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天界から侵攻してくる際、聖気の杭を打ち込んで魔界の様子を探る。
堕天した者が言っているのだから、それは真実だろう。
天界の住人がそのまま魔界に来ると、力はおよそ半分に落ちてしまう。
魔素が充満している中にいるのは、天界の住人にとって毒になるらしい。
余談だが、魔界の住人が天界に行けば、聖気にやられて同じ現象がおきる。
魔素と聖気は相容れないというのがよく分かる。
天界の住人が侵攻してくるとき、拠点を作りやすい場所を選ぶ。
魔界は広い。
スカスカにしか住んでいないのだから、魔王の住む町をわざわざ最初の侵攻場所に選ぶはずがない……そう思っていた。
「ここに来やがったか!」
確率的にはほとんどないと思っていたが、まさかここで会えるとは。
「これはまさか、聖気じゃと!?」
隣でトラルザードが驚いている。
長く生きているからこそ驚きも大きいはずだ。
天界の住人は馬鹿ではない。勝算がなければやってこない。
トラルザードはそのことを知っているからこそ驚いているのだろう。
天界の住人が勝算ありと判断したことに。
「こっちは願ったり叶ったりだぜ」
アイツらは、俺の部下を殺した。
俺も殺されかけた。
その落とし前をつけさせる。
進化前と違うことを見せてやる。
トラルザードと戦うことを想定して、準備してきたのがある。
「お、おい、ゴーラン。どこへ行くのじゃ」
トラルザードの声が遠ざかっていく。いや、俺が全速力で走りだした。
最近、暇な時間のほとんど使って、俺は魔素の扱いを習得してきた。
勉強しつつの鍛錬は前世で慣れている。すべては戦いのため。
結局、いくらやっても、魔法を使うことはできなかった。その萌芽もなかった。
種族として魔法は使えないのだろう。それはいい。
「代わりに、肉体だけはガンガンに強化できるようになったぜ」
両足に魔素をめ一杯溜め込めば、城の塀など簡単に飛び越えられる。
城抜けだ。
通常ならすぐに追っ手がかかるが、いまは非常時。というか、緊急時。
なにしろ、町中ですでに、天界の住人が出現しているのである。
混乱が大きそうな場所へ向かう。
その間に、空に向かって町から幾条もの魔法が飛んでいくのを確認した。
「対応が早いな」
本命はこれからやってくるだろうに、この町の住人たちはすでに迎撃を開始している。
天界の住人め、いきなり町中に出現したのは下策だ。
ここに出現したということは、拠点をつくる暇もなければ、聖結界を張る余裕もないはずだ。
出現した先で、即戦闘を強いられる。
これでは勝てる戦いも勝てないだろう。
「俺たちにとっては好都合だがな」
走りながら俺は、深海竜の太刀を抜く。
「どけ、どけぇ!」
町中で天界の住人と戦っているのは、恐らく上位種族。
うまく立ち回りながら、非戦闘種族に被害がでないようにしている。
俺は走る勢いのまま敵の一体を蹴り飛ばし、近くの一体に斬りつける。
こいつらは敵だ。ただの一体とて、生かして帰すつもりはない。
袈裟懸けに斬ったつもりだったが、僅かに浅かった。避けられたのだろう。
「相変わらず、表情のねえ顔しやがって!」
マネキンを思わせる顔に、白いローブ姿。前に見たのとそう変わりない。
こいつらは聖気が籠もった魔法を使ってくるから、攻撃を受けたら大変だ。
もう一度斬りかかるが、これも浅い。
どうやら戦闘経験が豊富な様子だ。切り込み隊だろうか。
連撃を叩き込む。
生前、道場で散々練習してきたフェイント交じりの斬撃をお見舞いする。
狡い手と思われただろうか。
虚実入り交ぜた攻撃には対応しきれなかったらしく、対応が遅れたところを後ろに回って首を薙ぐ。
今度は綺麗に斬れた。首が飛ぶ。
「まずは一体」
周囲に聖気をまき散らしながら、天界の住人は倒れていった。
「雑魚とはいかないが、真打ちとはほど遠いんだろうな」
オーガ族で戦った場合、倒されていたのは俺の方だっただろう。
そのくらいの強さは感じられた。後から来る連中は必ず、こいつらより強い。
「だが、俺だってこんなもんじゃねえぜ」
町から上がる迎撃魔法の数が、数倍に増えていた。
天に裂け目ができ、そこから何体もの天界の住人が現れた。
本格的な侵攻が始まったのだ。
――ひゅぅぅううううう
出現直後に大量の魔法を放ってきた。
一発がデカい。
町に着弾して大爆発がおきた。
――ドドーン、ドドーン
続けざまに複数の箇所で爆発した。
巻き込まれたら大怪我をしそうなほどだ。
「見境いねえな」
空にいる連中が今回の主役か、後にまだ控えているのか分からない。
だが確実に分かることがある。
「あいつらを倒さねえことには、この侵攻は終わらねえな」
前は不覚をとったが、もう同じ轍は踏まない。
死んだ仲間の敵を討つ。




