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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第7章 いにしえの大魔王編
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 小魔王キョウカの陣幕内には、ぱっと見た感じで二十名ほどがいた。

 どれもが上位種族と思われるくらいの魔素を有している。


 一際魔素量が多いのが正面にいる男? いや女? 全体的にフォルムが丸いので女だと思う。

 位置的にもあれがキョウカだろう。


 虎っぽい顔に、黒い翼をもった種族だ。背が高い。

 直立歩行していることから、虎人系の最上位種と思われる。


 魔素量の割りに身体の線が細いことを考えると、魔法を使うタイプなのだろう。


「あっれ~、ゴーランじゃん」


 声の主を探ると……キョウカらしき者の近くに少年っぽいのがいる。


 小性ではない。魔素量はキョウカに負けていない。

 そして見覚えがある。


「てめえ、ネヒョル!」

 瞬間的に俺は腰の六角棍を……と思ったら、ここに来る前に預けたままだ。


 背中の深海竜の太刀もだ。

 鎧は着ているがそれだけ。


 激昂した頭が冷えた。

 無手で殴りかかるわけにはいかない。


「追われて軍から逃げ出してきたのって、ゴーランだったの?」

 モウガの部下が報告に来たはずなので、内容を聞いたのだろう。


 ネヒョルは「ふーん、そっか-」とひとりで納得し始めた。

「知っているのか?」


 キョウカがネヒョルに尋ねる。キョウカがちょっとがに股になった。女でいいんだよな。

 ネヒョルの身長がキョウカの太ももまでしかなく、大人と幼子くらいに身長差があるのが原因か。


「ゴーランは、以前僕の部下だったんだよね。今は敵?」

「そうだな。ちとこっちに来いや。動かなくなるまで殴ってやるぞ」


「……って感じの元部下なんだけど、会う度に喧嘩を売られたことしか記憶にないかな。いっつも戦いを挑まれている感じ?」


「コイツは上官と戦うのが趣味なのか?」


 キョウカが俺の方をチラ見している。

 難儀な部下は要らないと、顔に出ている。


 俺だってそんな狂犬みたいな部下は欲しくない。扱いにくくてしょうがない。

 ただ、一言いわせてもらうなら、俺は誰彼構わず戦いを挑んだりしない。


「でも強いことは確かなんだよね。なにしろ僕を真っ二つに斬るくらいだし」

「なんだと!?」

 それほどか……とキョウカが驚く。


縦裂たてさきになっても、くっつけてどっかに逃げていきやがったけどな」

 あのときはもったいないことをした。止めを刺しておけばよかったのだ。


「あれでね、僕の計画がかなり遅れたんだよ。文句があるのはこっちなんだからね!」

 怒っているらしい。


 ネヒョルの言う計画とは、新米魔王を作り出してそれを自分が討つことだろう。


 ヴァンパイア族が進化するのに魔王の持つ支配のオーブが必要だと、メルヴィスが言ったらしい。

 今までのネヒョルの行動からも、それが正しいことが分かる。


 だがそれをここで言うのは、ネヒョルを警戒させるだけだ。

 もしネヒョルがこの場を脱した場合、今以上に潜り、暗躍し出すだろう。それは避けたい。


「なんだか知らねえが、コソコソと動きやがって。頭にきているのはこっちだ」

 俺はネヒョルの企みを知らないはず。だからそう伝えてみる。


 さて、ここで改めて考えてみる。

 目の前には、ネヒョルとキョウカがいる。俺はどうしよう。


 心情的にはネヒョルをぶち殺したい。

 それはもう、このまま殴りかかってやりたいくらいだ。


 だが、俺の一時の感情だけで、作戦を台無しにするのは拙い。

 俺とネヒョルが戦っている間に、キョウカがフリーになるのはとても拙い。


 ネヒョルとの戦闘音を聞きつけて、勘違いしたファルネーゼ将軍たちがやってきたら台無しだ。

 ということは、当初の予定通りキョウカとの一騎打ちを挑むのがいい。


 魔界の住人は強さをとても大事にする。

 一騎打ちを挑んだ者に複数で攻撃するようなことはしない。


 それで勝っても「一人では勝てなかった弱い奴」というレッテルを張られてしまう。


 上に立つ者にとってそれは致命傷だ。

 強さこそ正義の魔界において、強さを示せない奴にだれがついていくだろうか。


 いま俺がキョウカに下克上を仕掛ければ、キョウカは受けざるを得ない。

 だが、もう二度とネヒョルと会えないかもしれないし、奴の企みをここで潰したい。心底潰したい。


 ……困った。


 俺がそんなことをウダウダと考えているうちに、ネヒョルとキョウカが話をしていた。


「進化前はオーガ族だっただと!?」


「そうだよ。しかも、そのとき僕は、一度負けているんだよね。お互いに本気じゃなかったんだけど、それでも手首と腕を斬り落とされたのには参ったな」


「オーガ族といえば、ただの肉壁だぞ。なんでそれがヴァンパイア族と対等に戦える?」


 キョウカが驚きすぎて、さらにがに股になっている。

 股の間から黄色と黒の尻尾が垂れていた。やはり虎が主体の種族であるらしい。


 しかし本当にどうしようか。

 このままキョウカと一騎打ちすべきかどうなのか。


 何かいい方法はないだろうか。


 俺は雑談を続けている二人を見ながら考えた。

 となりでモウガが俺を凝視している。

 ときおり「元はオーガ族だと……まさか」などと小声で呟いている。


 モウガもいることだし、やっぱりキョウカと戦うべきだろうか。

 幸いなことにこの天幕は、目隠しされた上に広い。戦いながら逃げるのにも最適だ。


(仕方ない。キョウカと戦うか)


 俺はキョウカに近寄り、一騎打ちを申し込……もうとしたら、ユラユラと揺れている尻尾に目がいった。同時にある考えが浮かんだ。



 ――同時に相手をしたらよくね?



 ネヒョルとキョウカ。

 片方を相手にしようとするから悩むのだ。


 もう片方がフリーにするのが嫌ならば、二体同時に戦えばいい。


「完璧じゃないか」


「ん? どうしたの、ゴーラン?」


 無邪気に聞いてくるネヒョルに、俺は笑った。



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