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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第6章 魔王際会編
214/359

214

 小魔王メルヴィスについては、俺もよく知らない。

 自分の国の王なのに知らないのかと言われそうだが、オーガ族の集落でも知っている者は少ないだろう。


 王はずっと前から寝ている……俺はそう聞いて育った。

 それ以上の情報を持っている者が、だれもいなかったのだ。


「小覇王ヤマト様が、敵のトップとともに戦場から消えた。最初にかけつけたのはメルヴィス様だったという」


 ヤマトとヘラ。

 二大巨頭どうしの戦いに、だれも近寄れなかったというのだから、駆けつけられる人物も限られている。


「戦場から消えたというのは、時空の狭間に落ちたときですよね」


「そうじゃな。メルヴィス様が真っ先に向かったが、そのときはまだ巨大な力が集まっておったらしい。魔素とも聖気とも違うものだったそうじゃ。そして中心地の時空が歪み、どことも知れぬ場所に繋がっていたという」


「それってどんな場所でした?」

「さて、それは我も知らん。バーグマン様の言葉を借りるならば、その話をするメルヴィス様の顔はもの凄く険しいものだったと」


「危険な場所だったのでしょうかね」


「かもしれんの。その後、集まってきた天界の住人たちをメルヴィス様はみなごろしにした。バーグマン様が到着したときには、そこは変質した魔素の漂う、まともではない場所に変わっておったと。ちなみに周辺にいた敵は全滅。恐ろしいまでの破壊力じゃな」


「あれ? メルヴィス様は呪い……聖気の攻撃を受けて弱っていたんじゃなかったでしたっけ?」


「うむ。戦いで大きなダメージを負っていたが、攻撃する力は残っておったのであろう。当時大魔王であったメルヴィス様が小魔王となったのは、聖気だけでなく別の理由があると我は思っておる」


「……? 眠りにつかなければならないほど、聖気によって魔素を削られたんじゃないのですか?」


「メルヴィス様が大魔王から小魔王になったのはいくつか原因がある。たとえば、支配や統治に興味を示さなかったメルヴィス様が、ヤマト様の配下に入って、それなりの仕事をするようになった。多くの部下を持っていたわけじゃが、ヤマト様が消えてからは、とんと興味を持たずに引きこもったわけじゃ」


 もともと統治や支配に興味が無かったため、やる気を無くしたようなものか。

「それで魔素が減ったんですね」


「うむ。部下の大半はバーグマンが受け継ぐことになった。ザルダンが戦死してその後釜も決めねばならんかったし、当時かなり大変だったようじゃ」

「あー、バーグマン様は苦労人ですね」


 フリーダムな上官にフリーダムな同僚がいると大変だ。


「メルヴィス様はあくまでヤマト様の部下として動いていたに過ぎず、まったく興味がなくなったようじゃな。多くの部下を放任したことで、独立する者もあらわれた。メルヴィス様は独立するに任せたので、多くの小国家が誕生したというわけじゃ」


「小国家……いまもそんな感じですね」


「そうじゃの。どうしてもという部下のみメルヴィス様のもとに残り、小さな領地で暮らしておったようじゃ。メルヴィス様がひとたび怒れば、小魔王だろうが魔王だろうがチョチョイノチョイで蹴散らされてしまうので、結局はみな恐れておったようじゃがな」


「……小魔王なのにですか?」

 さすがに小魔王の状態で魔王を蹴散らすのは不可能……って、目の前のトラルザードすら一蹴したんだっけか。


「メルヴィス様が大魔王から小魔王になったのは、魔素を何かに使っているのではと思っておる。そもそも小魔王とは思えない実力を有しておる。支配の石版には小魔王とあるので、支配のオーブから『何か』に直接力を使っているのではないかと考えておるのだ」


 戦いで聖気を受けた治療なのか、いなくなったヤマトを探すためなのか、もっと違う別の何かなのか分からないが、ただの小魔王とは思えないのだという。


「ヤマト様への傾倒ぶりがうかがえますね」


「我もそう思う。バーグマン様もそう考えたようじゃ。ゆえにヤマト様が作った魔界を維持するため、バーグマン様は面倒事を引き受けたのじゃろうな」


「やはりバーグマン様は苦労人ですね」


「本来は豪放な性格だったようじゃが、ヤマト様の配下になってからは、ずいぶんと細かくなったようじゃ」

「ご愁傷様です」


 俺も魔界に毒されたのか、最近大ざっぱな性格になったのではと思っている。

 副官に丸投げ案件も増えたし、なんていうか、上の者は細かいことは考えず、常に天下国家のことを考えていればいいと思うようになった。

 俺は天下国家のことなど、考えたことはないが。


「そしてバーグマン様が我にそっと教えてくれたことがあってな」

「そっと? なんです?」


「ある日、メルヴィス様はこう言ったのじゃ。『ヤマト様は終末に帰ってこられる』と」

「……終末ですか」


 週末じゃないよな。週末と言ったら、花金はなきん――花の金曜日を思い浮かべるけど、俺の前世はサラリーマンじゃないから分からない。


 いや、終末だ。

 人類で言えばラッパが吹き鳴らされ、善と悪の最終戦争が勃発して、怪物が次々現れて人類が滅びていく? うろ覚えだが、そんなイメージだ。


 魔界の終末とはなんだろう。やはり天界からの侵攻か?

 黙示録にでも記されているんだろうか。でも今まで予言書の類いは見たことも聞いたこともない。


「バーグマン様に終末とは何かを聞いたが、バーグマン様は分かっておられなかった。お主は分かるか?」


「……はて。魔界が崩壊するときでしょうか。具体的に何を指すのか、まったく分かりません」


「そうであるか。……メルヴィス様も何か確信があったのではないと思う。ただ、我らの力では抗えない何かがやってくるのかもしれん。そうなったときはじめてヤマト様が戻ってこられると考えておるのか。だとしたら……」


「やってきてほしくないですね、そんな時」


「うむ。じゃがいまの魔界は、煮えたぎった釜の中のようじゃ。いつ吹きこぼれるかわからん。ゆえに何がおきても不思議ではないと我は思っておる」


「何がおきても不思議ではない……」

 その言葉がいつまでも耳に残った。

 俺も何となく、そう考えている。何がおきても、不思議ではない。


「とまあ、我が話せる内容はこんなところじゃな。また思い出したら伝えよう。……いい具合に時間がたったことだし、今日はこれで終わりとするか」


 そう言ってトラルザードは、軍師のセイトリーを従えて去って行った。



 あとで俺は、なぜトラルザードと単独で会話できるのだと、ヨルバたちにさんざん問い詰められた。

 軍事的な話なので、秘密だとうまく誤魔化しておいた。



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