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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第6章 魔王際会編
221/359

221

「さあて、どうやってぶっ潰してやろうかね」

 俺は深海竜の太刀を構えた。


「邪魔だ」


 天界の住人は俺を一瞥したとたん、興味を無くしたようだ。

 えらく不遜な態度だ。


 奴の足下に魔方陣が出現した。


 魔方陣は結界を張るためのものだろう。

 よく見たら、奴は小さな箱を手にしている。


 小箱は結界を張るのに必要か……そういえば、前回も小箱を持った奴らがいたな。

 あれを奪えば、奴らの鼻をあかせられそうだが、そう簡単にはいかないだろう。


 小箱は戦って奪い取ればいいだけだ。

 そもそも俺は、こいつらの戦い方を知っている。


 強力な防御力と、こちらの防御を無視するかのような攻撃。

 天界の住人はたしかに厄介だ。


 身体に魔素を巡らせていなければ、こちらの攻撃は届かず、やつらの攻撃は防御を素通りしてダメージを与えてくる。


 そうなれば、一瞬で勝負はついてしまう。

 だが、タネさえ割れていれば、怖くない。


 俺は太刀に魔素をたっぷりと乗せた。身体にはすでに魔素を纏わせてある。


「これを防げるかな?」

 敵は武器を持っていない。

 ならば大ぶりする必要は無い。


 魔方陣に集中している敵に、至近距離から突きを放った。


 ――キィン


「なんだと!?」

 弾かれた。弾かれてしまった。


 深海竜の太刀に魔素を乗せた。

 進化した俺が込められる魔素は、かなり増大している。


 それも師匠直伝の突きだぞ。

 あれを弾くか。


 俺が呆然としている間に、魔方陣は輝きを増した。

 完成が近づいているのだ。


 俺は奴のいまの強さを、小魔王クラスと判断した。

 相当強い事は分かる。だが、魔界に来たことで本来の強さの半分ほどしか実力が出せない。


 俺でも勝機があると判断した。それは間違っていないと思っていた。


「くっ!」

 上段からの袈裟斬り、返す一刀で下からのすくい上げ。

 そのどれもが、敵の身体に届く前に弾かれた。

 透明の膜があるのだ。それで奴は守られている。


「どういうことだ!?」

 あり得ない。夢でも見ているような気分だ。


 これまで見向きもしなかったが、ようやくこちらに顔を向けた。

 

「邪魔だ」

 同じ表情から紡ぎ出される同じ言葉。


「クソ食らえだ」

 もう一度太刀を握りしめて、奴の首元を狙って突きを放った。


 渾身必殺の一撃。

 奴の首を貫く幻想まで見えた。


 だが、硬質な音を響かせて、俺の攻撃は弾かれた。


「ぐはっ!?」


 反対に、奴の手刀が俺の腹を抉る。

「どういうことだ!? 魔素でガードしたはずだろ」


 天界の住人と戦うときは、魔素で身体を強化する。

 しっかりやっておいた。


 奴の攻撃がこうも簡単に肉の鎧を通過するはずがないのだ。


「やはり、必要ないな」

「なにがだ」


「自分を強者だと思っているのか? そのレベルの魔石は必要ない」

 天界の住人は俺に興味を無くしたように、また視線を魔方陣に移した。


 すでに魔方陣は完成しており、そこから見慣れないエネルギーが立ち上っているのが見える。

 おそらく聖気を魔力かなにかに変質させたのだろう。


 魔素を弾き、聖気で満たす聖域を作るつもりだ。

 それを許してしまえば、結界内での戦いは不利になる。


「さすがに頭にくるぜ」


 一方的に俺の部下を殺し、今度は俺に興味がないという。

 なんて自分勝手な連中だ。


 ぶち殺したくなってしょうがない。

 というわけで、早すぎる気もするが、とっておきの技を使うことにする。


 腹の出血は止まらない。進化しているため、この程度でどうにかなるとは思えない。

 治療は後でもいい。こいつをぶっ殺すのが先だ。

 いや……ちょっと待て。


「俺の魔石に用はないといったよな……おまえが真打ちじゃなかったんだな」

 そうか、そうなのだ。

 分かってきた。


 こいつらの目的はトラルザードの魔石だろう。間違いない。

 奇しくも予想が当たったわけだ。


 そのための手段も分かった。

 いま張ろうとしている聖気の結界。これが肝なわけだ。


 こいつを含めた三体の敵……俺が真打ちだと思っていたが、違ったのだ。

 こいつらの役目は結界を張ること。


 敵を倒すわけでも、魔石を回収するわけでもない。

 結界を張って、それを維持するためにやってきたのだ。


 聖気の結界が張られれば、その中に本当の敵がやってくるのだろう。

 それは魔王トラルザードをも倒しうるような奴。


「……なるほどねえ」

 俺は腹に力を入れた。そうと決まれば回復優先だ。


 魔素を傷の回復にまわす。


 効果はお察しだが、もともとオーガ族は怪我に強い。

 進化してからはじめての怪我だが、以前よりも治りの速度が上がっているのが分かる。


 血が止まってきた。

 準備万端だ。


 そして向こうの準備も整ったらしい。

 魔方陣から発する光が天高く立ち上り、奴の周辺が聖気で満ちあふれた。


 魔界で聖気を発するには、通常よりもかなり多くの力がいる。

 そして聖気は、聖気を持つ者しか作れない。


 魔石から聖気を取り出すことは不可能だ。何しろ、魔石に溜まっているのは魔素なのだから。


「……ったく、これを作るのにどれだけの命が失われたのやら」

 天界の住人は、実験のためならば命すら厭わない。


 今回の侵攻で使われた聖気を提供した者たちは、いったいどれほどなのか。

 おそらく皆、生きていないだろう。


 聖気の柱は天に届くかと思えるほど高く伸び、俺が見ている前で硬質化していった。

 光がまるで大理石の柱のようになった。初めて見る。聖気の物質化だ。


「……これが聖気の結界か」

 そして結界。

 これを外から見るのは初めてだ。


 まるで光の壁が目の前に出現したようだ。

 前回は中に閉じ込められていたから分からなかったが、外から見るとこうなるわけか。


 中の様子は分からない。

 なにしろ、光の壁が出来てしまったのだから。


 今頃は、天界から本当の真打ちがやってきたころだろう。


 魔王を倒す存在が、満を持して現れたはずだ。

 結界を張った奴はというと、光の柱の中にすっぽりと隠れてしまった。

 物質化した柱の中にだ。


「自分の身体を使って柱を維持するわけか」

 そして柱があれば、結界が維持される。おもしろい構造だ。


 魔王と天界の住人の戦いがそのうち始まるはずだ。

 この中がどうなっているか分からないが、魔素と聖気の勢力争いは五分五分か、魔素が不利といったところだろう。




「さああああて、結界を壊しますかね」

 せっかくわざと攻撃しないで結界を張らせたんだ。

 攻撃してもいいよな。



 昔から、ものを壊すのって楽しいんだよな、なんでだろ。

 俺は不敵に笑った。



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