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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第6章 魔王際会編
208/359

208

 偽の作戦会議塔。


 ここに、魔王トラルザードが数名の護衛とともに現れた。


 砂鎧さがい族のヨルバは緊張している。

 全員が出迎える中、トラルザードは俺を見るとニヤリと笑った。


「よう生きておったな」

 なんかムカッときた。


「当然だ。俺を殺したければ本気で来るがいい」

 そしたら死ぬけどな。


「重畳、重畳……お主ら、外を見張ってるがよい」

 ヨルバたちを塔内の警護に回し、トラルザードは塔の最上階へ俺を誘った。


 トラルザードと一緒にやってきた護衛は部屋の外で待機する……と思ったら、一人だけ中に入ってきた。

 側近の護衛だろうか。


「……で、ここに連れてきた理由を説明してくれるんだろうな」

 それと殺されかけた理由もだ。


「うむ……まあ、あれだ。その前にホレ」

「ん?」


 トラルザードが隣に目配せすると、一人だけついてきた護衛が兜を脱いだ。

 色白の水棲人みたいな顔が現れた。瞳が水色だ。


「この者は……ナナケイ族と言えば分かるじゃろう?」

「軍師?」


 トラルザードが頷いた。

 なぜ軍師がここに? 一体何がなんだか。どうなっているんだ?


「初めましてですね、セイトリーです」

 若そうな声だが、魔界の住人は年齢不詳の奴も多いので、実際の年齢は分からない。


「俺は……そこの魔王に殺されかけたゴーランだ」

 このくらい言ってもいいだろう。

 不敬は、謁見の間にすべて置いてきた。


「では理由を説明しようかの。……お主が捕まえた冥猿めいえん族のレギスと言ったか」

「この軍師を殺しに来たらしいな」


「うむ。よくぞ捕らえてくれた。礼を言うぞ」

「それはどうも……で、存在を隠しているはずの軍師がなぜここに?」


「お主が最初に捕まえた者……」

「情報屋のエンブリオですか」


「そうそう、奴じゃ。あれが掴んだ情報を尋問で聞き出したわ」

「? ここは偽の塔って、ヨルバから聞きましたが」


 なんだろう。話が読めない。

 俺が馬鹿になったのか?


「うむ。セイトリーの情報が流れるとしたら、ここが挙がるはずじゃった。だが奴はそれには引っかからなかった」


「隠していた本物の方の情報が流れたわけですか」


 そう考えると、あいつは素晴らしい調査能力を持っていたことになる。

 顔を変えられるのは強みだな。神出鬼没で、逃げ出せば見つけにくい。




 トラルザードの話を聞いてみると、面白いことが分かった。

 俺はあの二人を捕まえて、衛兵に引き渡した。


 トラルザード側は彼らの動向を把握していなかったらしい。

 尋問の結果、軍師を狙ってきたことに間違いないとわかり、同時に流れ出た情報が本物であることに驚愕したという。


 そしてエンブリオの一族を通して、ネヒョルにその情報が渡っていること、時間をおけば他国にも知れ渡ることが明らかとなった。


 そういうわけで、軍師セイトリーを今までと同じ場所に秘匿しておくことができなくなったらしい。


 ちょうどそのとき、俺が運び込まれ、別室で寝かされていた。

 本当は目が覚めるまでそこに置かれるはずだったらしいが。


 セイトリーは一計を案じ、俺を秘かにこの塔へ移動させたのだという。


「よく分からないんだけど、俺が謁見の間で襲われたのは、その関係?」

「いや、まったく別じゃ。それはあとで話すとして、我とお主が戦ったことは城の者ならば誰でも知っている。お主が転がっていったのもな」


 転がっていったとは失礼な。

 だいたい合っているけど。


「話からすると、軍師が気絶した俺をみて、『これは使える』ってんで、ここに運び込んだ?」

「その通りじゃ。理解が早くて助かるの。セイトリーの身の安全に、お主が必要になったわけじゃ」


 それを考えたのが軍師セイトリーなわけね。


 なんか、人の身柄を使って自分の安全を図るのはどうなんだろう。

 ちょっといただけない気がする。


「勝手に移動させましたけど、怒らないでくれるとありがたいです。これでも一応、ゴーランさんのことも考えたのですから」

「……?」


 セイトリーの言い方が、どうにも押しつけがましい。

 反発した俺は殺気を乗せて、セイトリーを睨む。


「言葉に気をつけろよ」

 脅してみる。


「許可を出したのは我じゃ。かわりにゴーランの種族について、知りたいことはだいたい答えられるゆえ、それでどうであろう。あと、我の想像通りらしいので、力の使い方を教えることもできる。さらに、小覇王ヤマト様のことも聞きたいじゃろ? それだって、しっかりと話してやろう。ついでに天界の住人についてもな。小覇王ヤマト様と関わりがあるゆえ、我は知っておるが、このことを知っているのは、もうほとんどおらんぞ」


 トラルザードが、矢継ぎ早に条件を言ってくる。

「まあ、俺はそれを知りたいために来たわけだが……」


「我はセイトリーを失うわけにはいかん。そのためにゴーランの存在が丁度よかったのじゃ。ゆえに協力してくれるのならば、悪いようにはせん」


「……ふむ。まあいいでしょう」

 魔王と戦っても勝てないのは分かっているし。


 話を聞いてからでも……というか、マジで知りたいことが多すぎて困る。

 俺も種族についていくつか仮説を立てたが、何百年も生きてきたトラルザードの話は参考になるはず。


 他にも今のこの現状とか。

 本気で何がなんだか分からない。


「順を追って話すことができますが、まずは今回の件について話しますね」

 軍師らしくなめらかな滑り出しで、俺がここにいる現状を話してくれた。


 要約するとこうだ。

 驚いたことにセイトリーは、これまで誰にも知られないまま、魔王城で働いていたらしい。


 本人が黙っていたものだから、誰もそれが軍師であると気付いてなかったという。

 今はもうバレてしまったので、同じ生活ができなくなったらしいが。


 俺が捕まえた二人を厳しく尋問した結果、彼らを見張っている者はいないことが分かった。

 ならばまだ間に合う。セイトリーはそう考えて、打開策をいくつか立案したらしい。


 そんなとき、俺とトラルザードが暴れた。

 暴れたというより、一方的に喧嘩を売られたと思っている。


 トラルザードと戦った俺はこの国の者ではなく、竜咆によって城は破壊され、その事実は知れ渡った。


 ならばそれを使おうということで、魔王と謁見したのは俺ではなくレギスという冥猿族の他国人。

 奴は謁見の間に行く途中で抜けだし、セイトリーを襲撃。


 怒ったトラルザードがレギスと交戦。のちに死亡。

 それより先にセイトリーも死亡し、レギスに情報を流した者はすぐに捕らえられた。

 そんな筋書きを立てたらしい。


「……えっと、俺の存在は?」


「本当にタイミングよく、他国の者と陛下が戦われたので、それを利用させていただきました。副官のストメル殿にはよく言い聞かせて、口を噤んでもらっています」


「なるほど。襲撃者が死亡したことにしたかったので俺をここに隠したと。ついでに軍師も死亡したことにして、これ以上の襲撃から逃れる算段なわけですね」


「その通りです。まさか他国の上位種族と陛下がこんなに都合良く戦うなんて、普通ありませんし」


 さすが軍師だ。

 きっちりあれを利用しやがった。



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