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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第7章 いにしえの大魔王編
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○小魔王メルヴィスの国


 メルヴィスは玉座で目を閉じ、考え事をしている。

 周囲にはだれもいない。副官が寄せ付けないのだ。


 玉座の間は、シーンと静まりかえっている。

 ふと目を開けて、メルヴィスはいぶかしげに問いかけた。


「どうした?」

 だが、そこには何もない。誰もいない。


「やられた」

「やられたね」


 声はメルヴィスの副官ジッケとマニーのものだった。


 エターナルインビジブル族である二人の姿を見られるのは、メルヴィス以外にいない。


「ファルネーゼ? たかが数百年で成長したのか」

 メルヴィスの記憶では、ファルネーゼと副官の二人では強さの開きがあった。


「違うんだよ」

「そう、違うんだ」


 慌てて言い訳を始めようとした二人をメルヴィスが睨む。

「挑んで負けたのだ。弱き者のようにさえずるな」


「…………」

「…………」


 声は聞こえなくなった。

 メルヴィスはこの二人がファルネーゼにちょっかいをかけたのを知っている。


 昔からこの二人は、周囲の者にちょっかいをかけ、死なせてしまうこともよくあった。


 ――弱かったから死んだ


 そううそぶいてはばからない。

 ならば、負けた事を潔く受け入れるべきだとメルヴィスは考えていた。


「違うんだ」

「そう、違うの」


 それでも抗弁する二人に、メルヴィスは「どういうことだ?」と初めて興味を持った。


「もう一人いたんだ」

「もう一人いたね」


 どうやら、部下がいたらしい。

 メルヴィスの記憶では、それらしい者の名が浮かばなかった。


「ゴーランと言っていた」

「ゴーランと呼ばれていた」


「ふむ……ゴーラン。聞かぬ名だ」

 メルヴィスが眠りに入る前にはいなかった部下だ。


「見えていたね」

「見えていなかったよ」


「見えていなかったけど」

「見えていたね」


「攻撃が当たったけど、当たらなかった」

「当たらなかったけど、当たった」


「ふむ」

 最初は攻撃が当たったけど、途中から当たらなかったと言いたいらしい。


(戦いで成長したか?)

 そうメルヴィスが考えたとき、玉座の間にひとつの影が差した。


 現れたのはファルネーゼ。

「おまえたちは黙っていろ」


「えー、やだよ」

「やだね」


 ギロリと睨まれて、二人は慌てて口をつぐむ。


 ファルネーゼはメルヴィスの前までくると跪く。


「魔王トラルザード領におりました部隊が戻ってくるそうです。隊長を任せていた者が先に帰還しまして、魔王トラルザード様からの伝言を持ってきました」


 ――今後ともよしなに


 ファルネーゼは、ゴーランから聞いた言葉そのままに伝えた。


「委細分かった。……して、その部隊の隊長とやらの名前はなんだ?」

 そうメルヴィスが尋ねた。




○ゴーラン


 帰還の報告をして伝言も伝えた。

 もう城に用はないので、すぐに故郷へ向かう。


 オーガ族の村は徒歩で五日ほどかかる。

「走るか」


 ジッケとマニーと戦った影響で、身体中怪我だらけだ。

「穴を開けられたり、押しつぶされたり、散々な目に遭ったな」


 その分のお返しをしたつもりだが、どれだけ効果があったのか。

 目に見えないので分からない。


「全力疾走は止めておくか」

 怪我をした身である。余力を残しつつ、走ることにした。


「ほっ、ほっ、ほっ……意外といいペースだな」

 ジョギングのペースで一日中走った。


 その日の夜には、道程の半ば以上進むことができた。


 夜は野宿だ。といっても、木の陰でゴロンするだけ。

 町で買ってきた食い物を腹に詰めて、横になる。


「しかし今日は戦い難かったな」

 最近は魔界の戦い方に慣れたのか、単純に強いか弱いかだけしか考えていなかった。


「これじゃ駄目だな」


 魔界で生き残るには、もっと総合的な力を身につけた方がいい。

 いつどんな状態でも、もしくはどんなに不利な相手でも、勝つか逃げることができるようにする。


 それが生き残る秘訣だ。


「イチから鍛え直しだな」

 そんなことを考えながら、俺は目を閉じた。




 翌朝。

 身体の傷は目立たなくなった。

 大きなものはそのままだが、打ち身や痣は跡が目立たなくなってきた。


「よし、少しペースを上げて今日中に着くぞ」


 街道を突っ走った。

 昨日よりも身体が軽い。怪我が良くなっている証拠だ。


 昼も食べずに走り通すと、午後の日が陰る前に村に到着した。


「帰ったぞ」

「だれだおまえ?」

 村の入り口にいたオーガ族に睨まれた。


「ベンとダダスか。俺だよ。ゴーランだ」

「ああん? なんだってオマエがウチの大将の名前を……って、本当にゴーランか?」


「そうだよ。俺と魔素の繋がりがあるだろ」

「……そういや、そうかも」


 この村はみんな俺の部下だ。

 支配のオーブで繋がっている。


 近くにいるならば、自分の内にある魔素をたどれば、俺と繋がっているのが分かる。


「というわけで、帰ってきたんだが」

「そうか。他の奴らは全員おっ死んじまったのか」


「生きてるよ! 全員じゃないけど。俺だけ先に戻ってきたんだ」

 結構あっさりと仲間の死を受け入れるんだよな、そういえば。


「まあとにかくおかえり。それで、その姿はどうしたんだ?」

「進化だ」


「それは分かるよ、この馬鹿」

 馬鹿と言われた。オーガ族に馬鹿と言われた。


「まあ、あれだ。危険な戦いを何度か経験したらこうなった」

 こうなってからも、何度か危険な戦いをしたが……俺って呪われてないか?

 今さらだけど。


「そうか。大変だったんだな」

 オーガ族はすぐに死ぬ。


 激戦を何度か経験しているうちに進化するが、その前に死ぬ。

 ほとんど死ぬ。


 死線をくぐり抜けて進化できるのは、宝くじの高額当選を連続で当てるようなものだ。

 だから「大変だったな」といわれるのは正しい。


「そういうわけで俺は家で休む」

 というか、寝る。


 トラルザード領からずっと走って、変なのと戦って、ここまでまた走ったから疲れた。


 二、三日ゆっくりしたら、村の見回りでもするかな。



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― 新着の感想 ―
[一言] ゴーランが見えない二人をふん捕まえて「ゴーラン特性打撃武器」にして泣いて謝るまで壁や床にたたきつけ続ければよかったのに。 ついでに握撃で脚を握り潰して逃げられないようにして。
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