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「いい方法を思いついたぜ」
俺はニヤリとキョウカに近づいた。
キョウカは、俺が配下になると思っている。
俺が近づいても「?」と思うだけで戦闘態勢をとることはしない。
「ネヒョルとは、早い内に決着を付けなきゃと思っていたんですよ」
俺はへらへらと笑いながら、ゆっくりと歩を進め、キョウカの脇に回り込む。
「ネヒョルとここで戦うというのか?」
いま山の向こうでは、戦争が起こっている。
面倒事は御免だという顔をしている。
「まあ……そうですかね」
後ろに回り、しゃがんでキョウカの尾を掴んだ。
両手で握りしめる。
「キサマ、何をする!?」
「よいしょっと」
俺は、両手両足になけなしの魔素を巡らし、尻尾を引っ張る。
大きくバランスを崩したキョウカの身体は、そのままつんのめった。
俺は尻尾を振り回す。
「これ、ジャイアントスイングの亜種ですかね。それともハンマー投げ?」
尻尾を持ってぶんぶんと回転させると、キョウカの身体は凄い勢いで回っていく。
目が回るだろうが、ダメージになるわけではない。
もちろんバターにもならない。
ただし、俺には目的があった。
「秘技、キョウカ打ち!」
キョウカの身体を武器として、ネヒョルを攻撃した。
そう、いつもの技だ。もうこれ、特技にしてもいいかもしれない。
――ガツン、ガツン
さすがに三回目は当たらなかったが、奇襲が効いたようで、驚くネヒョルに二度も打ち据えることができた。
「よっと!」
キョウカを放り投げて、俺は笑う。
「へえ~~、ゴーラン。どういうつもりかな?」
「ここでキッチリ引導を渡してやろうと思ってな。生きてここを出られるとは思うなよ!」
「それは僕が言うべきことじゃないかな? ここは敵地だよ?」
「貴様ッ!」
ムクリと起き上がったキョウカには、ダメージが見られない。
あのくらいで怪我をする小魔王はいないだろうし、それは予想どおり。
ようは、ネヒョルとキョウカの両方をやる気にさせるのが目的なのだ。
「ねえ、ゴーラン。僕らを敵に回して勝てると思っているの?」
ネヒョルが挑発してくる。というか、面白がっているフシがある。
何をしてくるのか、期待しているのだろう。
一方のキョウカは怒り心頭だ。
今にも襲いかかってきそうな威圧を感じる。
なるほどさすがは魔王直前の小魔王だ。
キョウカが怒ると、ここまでプレッシャーを感じるわけか。ひとつ利口になった。
俺はと言うと、実は内心立っているのがやっとだったりする。
バルザスとの戦闘で、魔素を使い果たしたからである。
これ以上戦闘継続はできない。俺は。
「さて、少々反則だとは思うが、やることをやってしまうかね」
俺はニヤリと笑って、俺の中にいる『オレ』に問いかけた。
――準備はいいか、と
進化するとき、俺はオレと対話した。
そのとき「魂」と「その入れ物」の事について少し分かった。
オーガ族だった頃、支配のオーブには、「俺」と「オレ」の魂が入っていた。
小さな支配のオーブはそれでもうパンパンだ。
その上さらに、俺が毎日少しずつ魔素を増やしていったのだから堪らない。
オレが表に出てくるだけで、身体が悲鳴を上げていた。
「俺」よりも「オレ」の方が、魔素量が多い。
進化したことで、身体や魂、魔素量……何もかも強化された。
外見が変わり、種族も変わった。
進化後の『オレ』の魔素量は凄まじく、この肉体を持ってしても、すぐに限界がきそうなくらいだった。
まったく、どれだけ増えたのかと嘆きたくなる。
だが、ここでふと考えた。
――あれ? じゃあ、他の強者たちはどうしているんだ?
二人分の魔素量を合わせても、魔王や大魔王には届かない。
彼らはそれほど特別なのか。
疑問に思ったので、トラルザードに聞いてみた。そうしたら……。
「自分でコントロールするに決まっておるじゃろ」とのこと。
魔素でもって魔素を制す。
そんな感じだ。
早速俺もやってみた。
魔素で強化してから、魔素を流すのだ。
するとあら不思議。
いままでの苦労がなんだったのかと思うほど、ラクになった。
制御さえ覚えれば、オレが出てきても問題なくなったのだ。
これは塔の中で練習した。あのヒマしていたときだ。
砂鎧族のヨルバも協力してくれた。
魔素が溢れ、危なくなったときもある。
吸魔鉄の盾がいい仕事をしてくれたのも、付け加えておこう。
ありがとうドブロイ。お前から貰った盾は有効利用している。
魔素で魔素を制御するやり方を覚えた俺は、オレに変わるときの負担を軽減できて……。
「んじゃ、いっちょやるか」
オレはゆっくりと目を開けた。
こっちを凝視している二人がいる。
ひとりは目を見開いているな。
「な、なぜ、魔素がこれほど急激に増えるのだ?」
驚いてやがる。
「ゴーランの特殊技能みたいなんだけど、魔素を増やす技ってあるのかな」
ネヒョルには見せてあるから、驚きはないらしい。
「何を呑気な……こやつの魔素はどう考えても(うわっ!)」
オレは足に魔素を纏わせ、キョウカの後ろに回り込んだ。
尻尾を掴むと、片手で振り回した。
――ブーン、ブン、ブン
「キョウカ乱れ打ち!」
主のピンチとばかり、止めに入ったモウガを「それ」で打つ。
俺だけじゃなく、オレだって使えるのだ。
モウガが大きくのけぞったところで、ネヒョルに狙いを定める。
これは武器を取り上げられたとき、本当に便利だな。
いつでも使えるようにしよう。
「キョウカ烈風!」
「キョウカ爆撃!」
「キョウカ爆裂殲滅斬!」
適当に付けた技名で、次々とやってくる部下を蹴散らしていく。
奴らも主人直々に蹴散らされたら、さぞ満足だろう。
「あいかわらず豪快に馬鹿なことをするよね、ゴーラン」
「おっと、お前を残していたんだったな」
忘れていた。
もとはといえば、ネヒョルをぶち殺すための戦いだった。
「受けてみろ、キョウカ最終奥……」
――プチ
あっ、ちぎれた。




