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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第6章 魔王際会編
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「亀竜バーグマン様が、かつて語ってくれた天界との戦い。あれがすべてのはじまりかもしれん」

 魔王トラルザードは、静かに語り出した。


 同じ竜種ということもあり、バーグマンとトラルザードは親交があった。

 バーグマンが寿命でその生涯を閉じたのもかなり前。


 トラルザードは若き日を思い出すかのように目を閉じた。


「今でもよく覚えておるよ。バーグマン様の話は我の心にずっと残っておる。天界の住人との壮絶な死闘を楽しげに語ってくれた様子をな」


 その昔、天界から何度も小規模な侵攻があるも、その頃の魔界は小覇王ヤマトを中心にかなり強力な者が揃っていたという。


 魔界の住人は、戦うことで強くなっていく。

 だが途中で命を落とす者も多く、強者の数は決して増えない。


 小覇王一強時代ゆえに、当時の魔界は粒が揃っていたらしい。


 天界からの侵攻を撥ねのける力は、どの国も有しており、ある意味最強時代であったという。


「魔王や小魔王どうしが戦う今の方が、圧倒的に死者が多いですからね」


「そうなのじゃ。ときおり強い者が現れるが、そのうち自滅するか、複数から攻められて消滅しおる。やはり、群雄割拠する時代に生き残るのは本当に難しい」


 侵攻が不首尾に終わったことで業を煮やしたのか、天界は本格的な魔界攻略に移った。

 聖なる柱を利用して、魔界に聖結界を施そうとしたのである。


 魔界に穴を開け、六つの拠点を作ってそこから影響範囲を広げていった。

 その間に聖なる柱を造りあげ、範囲内を聖気で満たそうとしたのだ。


 それに立ち向かったのが魔界の住人であり、小覇王ヤマトであったという。


「天界からは、エンラ研究機関がやってきておった。どれだけ多くの損害を出そうとも、この侵攻は成功させる。そんな意気込みをバーグマン様は感じたという」


「侵攻の目的は何だったんでしょうか」

「我らが体内にもつ魔石――支配のオーブじゃ。昔も今も変わらんよ」


 天界で研究を続けるには、魔石のエネルギーが必要らしい。

 ゆえに天界の住人は定期的に魔石を取りにやってくる。


 天界が不退転の決意でくるのならば、魔界だって負けられない。

 天界と魔界の全面戦争の様相を呈することになった。


「ヤマト様は敵のトップと一騎打ちをしておった。バーグマン様が言うには、誰にも止められない、誰も介入できない戦いだったという」


 あまりに隔絶しすぎた者同士の戦いゆえに、近づくことすら叶わなかったらしい。

「さすが小覇王ですね」


 小魔王と魔王の力量差がどれほどあるのか。

 それを考えれば、過去から現在にかけて唯一の存在、小覇王ヤマトの強さがどれほどなのか。


 いま魔界にこれを想像できる者が、果たしているのだろうか。


「当時大魔王であったメルヴィス様について話そう。メルヴィス様は、ヤマト様の切り込み隊長として、侵攻の最初から大暴れしておった」

「…………」

 それもまた凄いな。だんだんとメルヴィスのイメージが崩れていく。ヤンキーか?


「一番多くの敵を倒したのがメルヴィス様であろう。逆に一番被害を受けたのもメルヴィス様なのじゃ」

「聖気の攻撃ですね」


「そうじゃ。ヤマト様の手が離せない状況であるから、本来ならばメルヴィス様がそれを引き継ぐべきじゃった。バーグマン様が言うには、メルヴィス様は単独で『やり過ぎていた』と。天界の住人相手に、一人で立ち向かったのじゃ」


 その頃バーグマンは、部下を取りまとめて指示を出し、天界の住人に対抗する軍を構築、維持していたという。


「そういえば、側近がもう一人いましたよね」


 不死のメルヴィス、亀竜バーグマンの他に、狂気のザルダンというのがいた。

 小覇王ヤマトを支える三将軍は有名な話だ。


「うむ。ザルダン様は敵の猛攻を受けて死んだとも、強敵によって殺されたとも言われておるな。戦線が拡大しておって、だれも確認できておらんかったようじゃ。かわりにメルヴィス様が暴れたとの話もある」


 ザルダンが死んで、天界が優位に立った場所へメルヴィスが向かい、周辺を破壊しつつ天界の住人を倒して回ったらしい。

 話を聞くだけでも、メルヴィスは手綱を握る人がいなきゃいけないタイプだと思う。


「ヤマト様が時空の彼方に落ちたあと、よく魔界が無事でしたね」

 メルヴィスが魔界を滅ぼしても不思議ではない。


「聖気の攻撃を受けておったしのう。それにバーグマン様が止めさせたであろう。そういえば、ヤマト様と敵のトップの戦いは、決着がついておらんかもしれん」


「敵のトップ……メラルダ将軍からは、ヘラという名前だと聞きましたが」


「うむ。ヘラはエンラ機関を創設し、実力によって天界の中で確固たる地位を築いたらしいの。その者とヤマト様の激突は、あまりに激しすぎて、だれも近寄れなかった。あるとき、両者の力で大きな衝撃波が発生し、周辺にあるもの全てが吹き飛ばされたらしい。そして消えた」


「消えた?」

「消えたのじゃ。両者が戦った場所には時空のゆがみが残されておったという。支配の石版からヤマト様の名は消えなかったため、その時空のゆがみに飲み込まれたのだと言われておる。その後すぐ、天界が侵攻を諦めて撤退したのじゃが、そのときついぞ敵のトップの姿は現れなかった」


「ヤマト様が倒した、もしくは敵のトップとともに時空に飲み込まれた」

「うむ。じゃが、聖気のない場所では、天界の住人は堕ちないかぎり生き延びられぬ。あれは聖気があってこそ存在し得るのであるから」


「つまり、ヘラはもういない?」

「でなければ辻褄が合わんの。もしくは天界に戻れなくなるほど変容しているかじゃ」


 支配の石版にはいまも小覇王ヤマトは存在し続けている。

 魔界にいないだけで生きているのだ。


 そして聖気がない場所では生きられない天界の住人は、時空の彼方では変容するか死ぬしかない。


 だが、代を変えてエンラ機関は存続していた。

 この前の侵攻では特徴的なマークが確認できたのだから確かだろう。


「その後の天界については知っていますか?」


「いや、我が語れるのは、バーグマン様から聞いたヤマト様の種族についてと、その後のメルヴィス様についてじゃな」


 やはり天界についての情報はないか。

 だが小覇王の種族については興味がある。


 おそらくメラルダ将軍が言っていた、日本武尊やまとたけるのみことのことだろう。

「それを教えてもらえませんか」

「うむ、いいぞ」



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