表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第7章 いにしえの大魔王編
235/359

235

 俺は渾身の作を置いていかざるを得なくなった。

 なにしろ、行き先は戦場だ。


 さらば、麦わら帽子と浮き輪と魚獲り網よ。

 お前たちのことは忘れない。


「リグ、部隊を編成してくれ。すぐにだ」

 家に駆け込んだら空だった。


「そうか、まだだよな」


 リグは魔王トラルザード領からこっちに向かっている途中のはずだ。

 ここにいる訳がない。


「……仕方ない。自分で編成するか」


 オーガ族の各村へは、人を出せばいい。

 数はどうしようか。あとでサイファたちと合流するから、百もいればいいだろう。

 各村二十名ずつと言っておこう。


「おい、この村の連中を何人か集めてくれ」

 やってきたオーガ族の連中に、戦いに行くことを告げる。


「この村から二十名連れて行く。他の村も同じだ。面倒だから、先着順で締め切るぞ。戦いたいやつは、俺についてこい」


「「「うぇーっす!」」」


 素直な奴らだ。というか、コイツらは深く物事を考えていない。

「戦い? だったら俺も行くぜ」というノリなのだ。


 食糧の準備は非戦闘種族に任せるからいいとして、問題は移動だ。

「集合場所は北の町っていうしなぁ……」


 行ったことがない。迷わず行けるだろうか。


 リグならばすぐに斥候を出して、道中の安全を確保しつつ、ルート選定までやってくれるのだが、いないものはどうしようもない。


「町の場所はだいたい分かるから、それでいくか」


 小魔王レニノスとの戦いで、城から北上したことがある。

 向かう町はその近くだ。




 兵を集めてから、三日経った。

 各村から集まった総勢百二十一名のオーガ族たち。ちなみに俺を入れてだ。


 連中は荷物と武器だけの簡素な装備だ。戦場へ行くような格好ではない。

 それでも扱い方ひとつで、こいつらは化ける。


「ようし、戦いにいくぞ!」

「「ちょぇーっす!!」」

 分かっているんだろうか。本当に。


 若干不安になりながらも、なるべく大きな道を選んで北上した。

 道中、二度ほど道を間違えた。ご愛敬だ。


 それと、土砂崩れで通れない道とか、立て札もないのに複数の分かれ道がある辻とか、あいかわらず国内は整備されていない。


 それでも歩くこと七日。

 俺たちは目的の町グルッカへ到着した。




「すごい数の兵だな」

 ファルネーゼ将軍麾下の兵って、こんなにいたのだろうか。


 到着の挨拶をしなければならない。

 普段ならリグにやらせるんだが、今回は俺の仕事だ。


「将軍直属部隊の長ゴーランだ。オーガ族部隊が到着したと伝えてくれ」

 戦闘種族の中で考えると、オーガ族は扱いが難しい部類に入る。


 弱いわけではないが、難しい作戦を理解できないのと、状況の変化に対応できないので、使いづらい。


 突撃させるか拠点防衛に回せば、力を発揮するが、目的を持たせて自由行動させると、途端に阿呆の集団になる。

 今回も恐らく単純な命令のみが与えられるだろう。


「なあ、おい!」


 俺は暇そうにしている非戦闘種族のひとりをつかまえた。

 メガネザルみたいな外見だが、なんていう種族だろう。


「なんでございましょう?」

「陣に着いたばかりなんだ。最新の状況を教えてくれ」


 陣の中を見る限り、怪我をしている者は少ない。

 元から怪我をしている者がいることから、前回キョウカ軍と戦った兵たちだと思われる。


「キョウカの軍を発見したところですが、小魔王本人がそこにいるのか不明で、いま調べさせているところです」


「発見した軍ってのは、どのあたりだ」

「目の前の山を越えた場所にあります」


「結構遠いな」

 でかい山が聳え立っている。行軍だと山を越えるのに数日かかりそうだ。


「しばらくは状況が動かないということで、陣内は警戒解除されています」


「なるほど、ありがとう。よく分かったよ」

「それでは私はこれで」


 もしキョウカの軍がひとつしかないのならば、難しいことはない。

 戦って撃破すればいい。


「問題は、単独行動か」


 前回、軍同士がぶつかっている間に、少数で城に入り込まれたらしい。

 つまりキョウカは、そういう戦い(・・・・・・)ができるやつだ。


 軍がそこにあるからといって、気を抜くと大変なことになる可能性もある。

「ファルネーゼ将軍はどうするのかね」


 まあ、俺には関係ないけど。




「ゴーラン様でいらっしゃいますか」

「そうだが?」

 飛鷲ひじゅう族の若者だ。俺を探しに飛んできたらしい。


「ファルネーゼ将軍がお会いしたいと」

「……? 分かった。すぐにいく」

 なんだろ?


 キョウカの軍がどう動くかも分からない状況で、オーガ族の配置が決まるとは思えない。

 とすると、俺個人に用があるのか?


 百人程度の部隊で何かできると考えているとか?

「……フッ、まさかな」


 さすがに寡兵すぎる。

 サイファやベッカたちもこっちに向かってきているだろうが、それでも二百そこそこ。

 何かを成すには少なすぎる。


「ゴーランです。呼ばれたので参上しました……あれ?」

 天幕に顔を出した。


 天幕にはファルネーゼ将軍しかいなかった。

 副官もいなければ、他の軍団長もいない。


「待っていたぞ、ゴーラン」

 将軍が椅子を勧めてくる。しかもにこやかに。


「そういえば、用事を思い出しまして……」

「待て、どこへいく。戻ってこい」

 チィ。


「ちょっとトイレへ」

「座れ」


「漏れそうなので」

「漏らしてもいい」

「…………」


 将軍しかいない天幕。

 にこやかに出迎える将軍。


 嫌な予感がビンビンだ。

 最近、そういう勘が鋭くなった気がする。


 まさか百名の部隊で特攻でも仕掛けさせるつもりか?

 死ぬぞ。


「ゴーランにやってもらいたい作戦がある」

「……はあ」


 あまりに理不尽なものなら、下克上で倒すか。

 倒せるかな? 倒せるよな。


 ……いや、どうかな。将軍の本気って、まだ見たことないし。


「どうした?」

「……いえ、何でもありません。それで作戦とはなんでしょう」


 思い出した。いまは、戦い前だった。

 キョウカ軍と戦う前に下克上しても、いいことはひとつもない。止めておこう。

 下手をすると、軍そのものの面倒を見なくてはならなくなる。


「作戦だが、ゴーラン一人にやってもらいたいんだ」

「俺ひとりですか?」

 とすると、偵察?


「本気で攻撃するから本気で逃げてほしい。逃げ込む先は、キョウカ軍だ」


「………………はっ?」

 いま、何て言った?


「単独でキョウカ軍の中に入り込み、キョウカに謁見してほしい。そして……あとは分かるな」


 小魔王キョウカと、お手玉をして遊ぶのですね、分かります。


「いや、分からねーよ!」


「分からないか? キョウカと一騎打ちをしてほしいんだ」


 そっちの分からないじゃねーよ!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ