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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第6章 魔王際会編
210/359

210

「……さてと」

 魔王トラルザードは、首をゆっくりと左に巡らせた。

 そこには小さな窓があり、外の景色がよく見えた。


 つられて俺も、右に目をやった。

 窓の外、はるか下方に町並みがあった。


 トラルザードはしばらく町の様子を眺めたあと、おもむろに告げた。


「重要なのは、力の使い方であろうな」

「……はい?」

 何を言っているんだか、分からない。


「ここに来る前、オーガ族の特殊進化について、セイトリーにも調べさせた」

「そうだったのですか」

 それは助かる。


 魔王国の軍師が調べたのならば、それなりの成果が期待できる。

 俺はセイトリーを見た。


「有名な修羅しゅら族やシュテン族だけでなく、種族として定着しなかっただけで、オーガ族の特殊進化は、いくつも確認されているのです」

 いまのセイトリーの言葉に、俺は引っかかるものを感じた。


「オーガ族はもともと中位種族と下位種族の中間くらい。決して特殊進化しやすいタイプではないですよね」


 原種オリジン族へと進化するのは、上位種族がほとんどだ。

 そもそも最初から強い力を持っているため、更に強くなる場合、もはや手が付けられなくなったりする。


 すると用意された上位の枠組みから外れる事も多く、独自の進化を遂げることが多くなる。


 反対にオーガ族やゴブリン族、オーク族など、数は多くて進化しやすい種族は、原種オリジン族への進化はほとんどない。


 オーガ族の場合、「上位喰い」が進化条件なので、それを達成するとハイオーガ族へと至る。


 もし特殊進化しようと思ったら、「上位喰い」をしないで魔素を「あり得ないほど」溜め込むか、「上位喰い」をしても「ずっと進化しない」でいる必要がある。


 どちらも不可能に近いほど難しい。

 そもそも進化は自分の意志でしたり、止めたりできない。


「セイトリーが集めたリストを見て、我も驚いたぞ。オーガ族はなかなか多様な進化を遂げておる」


「なぜオーガ族が特殊進化するケースが多いのでしょう?」

 その理由が見当たらない。


「セイトリーが仮説を立てた」

「ふむ」


 やはり考えることは軍師だのみらしい。

「私は力の使い方ではないかと予想を立てました」

「力の使い方……ですか?」


 最初の話に戻ったな。

 トラルザードはこれを言いたかったのか。

 俺が魔王の方を見ると、満足げに頷いている。


「セイトリーが言うには、特殊進化したオーガ族は、進化前も比類無い力を発揮した暴れん坊だったそうじゃ。ガキの頃から大人を負かすような力を発揮し、集落では敵無し。そのうえ戦うのが大好きで、自分より強い者に挑んでは生き残ってきた。どうじゃ、心当たりあるじゃろう?」


 トラルザードの言葉に俺は考えた。そして……。

「俺の部下にそんなのが二人ほどいますね」


 サイファとベッカの駄兄妹だ。

 あいつらにそっくりだ。


「お主は?」

「俺ですか? 俺はいたって温厚ですし」


 売られた喧嘩以外、買ったことはない。

 もしくは俺が仲間と認めた者が虐げられた場合は喧嘩をふっかけることはあるが、あれは仲間を守るためだからノーカンだ。


 俺は決して私利私欲に走ったり、暴れん坊というわけでもない。


「言いたいことはあるが……まあええ。それでセイトリーが調べたところ、特殊進化した者たちは、魔素量に比べて戦い方がうまい。だから上位のやつも喰いやすくなる。個々をみると差異はあるが、ようは力の使い方が上手い者が特殊進化をしておった。それゆえ強くなれるし、強くなった者は、他国にまで名が轟く」


 オーガ族は脳筋だしな。

 少し力の使い方を覚えると、途端に強くなるわけか。


 それでも魔法耐性がほぼないので、魔法系の敵と当たると脆いんだが、そこはうまく避けられたんだろう。


「力の使い方という意味は、何となく理解できました」


「うむ。それで、我もひとつ思い出したことがあるのじゃ」

「なんですか?」


「小覇王ヤマト様のことじゃが、かの者も相当な暴れん坊であったらしい」

 意外だ。小覇王というからには、多くの部下を引き連れていたんだろうし、人望のある大人しい人を想像していた。


「そんな強い力を持った暴れん坊って、かなりやばくないですか?」


「そうじゃの。亀竜バーグマン様から聞いた話では、メルヴィス様が空の彼方まで吹っ飛ばされたことがあったらしい。戻ってきたとき、震えておったとか」

「マジか」


 俺からすると、小魔王メルヴィスでさえ恐怖の大魔王的なイメージなんだけど。

 それを震えさせるって、どんだけ凄いんだよ。


 というか、空の彼方って……宇宙まで飛ばしてないよな?


「バーグマン様が言うには、あのとき完全に敵扱いしていたようじゃ」

 敵扱い……敵ってことは魔素を吸い取ったのかよ。

 それを自分のものにしたのか。かなりえげつないな。


「なかなか豪快ですね」


 そう言うしかない。仮にも部下だろうに。

 なんで敵扱いして、空の彼方まで飛ばそうとするんだろう。


「ヤマト様は吸い取った魔素と自分の魔素を使って、瞬間的に爆発的な力を得たらしいからの」

「やっぱりそうですか」


「知っておったのか?」

「いえ……俺も似たようなことができそうなんで」


「竜咆から逃れたときのアレだな」

 あのとき俺は、足に魔素を溜めて一気に抜け出した。


 トラルザード側からも見えなかったらしい。

 まあ、竜咆の最中だったので、認識できなかった可能性もあるが。


「身体の部分強化が俺の特殊技能だと思うんですが、まだ開眼していない感じですね」

「ふーむ。セイトリーよ、分かるか?」


 考えるところは軍師任せらしい。


「そうですね、小覇王ヤマト様との関連を見いだすならば、単独での部分強化ではなく、魔素を吸収した合わせ技ということも考えられます」


「相手の魔素を吸って部分強化するまでが特殊技能ってことですか?」

「その可能性があります。その場合、魔素の吸収を覚えない限り使えない技になります」


 たしかに他の種族でも、前提となる特殊技能を覚えないと駄目な技もある。

 俺の場合、魔素吸収を覚えると、部分強化の特殊技能を覚えるのかもしれない。

 さすが軍師、よく見ている。


「なにはともあれ、魔素を吸収することを覚えたらどうじゃ?」

 トラルザードが言うと、セイトリーが頷いた。


「それが成功した場合、いくつかの仮説が証明されますよ」

 軍師はすでに仮説まで立てているのか。


「ゴーランよ、少し魔素吸収について考えてみたらどうじゃ?」

「結局、そこに行き着くんですね」


 敵から吸収って……開眼するには、どんどん戦わないと駄目じゃん。



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