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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第7章 いにしえの大魔王編
252/359

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 オレの手の中には、シマシマの尻尾。もちろんキョウカのだ。


「途中でちぎれるとは軟弱な」

 肝心のキョウカは、陣の奥へ吹っ飛んでいった。


 これは記念に貰っておこう。


 ネヒョルを見ると、身体についたホコリを払っていた。

 キョウカを武器にしこたま殴ってやったので、顔が怒っている。いい気味だ。


「ここまでやったんだから、覚悟はできているんだよね、ゴーラン」

 ネヒョルも一、二度ハデに吹っ飛ばしたんだが、ダメージはなさそうだ。


「おもしれえじゃねえか、エセガキ。やれるもんなら、やってみな」

 尻尾をクルクルと回転させて挑発すると、「今日は絶対に殺すからね」と凄んできた。


「お子様に殺されるほどヤワじゃねえぜ」

 尻尾を弄びつつ、オレの方から間合いを詰めた。


 この尻尾いいな。暇つぶしにちょうどいい。


 ヴァンパイア族のネヒョルと戦ってきて、分かったことがある。

 ネヒョルの肉体強度は大したことはない。


 オーガ族のときでさえ、武器があれば傷つけられた。

 肉体の強さとしては、そこらの中位種族並だとオレは思っている。


 ただし、再生能力は別。特上位クラス。

 灰からでも蘇るんじゃないかと思うほど、しぶとい。


 消滅するまでと考えると、タフな戦いになりそうだ。


 目の端で、モウガが起き上がってくるのが見えた。

 そういえばさっき、キョウカを使って吹っ飛ばしていたっけ。

 あっちはあれだな。見た目相応。


「じゃあゴーラン。本気で行くからね」

「ご託はいいから、来い!」


 ネヒョルが爪を伸ばした。いつの間にか、牙も伸びている。

 そういえば、ネヒョルの特殊技能って、全部知らない。


 そんなことを考えていたら、あらぬ方向から巨大な魔法弾が飛んできた。


「うおえっ!?」

 慌てて避ける。


 ネヒョルも避けていた。飛んできたのは二十発くらいか。

 深紫色の魔力の弾で、そこから雷が発生しているのがみえた。


 当たるとショックを受けそうだった。


 魔法弾が放たれた方角からやってきたのはキョウカ。

 本気で怒っている。身体が朱に染まっている。


 しかも身体が膨張している。筋肉が増えたのか、パンパンだ。

「…………」


 キョウカは無言でこっちを睨んでいる。

 なんの動作もなく十を越える魔法弾が出現した。さっきより大きい。


「やばっ!!」

 オレはネヒョルを抱えて逃げ出した。


「ちょっ、なんで僕を抱えるのさ」

 横抱きにしたネヒョルが抗議の声をあげる。


 そこから攻撃してこないあたり、余裕がありそうだ。


「うるせえ、黙ってろ!」

 背中から迫る魔法弾を右に左に避けながら、陣の中を走り回る。


 爆音が轟き、天幕が吹っ飛ぶ。見境いなしだ。

 突然、地面が抉れて足下が崩れた。


「――ッ!!」


 両足に魔素を流していたオレでも対処できなかった。足場が急になくなったのだ。

 ネヒョルを放り出し、その場で一回転して着地する。


「なんだよ、いまのは」

 消滅魔法か? ずいぶんと物騒な魔法だぞ。


「それより僕を連れて逃げる必要ないじゃないか」

 ネヒョルの言い分はわかるが、あの場に残しておくわけにはいかなかったのだ。


 オレとキョウカの戦い。

 そろそろファルネーゼの知ることとなっているはず。


 あの場にネヒョルがいたら、「おもしろそうだから」でファルネーゼの邪魔をするかもしれない。

 まあ理由はどうあれ、オレが逃がしたくなかったんだが。


「いいじゃねえか。これで両方とも相手できそうだ」


 怒れるキョウカと積年の恨みが積もったネヒョル。

 同時に戦えるなんて、楽しいコトになりそうだ。



 キョウカは俺が予想した通り、魔法を使うタイプらしい。

 といっても魔法特化型ではなく、肉体派と半々くらい。


 この二対一の場面だが、オレの方は武器を預けたまま。

 本来なら泣いて謝って、許しを請う場面だが。


「楽しくなりそうだな」

 オレは笑みを浮かべずにはいられなかった。


 キョウカは先手を譲りたくないらしい。

 魔法弾を無茶苦茶に放ってくる。


 五十発かそれ以上。

 避けられるような数じゃない。


 背負っていた吸魔鉄の盾をかざして、やり過ごす。

 盾に何発も当たるのが分かる。

 衝撃は伝わってくるが、うまく吸収してくれているようだ。


「へえ、その盾。なにか特殊な効果があると思ったけど、魔法を吸収しちゃうんだ」

 耳元でネヒョルの声が聞こえた。


 ゾクッと鳥肌が立った。いつ来た?


 ネヒョルから逃げることは敵わない。前から魔法弾が雨のごとくやってきやがる。

 慌てて身をよじったら、背中に衝撃が来た。


 竜燐の鎧がネヒョルの爪を弾いたようだ。


「あれれ? これも特殊品なの?」

 驚愕の気配が伝わってくる。


 オレは馬のように、後ろに蹴りをいれた。

 ネヒョルが吹っ飛び、オレは振り返る。


「日頃の行いがいいからな。武器や防具が寄ってくるんだよ!」

 入手のいきさつは忘れたが、たぶん合ってる。


 少しして魔法弾が止んだ。

 魔法では倒せないと分かったのか、キョウカがやってくる。


 そこでオレはふと気付いた。

 キョウカの股の間から尻尾が揺れていた。


「もう生えたのか」

 あまりにあっさり切れたし、あの尻尾は自分で切ったのかもしれない。


 オレが力任せに振り回したから、脱出のために尻尾を諦めたとか。

 いま怒り心頭なのは、その屈辱ゆえか。だったら……。


「オイ、コラッ。オレの手元にあるコレと、新しく生えたそれ。何本に増えるか、試してみないか?」

 オレの挑発に、キョウカはおもしろいように乗ってきた。


 憤怒の形相で、突進してきたのだ。



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