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現れた駄兄妹を俺はよく見た。
サイファは俺の背丈に並ぶほどだ。かなり身長が伸びたな。
身体の厚みは俺の方がある。
サイファの全身が赤銅色に焼けた色をしている。そういう種族なのか。
「それ、特殊進化だよな。何になったんだ?」
自分の進化先は、支配のオーブに刻まれるらしく、自分だけは理解できる。
進化した種族名が頭に浮かぶのだ。
魔界の摩訶不思議現象だと俺は思っている。
「オレか? オレは『益荒男』らしい」
「起源種かよ」
どうりで見たことない外見だと思った。
俺に続いてサイファまで起源種に進化するなんて、一体どうなっているんだ?
しかも、益荒男って……荒ぶる男の名称だろ。種族名じゃねえよ。
魔界だからいいのか。
「ねね、ゴーラン。わたしのことも聞いてよ」
「ベッカか。おまえはどうでもいい」
「え~~!?」
「冗談だ。おまえは何になったんだ?」
こいつも見たことない種族だ。
ヤシャ族に似ているが少し違う。
「わたしはね、『ダキニ』だって」
「ふうん」
「あっ、なによ、その反応」
「いや……よく生き残ったな。偉いぞ、ベッカ」
「へへ~ん」
阿呆のくせに、生き残ることができたか。
しかし、ダキニとは。
こっちも起源種か。『駄キニ』と呼んでやろう。
インドかどっかに、そんなのいなかったか?
独鈷杵とか持った鬼神かなにか。
ベッカの場合、赤というか、ピンクっぽい肌だ。
筋肉モリモリというわけではない。
だが背も伸びて、爪もずいぶんと太く鋭くなっている。
あとツノが伸びて、いかにも鬼っぽい。
なんにせよ、格上と戦うことで進化するオーガ族が、起源種になるまで戦い抜いたって……生き残れるものなんだな。
「ああ、そうか」
「ん? どうした、ゴーラン」
「何なの?」
普段から俺と戦っていることで、コイツら格上と戦っても死なないコツを掴んだな。
年間百回くらい叩きのめしてやったことが、功を奏したのかもしれない。
「よかったな、特殊進化するほど戦えたわけだ」
「おう。楽しかったぜ。バンバン潰したしな」
「ボッキボキに骨を折っちゃったもんね~」
サイファは金棒のぶっといのを持っている。
文字通り、それで敵を潰したのだろう。
そしてベッカ。こいつまだ関節技にこだわっているのか。
以前俺がやったのを根に持っているってことはないよな。
面倒なときは、よく腕か足の骨を折って放置していたし……っと、そういえば、これを聞いておかなきゃ。
「で、駄兄妹はどうしてジャニウス軍にバラしたんだ?」
「バラしたって?」
「何を~?」
「魔王トラルザードの国との同盟だよ。あれは極秘だ。よって俺たちが軍を交換したのも極秘」
「えっ、そうなのか?」
「知らなかった~」
「…………」
話を聞いていないのは、いつものことか。
「それにオレはバラしていないぜ」
「そうそう。文句があるならいつでも相手になるって言っただけだし」
そうなのか。だったら問題なさそうだな。
リグの勘違いか?
「すぐにメルヴィスの国に帰らなきゃいけないから、文句があれば、こっちへ来いって言ったな」
「うん。言った、言った」
「言ったじゃねえか! この駄兄妹!!」
なんでメルヴィスの国に帰るって言うんだよ!
それじゃ、バラしたのと同じじゃん。
こいつらは駄兄妹じゃない。馬鹿兄妹だ。
魔王ジャニウスの国と戦争になったら、どうするんだよ。
「よしリグ」
「なんでしょうか」
「今の話、聞かなかったことにしよう」
「はっ?」
「いいな」
「えっと………………はい」
「よし。あとはコイツら馬鹿兄妹をシメて終わりにしよう」
「おっ、ゴーラン。やってくれるか」
「次、わたしね~」
「おう、いいぞ。今日はたっぷり相手をしてやる」
「すげー、気前がいいじゃん」
「珍しいねえ~」
「ここじゃ狭いから、もっと広いところへ行こう。どこがいいかな」
「あの、ゴーラン様」
「どうした、リグ」
「できれば天幕から離れたところでやっていただけたらと……思います」
そうだな。サイファあたりが吹っ飛んで破れたりしたら、修復するのはリグたちの仕事だもんな。
ただでさえ忙しいのに、リグの手間を増やしたら申し訳ない。
「よし、そういうことなら陣の外に行こう。そこなら迷惑がかからない」
かなり強固な陣が敷かれているし、壊れる心配もない。
そして陣の外ならば、だれもいない。
思う存分馬鹿兄妹をシメることができる。名案だ。
「お前ら、俺に付いてこい」
「よっし、やるぜ!」
「楽しみだね~」
俺は馬鹿兄妹をともなって、出て行った。




