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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第7章 いにしえの大魔王編
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 エターナルインビジブル族。

 こいつらについて分かっていることは少ない。

 姿が見えないこと、声の場所にいないことくらいか。


 殴った感触から、防御特化ではないことは分かる。

 さもなければ、俺の一撃で吹っ飛ばされたりしない。


 殴った感触も、脆いものだった。

 硬い奴からだと、岩盤を叩いたような感触を受けることもある。


(ただ、メルヴィスの副官をしているくらいだ。そこらの上位種族なんか目じゃないほど強いんだろうな)


「こいつ、生意気」

「生意気だね」


「ふたりで殺っちゃおう」

「よし、殺っちゃおう」


 ジッケとマニーが俺を標的にしたようだ。

 ファルネーゼ将軍への攻撃を俺は見ていた。


 分かる範囲で、こいつらの戦闘方法を分析する。


(いつも後方から迫っていたな)

 正面側には立っていなかった。


 攻撃を当てるつもりならば、後ろから襲う方が、反撃を喰らわなくていい。

(せっかく姿が見えないのに、攻撃する方角を自分から狭めてどうするんだか)


 姿の見えない奴が後ろから攻撃する。

 たしかに効果的だが、それだけだ。


 後方に意識を集中させて、耳を澄ます。

 足音は聞こえない……いや、聞こえた。


 空気を斬り裂く音。上段からの攻撃かっ!


 六角棍を下からすくい上げて攻撃を弾いたあと、連撃を叩き込む。

 一連の流れになるように混を振るった。コンボ技だ。


 それでも二発しか当たらない。

 三発目は受けられて、四発目はから振った。


「勘が鋭いね」

「見えてないのにね」


 警戒した声が聞こえた。

 この二人、数百年ぶりに起きたらしいが、当時は『せん』を使う者はいなかったのだろうか。


 攻撃が来るたびに、察知して反撃する。

 カウンターは、神経をすり減らすが、タイミングが分かればあとは楽だ。


 どの武道でも、相手の攻撃をいなしてから反撃したり、カウンターを当てる技は存在している。

 俺にとって、後の先は馴染みの技になるわけだが……相手が二人でなければなんとかなる。


「タフだね」

「意外だね」


 二対一だと、どうしても攻撃を食らってしまう。

 それが続けば集中力が乱れ、反撃が難しくなる。


(もう少しなんだが)

 見えてきた……といっても、実際に見えるわけじゃなく、攻撃のタイミングが分かってきた。ようやくだ。


「――はっ!」


 同時に攻撃が入った。後の先が生きていた証拠だ。


 それと俺の予想が当たった。

 こいつら、それほど打たれ強くない。


 雰囲気的に、身体はガリガリなんじゃないかと予想する。殴って吹っ飛んだわけだ。

 背もそれほど高くない。

 攻撃が中々当たらないのはそのためだ。


 タイミングが読めてきたので、同時打ちまで持ち込めた。

 俺の身体はタフに出来ているので、ここからは根比べだ。


 何度、何十度と攻防を繰り返していくうちに、同時打ちにも慣れた。


「先に当たった」

 ようやく先制ができた。


 来ると分かった時に瞬時に対応できた。

 つまり、相手の攻撃が当たる前にこちらの攻撃を当てたのだ。


「さあて、反撃開始といこうか」


 ジッケとマニーは阿呆みたいに、俺の背後から攻撃を仕掛けてくる。

 それが一番だというように、ワンパターンを止めようとしない。


 来る場所が分かれば対策が立てられる。

 攻撃の音を察知できれば、それに反応できる。つまり……。


「あれ? 当たらなくなっちゃった」

「当たらないね」


 こっちが一方的に攻撃できる。


「さあ、どんどんいくぞ」

 かなりのダメージを負ったが、まだまだいける。


 ジッケとマニー、どっちがどっちだか分からないが、片方はキリののように尖った腕で刺してくる。もう片方は、万力のような腕で挟んでくる。


 攻撃を受ければ穴だらけか、ペシャンコになる。

 攻撃を受ければ……だ。


「ゴーラン」

 ファルネーゼ将軍が声をかけてきた。


「問題ありません。でもそうですね……こいつをお願いできますか」

 俺は片方がいる辺りを蹴飛ばした。


 足の裏に感触があった。将軍の方へ転がっていったと思う。


「見えるのか!?」

「見えませんが、腕を折ったんです。同じ場所にいるかなと思って」


「そうか。……ならば遠慮無く戴くとしよう」

 将軍の瞳がキュッと狭まった。本気になったか?


 というか、ヴァンパイア族の瞳って、鰐みたいに縦長になるんだな。

 もとは普通の目だったのに……。



 ここからは特筆することは何もない。

 将軍も俺もエターナルインビジブル族相手に、互角の戦いを繰り広げた。


 といっても、化け物並に回復力のあるファルネーゼ将軍と先制できるくらいタイミングが読めるようになった俺だ。


 将軍の場合、無傷に見えるので、一方的にボコっているようにしか見えない。


 俺の魔素を乗せた攻撃ならば、一撃でダメージを与えられる気がするのだが、敵の耐久力はそれ以上。

 しばらく戦ったが、決め手に欠けて、膠着してしまった。


(このまま延々と戦うのは厳しいな)


 相手が見えないから、ダメージをどれだけ与えているのか分からない。

 砂漠で迷子になったような気分か。迷子になったことはないけど。


「……ん?」

 攻撃してくる気配がない。


 しばらく待っていても同じだ。

(逃げた?)


「逃げたようだな」

 ファルネーゼ将軍の方も同じらしい。


「隠れて安心させてからってのは、ないですか?」

「これ以上やっても埒があかないと思ったのだろう。戦う意味がないし」


「戦う意味? ……あっ、不甲斐ないってやつですか?」


「そう。メルヴィス様にお目通りする資格がないと言っていたが、負けて逃げ出したところをみると、その資格はあるってことでいいのかな」

 将軍は苦笑している。


 なるほど。

 ファルネーゼ将軍が不許可だったら、メルヴィスに会える者はいなくなってしまう。


 もういいやと思って逃げ出したのかな。

 だとしたら不甲斐ない。


「これで決着と言われても、なんだかすっきりしませんね」

 逃げて終わりと言われても、どうなんだ。何がしたかったんだか。


「逃げたら追いつけないし、見付けられないからね。あれもひとつの戦い方だろう」

「なるほど。だったら、次は逃げられないようにします」

 足を集中的に狙って折るとか。


「頼もしいな……そういえば、私に会いにきたんだったな」

「目的を忘れるところでしたが、大した用事でもないんです」


 そこで俺は呼吸を整えて言った。


「魔王トラルザード様より帰還の許可をいただきまして、こうして戻ってまいりました。部下はまだ帰還途中ですが、ひとまずご報告致します」

 そう、将軍に帰還の報告をしにきたんだ。


「帰還については確認した。部下が戻り次第、部隊を解散させてよろしい」

「ありがとうございます」


 これで俺の任務は終わった。


「それでゴーランは今後、どうするんだ?」

「決めてないですが、村に帰って休みますかね」

 休養は大事だ。


「そうか。ゴーランの所属は以前と同じ、私の直属にしておく。メルヴィス様が起きてこられたことで、軍の編成が変わるかもしれないし、今後は未定だ。ゆっくり休むといい」


「はっ、了解しました」

 正式に休暇が与えられた。


 ようし、村で食っちゃ寝の生活をするか。



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