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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第6章 魔王際会編
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 オーガ族の進化については、軍師のセイトリーが調べてくれた。

 考えてみると、俺だけでなくサイファやベッカもまた結構強敵と戦っている。


 あの駄兄妹も特殊進化するのだろうか。


「……いや、まさかな」

 さすがにそれはレア過ぎるだろう。


 とりあえず俺は、特殊技能を使えるように精進しなければならないわけだ。

 魔素吸収はできるかどうか分からないし、いろいろ試してみよう。


「それで小魔王メルヴィス様についても話しておくとしよう。我はあまり思い出したくないのじゃが」


 そういえばメラルダ将軍が言っていたが、泣かされたんだっけか。

 この老婆が泣く姿など、俺には想像できないが。

 当時のメルヴィスは、どれだけ化け物だったのやら。


「自分の国のことですし、ぜひ知りたいですね」

「そうであろうな。ゴーランはいくつじゃ?」


「歳ですか? 十七ですけど」


「若いな。若すぎるくらいに若い。その年でよくここまで成長できたものじゃ。というか、普通はそれだけの経験を短期間でこなしたら、死ぬぞ」


 俺もそう思う。

 戦場に出る前までは、平和に暮らして……はいなかったけど、そうそう命の危険はなかったのにだ。


 なぜか、戦場に行く度に死にそうな目に遭っている気がする。

 あれか? ハイオーガ族に喧嘩を売ったのかいけなかったのか?


 だがあれは俺や俺の仲間たちを守るために仕方なかったことだし……。


「なんとか生きてこられたので、こうして今の俺があるわけですし、過去はもう十分です」


「そうか。オーガ族は寿命が短いゆえに、世代の交代も早い。メルヴィス様が起きていた頃を知っている者は皆無であろう?」


「そうですね。オーガ族の寿命は平均で四十年ちょっとくらいですし」


 オーガ族だって、普通に六十歳くらいまで生きるのだが、とにかく早死にが多いので、平均寿命が駄々下がりになる。


 ちなみにハイオーガ族だと二百年くらいと言われている。

 実際には三百年くらい生きるのもいるので、やはり戦いの中で命を落とす者が多いのだろう。


 オーガ族はハイオーガ族に進化しても、長生きできないのだ。


「メルヴィス様が眠りに入ったと知ったのは、周辺国に被害が出なくなって、しばらくしてからであった。だいたい眠りについて三、四十年経っていたのではないかな」


「なかなか豪快な話ですね」


 最近被害がないなとなってから気付くというのが凄い。

 どれだけ周辺に被害をもたらしていたのか。


「眠りに入ったとは言っても、いつ起きるか分からないであろう? 周辺国は戦々恐々として、息を潜めていたのは変わりないわな」

「そうなんですか?」


 ここぞと言うときに攻め滅ぼしに行かないのはなぜだろう。


「それだけ怖かったのじゃ。自らの意志で眠りに入ったのならば、自らの意志で起きるのではないかと考えたわけじゃ」


「……ん? 自らの意志で眠りに入ったのですか?」


「我はそう聞いておる。聖の攻撃を受けて、身体を根本から作り直しておるのではないかな」


 最初俺は、メルヴィスは呪いのために長い眠りに入ったと聞いたが、メラルダは聖属性の攻撃をメルヴィスが受けたと言っていた。

 おそらくそっちが正しいのだろう。


 そして新しい情報。

 メルヴィスは自らの意志で寝ているらしい。


「ならば身体を作り替えなければ、起きないんじゃないでしょうか」

「さて、そればかりは聞いてみんことには分からん。寝室は固く封印されておるから、聞きに行けんだろうが」

 やはり、それは知れ渡っているのか。


「それはそうですね。そういえば、かなり凶悪な攻撃をすると聞きましたが、どれほどだったのですか?」


「ゴーランは『滅びの雪』の話は聞いておるか」


「ええ……辺り一面に降り注いだとか」


「あれはな、身体を浸食するのじゃ。そこから溶けていくのじゃが、なんというか、ひとひらの雪の中に、微少な生き物がわんさか詰まっていて、生きたまま囓られる……分かるか?」


「それは厳しいですね」

 生きたまま囓られたくないな。


「部下たちが生きながら死んでゆくのじゃ。痛い痛いと叫びながら、手や足が消えて、腹や胸も残り少ない。顔も半分くらい囓られて、痛い、痛いと何千という部下が溶けるように死んでいった」


 当時を思い出したのか、トラルザードの目には大粒の涙が浮かんでいた。

 心なし、身体がぷるぷると震えている。老婆のくせに可愛いな。


「トラウマになりそうですね」


「そうであろう。あの頃からすでに手が付けられない有り様でのう。周辺国は、ただ腹が立ったという理由で、村や町が消滅させられたのじゃ。メルヴィス様が暴れるのはただの天災、我らはそう考えておった」


 そりゃ長い間、どこの国からも攻め込まれないわけだ。

 だがそれも三百年以上前の話。おそらく眠りに入ってから四百年近く経っている。


「現状はあれですね。新しく小魔王になった周辺国が、当時の怖さを知らないから、ちょっかいをかけてきている」


「であろうな。我ならば静かでよい。これ以上寝ている者を起こすなと言いたいわ。敵対しようなどと、露も思わん」


 小覇王ヤマトが天界の住人と戦った時代はすでに過去の遺物。

 唯一生き残っているメルヴィスはもはや伝説上の存在だが、それでも何百年も寝ていればもう、脅威ではないのだろう。


「起きたらどうなりますかね」

「考えたくもないわ。……そういえば、バーグマン様が言っておった。あの天界の住人との戦いで……ゴーランよ聞きたいか?」


「ええ、もちろんです」

「聞いて後悔するかもしれんぞ?」


「聞かないでいると、そっちの方が後悔しますので」

「……うむ。では、あの時何があったのか。バーグマン様が我に語った内容じゃが、それをお主に教えよう」


 それははるか昔のはなし……



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― 新着の感想 ―
[一言] サイファやベッカもゴーランと一緒にいるから何度となくオーガーよりも上位種と戦い倒してるからとっくに進化条件は満たしてますね。 楽々2段階位上がりそう。
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