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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第1章 見晴らしの丘攻防戦編
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021

◎ネヒョル軍団長


 敵が完全に撤退したのを見届けてから、ボクは軍を解散させた。

 丘の防衛は成功で、敵部隊長も撃破した。いい戦果だ。


 こちら側の部隊長以上の戦死者はゼロ。

 ひとりだけ下克上で入れ替わったけど、それは問題ない。かえって良いことだ。


「報告は以上でーす。では失礼しまーす」

「ちょっと待ちなさい」


 ファルネーゼ将軍に報告をした。

 ボクが出て行こうとすると、呼び止められた。


「なんですかー?」

「グーデンはハイオーガ族よね。それで新しい部隊長が……オーガ族?」


「そうですねー」

 将軍が部隊長まで把握するのはおかしい……わけじゃなく、そうしなきゃならない理由があるからだ。


 もしボクが戦場で倒れたら、ファルネーゼ将軍が部隊長の中から誰かを選んで、軍団長に据えなければならない。


 部隊長の性格や強さを普段から知っていなければ、戦場で即断できない。

 だからファルネーゼ将軍は新しい部隊長のことを気にするのだけど、ボクとしてはあまり詮索されたくない。


「グーデンは決して弱い個体ではなかったはずだけど」

 弱い個体ではない……つまり、ハイオーガ族としては並の個体だといいたいのだ。


 並のハイオーガ族ならば、オーガ族がいくら頑張っても届かない。

 上位種はそれほどまでに離れているのだから。


「そうですねー。でもそういうこともあると思いますよ。戦場で怪我をしたとか。調子が悪かったとか……ね」


「調子が悪いくらいで下克上が成功するとは思えないが、怪我した可能性もあるか」

「他に何かありますかー?」


「いやいい。御苦労だった」

「はーい。失礼しまーす」

 一礼してボクは出て行った。


 ファルネーゼ将軍はボクと同じヴァンパイア族だ。

 ボクが将軍と戦えばたぶん負ける。


 同じヴァンパイア族とはいっても、ファルネーゼ将軍は、小魔王メルヴィス様のようなエルダー種に近い存在だと思っている。


 ヴァンパイア族のエルダー種は数千年の時を生きた伝説のような存在だ。

 なぜファルネーゼ将軍が、こんな小国の将軍に収まっているのか分からない。


 支配の石版に名前がないので小魔王を名乗っていないが、それはこんな小国の将軍職にあるからだと思う。


 吸い上げる配下の数が増えれば簡単に小魔王を名乗れる実力があるとボクは思っている。


(ここにいるのはなにか意図があるかもしれないよね。ボクと同じでさ)


 エルダーヴァンパイア族のメルヴィス様に心酔しているようでもないし、その行動は謎に包まれていると言っていい。


 それがまたボクの好奇心を刺激する。


(上司も部下もおもしろいな。この国に来てよかったなぁ)


 ゴーランにはなにか秘密がある。それは間違いない。


 ゴーランがボクに下克上を挑んできたら、その秘密を賭けに乗せよう。

 それまでは想像するだけで楽しみに待っていよう。


 今回彼が倒した大牙族は、ボクと同等の力を持っていると報告が入っている。

 いまボクが見せている力と同等・・だと。


 ゴーランはそのうち、軍団長の職を欲して戦いを挑んでくるよね。

 あの性格ならば、きっと来る。ああ、今から楽しみだ。




◎ファルネーゼ将軍


 ネヒョルが出て行った。

 相変わらず腹に一物を抱え込んだ感じだ。


 飄々(ひょうひょう)としているようで、あれは違う。

 見せる部分をちゃんと計算している。


「……あれは私にどういった姿を見せたいのか」


 将軍と軍団長という関係でも、あれは決して本心を明かさない。

 この二百年間、私の部下として手足のように動いてくれたが、それでもだ。


 何を考えているのか、皆目分からない。本当に心を見せない奴だ。


(いや、一度だけあったか)


 軍団長のひとりが下克上を私に仕掛けてきた。

 他の軍団長が見ている前でだ。


 よほど自信があったのだろう。

 ヴァンパイア族の上位に位置する竜種だったからかもしれない。


 結果は私の圧勝。

 それを見ていたネヒョルのつぶやきを今でも思い出すことができる。


「相変わらず小魔王の部下とは思えないな」


 それはぞっとするような声だった。

 ふだんとはまるで違う。何か恐ろしい深淵の底から響いてくるような声だった。


 あれ以来私はネヒョルを警戒している。もちろんそれを気取られることはしていない。

 今日も相変わらず軽いノリで現れた。


「そういえば、珍しく口を濁していたな」


 いつもはどうでもいいと言わんばかりの報告だが、今回だけは少し違った。

 新しく部隊長になった者を報告したときだ。


 はやく忘れてくれ。そう願うほどに、素っ気なく言い放った。

 それが妙に頭にこびりついてしまった。


 ゆえに思わず呼び止めて、確認してしまった。


(オーガ族のゴーランね)


 たしかに戦場で大怪我をして、それを好機と下克上を仕掛けたのかも知れない。

 そういうことはよくある。だから私も説明された特に、大して気にしなかった。


(他の軍団長の戦場が激戦だったからな、頭がそっちにいっていたようだ)


 ネヒョルが守った丘は比較的平穏な方だった。

 いや、他の戦場が激戦で、被害が甚大だったというべきだろう。


(部隊長以上の戦死者はなしで、敵側は部隊長一名が死亡だったな……ん?)


 敵の部隊長を倒したのはだれだ?

 常識的に考えれば、ネヒョルの主攻を受け持つロボスのはずだ。


 だが同じ魔獣種で、賢狼族と大牙族ではかなりの隔たりがある。

 ならばネヒョルか?


 いや、あれはずっと本陣にいたとさっき報告していた。

 ではだれが?


「……なるほど、そういうことか」


 調べるまでもない。

 ネヒョルが隠そうとしていたのは、新しい部隊長の存在だ。


 それが大牙族を倒したのだろう。


(どれ、調べさせるか)


 それで少しはネヒョルの考えが分かるかもしれない。




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