、不可視の鎖よりよほど重要である。


 そしてここへ来て分かった。

 天界の混乱と聖気の枯渇。ヤマト捜索は八方塞がりとなってしまった。


「もう何の手がかりもないので?」

 ダールムとしても、小覇王ヤマトに戻ってきてもらいたい。


 メルヴィスという存在を御せる者は、他に見当たらない。

 とにかくひとたび怒り出せば、町ひとつを一瞬で死の領域にしてしまう。


 それを押さえつけてくれるならば、喜んで配下になろう。

 そう思えるほど、古参の魔王たちはメルヴィスの扱いに困っていた。


「エンラ機関の研究内容もしくは研究結果ならば可能かもしれん。ゼウスが人界を閉じた技もそれに端を発しているのだからな」


 ダールムは、小覇王ヤマトとヘラが争った時代を知らない。

 ヘラはゼウスを取り戻すため、ヤマトと争った。

 ヤマトの支配のオーブが必要だったと聞いている。


 この太古の戦い。

 天界と魔界の対立ばかり話が残っているが、ダールムはその前の事件も知っていた。


 当時、人界は開かれており、天界と魔界から行くことが可能だった。

 稀に人が天界や魔界に紛れ込んでくることもあったという。


 天界と魔界の住人が人界で敵対し、相争うこともあったらしい。


 天界の住人は人々の祈りの力を欲し、魔界の住人は恐怖の感情を欲した。

 求めるものが真逆であるが故に、相容れない。


 姿を見かければ攻撃し合うのが常であったという。


 それを憂えたのがゼウスであったらしい。

 人々の信仰を集めていたゼウスは、いつしか人間に肩入れするようになった。


 人界で大きな争いがあり、大陸が海に沈んだこともあったという。


 あるときゼウスは、これまでの研究結果を使い、天界と魔界の住人の大部分を人界から排除し、強固な結界をかけてしまった。


 ダールムは知らないが、当時魔界は大混乱に陥ったという。


 結界はゼウスの身体をもとにして張られており、解除は不可能。

 人柱となったゼウスは死んだらしく、説得も不可能。


 人界は完全に閉ざされてしまった。


 それを受け入れられなかったのが、ゼウスのつれあいのヘラであった。

 ヘラはゼウスの研究結果を引き継ぎ、エンラ機関を設立した。


 ゼウスの結界を破るには同程度の魔石、つまり支配のオーブをぶつけてやればいいという結論に達したらしい。


 そんな規模の支配のオーブを持っている魔界の住人など、小覇王ヤマトしかいない。

 ヘラはエンラ機関の総力をもって魔界に侵攻し、ヤマトを亡き者にしようとした。


 それが後に語られるようになる大戦である。


 ゼウスの肉体は消滅しても、魂はまだ人界に留まっていると考えられており、ヘラはそれを探し出して生き返らせようとしている。


 恐ろしいまでの執念である。


 執念といえば、メルヴィスもであろう。

 いまだ諦めずに行方不明のヤマトを探している。


 だれか何とかしてくれと思う大魔王ダールムであった。



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