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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第6章 魔王際会編
206/359

206

○魔王トラルザード


 勘が鋭いのか、背後を知覚できる特殊技能があるのか、頭を垂れていた者は、なかなか良い反応をみせた。

 後ろ姿だけでなく、前からも見たが、やはり知らない種族だ。


 魔王となって長いが、「似ている」種族はあまり思い浮かばない。

 色を褐色にして、顔をもっと大きく、額に大きなツノを生やせたら、修羅しゅら族に似てくるだろう。


 少なくともオーガ族の原形はあまり留めていないように感じる。

 しかし、進化した原種と会うのは心躍る。


 魔素も中々。まとう雰囲気も良し。


 子孫が増え、種族として確立したら、我が国内に居場所を作っても良い。

 そう思わせる面構えだった。


 玉座に座り、名乗る。

 面会者の半分はこれでお帰り願う。あとは部下たちが話を聞いて終わる。


 だがこのゴーランは違う。ここで帰すつもりはない。

 幾ばくか話をしたあと、我は『竜咆りゅうほう』を放った。不意打ちだ。


 勘のいい奴らしい。ちゃんと竜咆が届く前に吸魔鉄の盾をかざしよった。

 だが、我の竜咆はそれでは防げん。


 そもそも報告に吸魔鉄の盾があった。それで防げる技を放つわけがなかろう。

 竜咆は濃密度の魔素を使って、直線上にあるものを喰らう技。


 盾をかざせば前面だけは防御できる。

 だが、左右、そして後ろから迫ってくる魔素には無力だ。


 謁見の間に通じる分厚い扉が弾け飛び、竜咆は城を突き抜けていった。

 視界の隅に副官が手で顔を覆うのが見えた。


 大地に大穴があくか、集落がひとつ滅ぶか。

 そのくらいの被害は覚悟せねばならんかもしれん。


 そろそろいいだろう。魔素に削られ、骨すら残っておらぬはず。

 我は竜咆を解く。


 吸魔鉄の盾が、ガランと床に転がった。

「……ふむ。予想していたことじゃが、欠片すら残らんかったか」


 残念だがしょうがない。

 五体満足は期待していなかったが、もしかすると少しは原形を留めた姿が見られるかと思ったのだが。


「トラルザード様」

「数多の者と同じよの。それは片付けておけ」


 我は立ち上がり、退室しようと向きを変えたとき、目の前に口を大きく開けて笑う鬼の姿があった。


「「どこへいく? 今度はこっちの番だぜ」」


「お主、生きておったのか? いや、それよりも声が二重に聞こえ……」

 すべて言い終わるより早く、真っ白な太刀が振り下ろされた。


 我はとっさにそれを弾く。


 ――カキン


 普段、人型を取っていると忘れがちになるが、肌の下に鱗が隠されている。

 それに太刀の刃が当たって、鱗が一枚欠けた。


「なんと!?」


 魔王は何人たりとも傷つけられないからこそ、魔王を名乗っていられる。

 複数の小魔王を引き連れていられるのも、その強さゆえだ。


 まさか一撃で鱗が欠けるとは思わなかった。


「「チィ、硬てぇ奴だな!」」


 また声が二重に聞こえた。

 それといま気がついた。この魔素量、増えていないか?


 見間違えているわけではない。

 なにしろ、会ったときの二倍以上になっているのだから。


 ――ガキィ!!


 脇腹を突かれた。

 刃は鱗で止まったが、それでも血が出ている。


 ありえないことが現実におきた。

 我はすぐに戦闘態勢に切り替え、迫ってくる太刀を竜鱗で弾いた。


 進化したところで、所詮は上位種族の仲間入りをした程度。

 魔素量が倍以上に増えたのには驚いたが、我とゴーランの間には越えられない壁がある。


 本気で抗えば、どのような太刀と言えども……って、せめぎ合っている!?

 弾いたつもりが、弾ききれていなかったらしい。


 なんとも不思議な太刀よ。

 ある意味ゴーラン以上に不気味だ。


「ならば、こうするまで」


 竜種は細かいことが苦手だ。暴れるのを至上とする。チマチマとしたことを嫌う。

 それでも武器を狙って攻撃することくらい訳がない。


 武器さえ失えば大人しくなるだろう。

 そう思ったところ、我の狙いに気付いたのか、自分から武器を手放しよった。

 やはり勘がいい。


 太刀が音を立てて後方に転がっていく。

 無手になったゴーランが笑顔のまま、背中から鉄の棒を取り出した。


「「魔素をありったけ乗っけて、硬くなれって強く念じると、こうなるんだぜ」」


 振りかぶって、大上段から我の頭を狙ってきた。

 もし頭のツノが折れたら一大事だ。


 我は左手を頭上にかざし、ゴーランの攻撃を受け止めた。

 同時に、一切の遠慮を捨てた『竜拳撃りゅうけんげき』をゴーランの腹に叩き込んだ。


 竜拳撃は打撃系の技。

 爪での攻撃が効かない相手にこそ効果がある。

 それを腹に喰らわせると、ゴーランは壁をいくつもぶち抜いて飛んでいった。


 副官が確認に向かう。いくつか先の部屋まで飛んでいったようだ。


「まだ息があるようです」

 戻ってきた副官の言葉に我は微笑んだ。


「……話があるから、手当てをして寝かせておくように」


 副官が意外そうな顔をした。

「ですが、陛下に攻撃を……」


「こちらから仕掛けたのじゃ。別段向こうが何かしたかったわけではない。ただの戯れよ。それより死なすなよ、急げ」


「畏まりました」

 副官が空いた大穴の奥に消えていく。


「お主らはここを片付けい。我は戻る……護衛は不要ぞ」

「了解しました」


 あとを部下たちに任せて、我は自室に向かった。

 少し考えることがあったのだ。


 今日の予定を白紙にし、すべて無用と告げてから自室に入った。


「……さて、どういうことじゃろ」

 左手首はまだ折れたままだった。


 通常は自動で治療がはじまり、この程度の骨折ならばすぐに完了する。

 魔素がないわけではない。では治らない理由はなんだ?


 折れた手首を掲げるが、ぶらんと揺れるだけで、治療が始まる気配がなかった。


「何らかの攻撃であろうか……分からん」

 目を覚ましたら聞いて見るのもよい。


 そう考えながら、我は副え木になりそうなものを物色した。



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