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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第6章 魔王際会編
213/359

213

 小覇王ヤマトについて分かっていることは少ない。

 名前自体はだれでも知っている。

 魔界の住人ならば一度は耳にしたことのある有名人だ。


 数千年前に魔界を統一しかけた最強の人物。

 古今東西、彼を越える者はいまだ現れていない。


「バーグマン様から直接聞いた話であるが、ヤマト様は突然現れたそうじゃ」


「突然ですか?」

 異世界転移的ななにか?


「それまでは無名ゆえ、おそらく進化したてなのだろう。特殊進化して、自分の力を試してみたくなった。ゆえにしがらみを外れて、諸国を巡り、強い者を探し歩いたのではないかと言っておった」


「それはまた豪快ですね……では、ヤマト様は最初、どこにも属していなかったのですか?」

 たとえば俺やファルネーゼ将軍は、小魔王メルヴィスの配下である。


 メラルダ将軍はこの魔王トラルザードの配下である。

 このようにして、魔界で暮らすにはどこかに属する必要が出てくる。


 そうでないと、どこへ行っても余所者扱いされる。余所者に安住の地は存在しない。

 だれかの庇護に入るか、自分で国を盗るくらいしか、周囲に認められる道はない。


「バーグマン様と出会った時はそうであったらしい。ただし、その頃からもうヤマト様を慕う者は多かったようじゃが」


 今で言う、独立勢力なのだろう。本人は気ままに配下を従えて移動を繰り返す。

 配下も、この主ならばその内デカいことをしてくれると分かっているから付いていく。


「でも意外ですね。バーグマン様は、そんなに前からヤマト様と知り合いだったなんて」


 大魔王バーグマンと放浪中の独立勢力。どこで出会ったのか。

 バーグマンならば出会った頃ですら、魔王クラスに昇格していただろうに。


「ヤマト様とメルヴィス様との出会いは、それよりも早いらしいぞ。何しろ、出会い頭に大喧嘩した間柄だとか」


「それは……よく無事でしたね。喧嘩のあとで仲直りしたんですかね」

 ふたりとも何やっているんだか。


「いやいや……バーグマン様が言うには、しばらくはかなり険悪な仲だったとか。ともに暴れん坊であったゆえ、互いに似た部分を見つけて嫌になったのではないかな。ずっと争っていたらしい」

「…………」


 のちの小覇王ヤマトと大魔王メルヴィスの大喧嘩。さぞ見応えあっただろう。

 その戦いを直接見た者は、余波で死んだかも。


 ヤマトは各地を巡る間に多くの種族を従えたというのだから、カリスマ性があったのだろう。

 ただの暴れん坊じゃなかったわけだ。


 従う者が増えれば、支配のオーブから流れ込んでくる力が増大する。

 その頃には小魔王クラスの力を有していたかもしれない。


 それでもバーグマンやメルヴィスには届いてなかったはず。

 どうしてヤマトがメルヴィスと対等に喧嘩できたのか。


 魔素量以外の部分で補ったとしか思えないが、はてさて。


「メルヴィス様とは何度もぶつかったようじゃ。そのうち、バーグマン様がヤマト様の配下に入り、勢力図が一変した。その頃かららしいが、魔界がにわかにざわめき出したのじゃ」


 新しい力の台頭は、古い者たちにとって心を乱すものであったらしい。

 群雄割拠の時代が始まったという。


 俺が思うに、ヤマトはそれを狙っていたのではないだろうか。

 魔界が混乱していれば、より強くなれる。


 いくらヤマトが強くても、出る杭を打たれてしまえばお終いである。

 魔王クラスが数人まとまって襲ってきただけで詰んでしまう。


「その混乱を制したのがヤマト様なんですね」

「最終的にはそうじゃな。メルヴィス様がついにヤマト様の配下に入り、それで魔界の情勢は決した。だれも敵わなかったのじゃろう」


 ヤマトは勢力を広げ、その影にはバーグマンやメルヴィスをはじめとした強力な布陣があったらしい。

 ついにヤマトは小覇王となり、魔界統一に王手がかかった。


 だが、それはついに叶わなかったわけだ。

 しばらくして、天界からの侵攻があったのだから。


「ヤマト様が治めている間は、魔界は平和そのものであった。支配地域の中では分裂、仲間割れ、離反はなかったという。目立った外敵も存在せず、統一はすぐそこまできていた」


「それが天界の侵攻によって阻まれたんですよね」


「そうじゃ。それについては、前に話した内容が全てであるな。バーグマン様とて多くを知るわけではない。……そうそう、バーグマン様が漏らしたのがアレじゃ。日本武尊やまとたけるのみことという名」


「ヤマト様の種族名らしい名ですか」


「当時から、ヤマト様の種族は謎に包まれていた。特殊進化したことだけは分かっていたが、もとの種族名すら分からなかったのじゃ。何しろ、ほとんど特徴らしい特徴を有していなかったしのう」


 目立った特徴がないという話は俺も聞いたことがある。

 俺が思うに、外見は人間に近かったのではなかろうか。


「バーグマン様もよく種族の事を聞き出しましたよね」


「後継を懸念したようじゃ。種族として確立させるには、どうしても子をなさねばならん。じゃが、原種オリジンとて、その元の種族すら分からないのでは、子をなすことすらできん」


「なるほど……」


 たとえば俺は鬼種になる。だからオーガ族はもとより、同じ鬼種に連なる者ならば、子をなすことができる。


 強力な子を望むならば、オーガ族よりもハイオーガ族などがいいかもしれない。

 それはおいといて、ヤマトの後継を考えるときに、どの種族かを判断するのは当然のことだ。


 それをバーグマンが指摘したのだろう。


「ヤマト様は乗り気ではなかったらしい。そのとき『この日本武尊は俺の代で止める』と言ったらしいのじゃ。つい、ポロッと漏らした感じかのう」


 ヤマトという名と、日本武尊という種族名。

 バーグマンの聞き間違いという可能性もある。


 だが、俺からすれば『ありえる名前』だ。

 だから聞き間違えたのではないと、ほぼ確信している。


 突如現れて、絶大なるカリスマ性で配下を増やし、魔素以上の敵と戦える存在。

 種族名は日本武尊。


 なんだろう、その正体を無性に知りたくなってきた。


「そういえば、こういう話も聞いたな。天界のエンラ機関はヤマト様の魔石を狙ってきたのだとメルヴィス様は仰ったらしい」


「個人の魔石ですか? というか、なんでメルヴィス様が知っているんです?」

 魔石とは、俺たちが支配のオーブと呼んでいるアレだ。


 天界が狙ってきていたって、数を揃えるのではなく、質が重要なのか?

 それともヤマト個人のものでなくてはいけないとか?


「メルヴィス様は、天界の大物を多数引き受けて戦ったからであろう。その時に知る機会があったのではないかな」


「俺が戦った天界の住人はみな無口でしたけどね」

 理由も話さず、真顔で襲ってきただけだ。


 あれは俺たちの命の源をただの道具かエネルギーとしか考えていないから腹が立つ。


「メルヴィス様は、バーグマン様よりもヤマト様のことに詳しいようじゃ。それと天界のことについてもな」

「そうなんですか」


「長い眠りについているから聞けんだろうが……というか、起きてこられても困るな」

「そうかもしれませんね。自分の国の王ながら、話を聞く限り起きたら怖すぎます」


 町を簡単に滅ぼす者に睨まれると思うと、生きた心地がしない。


「では天界の侵攻でヤマト様が消えたあとの話をしようかのう。残されたメルヴィス様のことじゃ」


 トラルザードは、そう言って小さく息を吐いた。

 そんなにメルヴィスの話が怖いのか。



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