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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第1章 見晴らしの丘攻防戦編
22/359

022

 祭が始まった。

 みんな飲めや歌えで、好き勝手に騒いでいる。


「俺が作ったステージはだれも使ってないじゃないか」


 あれだけ頑張ったのに、みんな見向きもしない。


「昼間はいつもこんなもんだろ。夜になったらちゃんと盛り上がるぜ」

 駄兄妹の兄の方、つまり駄兄だけいのサイフォがやってきた。


「夜は力試しだろうが。丸太で組んだステージなんか、すぐに壊れるわ!」

「そうだろうな。ゴーランは今年こそは出るだろ?」


「出ねえよ。なんで普段から戦ってるのに、わざわざ目出度い日まで戦わなくっちゃならねえんだよ」


 毎年、祭の夜はステージ上で力試しが催される。

 腕相撲大会のような感じで、互いに腕力を競い合う。


 勝っても負けても勝負がついた後は暴れるので、ステージは徐々に壊れていく。

 もともと昼のステージが本当で、夜はそれを破壊するために始めたというのが真相らしい。


「そういえば俺、昼のステージを見たことがないな」

 本来は日中の今こそ、ここで出し物をやるんじゃなかろうか。


「オレも昼の部なんて見たことないぞ。というか、ここ何十年もやってないんじゃないか?」

「なんだそりゃ」

 祭のメインなのにやってないのか。


 ちなみにこの祭、正式名称は『小魔王メルヴィスの建国祭』という。


 建国に至る物語を演劇にして、どの町や村でも上演するらしいのだが、俺の村ではステージだけを作ってそれでお終い。

 いいのかそれで?


「何千年って続いている祭なんじゃないのか?」

「そうだろうな。なんってたって不死王メルヴィス様だし」


 かつて小覇王ヤマトの部下であったメルヴィス。もとは大魔王であったという。

 だが天界との戦いで呪いを受け、その力は大きく削がれたというのが巷間に流れる噂だ。


 本当のところは分からない。

 何しろ、小魔王メルヴィスは、長い眠りの最中なのだから。


「ヤマト様とともに戦った三人の側近は知っているだろ?」

 当たり前だと俺は頷いた。


 というか、脳筋のサイフォが覚えていること自体珍しい。


「狂気のザルダン、不死のメルヴィス、竜王バーグマンだな。いずれも大魔王級の力を持っていた」


「そう。ザルダン様は戦死し、バーグマン様は寿命でこの世を去った」

「残ったのはいまだ眠り続けるメルヴィスのみだろ」


 小覇王ヤマトが天界と戦ったのはおよそ四千年前。


 エルダーバンパイア族であるメルヴィスの寿命がどのくらいなのか分からないが、いまだ支配の石版に名前が残っている。


 竜王バーグマンは、亀竜族のユニーク個体らしく、やはり数千年生きた。

 それでも不死とはいかず、いまから千年くらい前に寿命を迎えている。


 ザルダンは何族なのか、資料が残ってない。

 一説には巨人種。ヘカトンケイル族の上位種ではないかと言われている。


 そしてメルヴィスだが、呪いを受けてその力を減らし、小魔王まで墜ちていったと言われている。

 呪いはいまだにメルヴィスの身体を苛むことから、聖王がその命と引き替えにもたらす類の攻撃ではないかと言われている。


 なんにせよ、メルヴィスはもうずっと長い間眠り続けている。




 日中から酒をあおる者が続出したため、日が暮れる頃には、村も本来の落ち着きを取り戻した。

 うるさい連中はみな撃沈している。蹴飛ばしても唸るだけで起きてこないので、朝までこのままだろう。


「さて力試しだな。期待しているぜ、ゴーラン」

 サイフォがやってきた。


「俺の話を聞いてねえのか、この駄兄! 出ねえって言っただろ」


「大丈夫よ。そう思ってあんたの参加申し込みをしておいたから」

 ベッカが満面の笑みで横から顔を出した。


「待てやコラァ、この駄兄妹。勝手に人の参加申し込みするんじゃねえ!」

「ゴーランは会場設営していただろ。妹が気を利かせたんじゃないか」


 この駄兄妹は相変わらず余計なことしかしない。

 足の骨でも折って、転がしておけばよかったか。


 ステージでやる力試しは、互いに組み合った状態から始める相撲みたいなものだ。

 殴ったり蹴ったりしてもいいのだが、ステージ外へ落とされたら負けなので、始まったらそんな余裕はない。


 はじめの合図と同時に押し合いがはじまる。

 はっきり言ってこの力試し、魔素量がものをいうので、俺にはキツい。


「……でも逃げるわけにはいかないよな」

 部隊長が参加申し込みだけしていなくなる。


 逃げたと思われるのは、今後を考えるとよくない。とくに魔素量が少ない俺は尚更だ。

 だが、出ても勝てるビジョンがまったく思い浮かばない。


「あれは、純粋な力勝負だしなぁ……」


 組み合ってからスタートだと、どう考えても技術が入る余地がない。


「二十人くらいか」


 集められた参加者を見たが、みな屈強そうだ。

 手に職を持っているため戦争には参加しなかった連中だ。


 奴らは村の力自慢で経験も豊富だ。

 というか、ステージに上がった全員がそうだ。その中で優劣を決めるのだからやってられない。


 対戦相手を決めるらしく、全員がステージに上がった。

 みな筋肉をアピールしたり、準備運動したりで、見ていてウザい。


(これはあれだな。やつらの脳筋を利用して一度で終わらせることにしよう)


 俺はステージにあがって、一番前に進み出た。


「おまえら、こんなちまちました戦いを繰り返して満足かぁ?」

 大声を張り上げる。あたりが静まり返り、うまい具合に俺へ注目が集まった。


「俺が全員を相手してやるぞ! やる気があるなら、かかってこいやぁ!」

 観客が盛り上がった。うぉぉおおおお……なんか言っている。


 ステージの力自慢たちも……やる気だ。

 一対二十の戦い。無謀にも思えるが、俺にとってはその方がやりやすい。


(組み合った状態から始めなくって済むからな)


 俺が振り向くと、全員が身構えた。

 もう始めるらしい。


 合気道、柔道、柔術……空手、ボクシング、レスリング。

 自分が今まで習ってきた技だけでなく、かつてテレビや動画配信で試合風景を見た技もある。


 オーガ族に転生してから俺は、何度となく実現できるよう鍛えてきた。

 この身体は見よう見まねを越えて、それらの技を再現できるようになっている。


「かかってこいやぁ!!」


 そしたら全員が飛びかかってきた。いや、順番を守ろうぜ。




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