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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第6章 魔王際会編
204/359

204

 魔界には、領土をもつ大魔王が二人、魔王が八人いる。

 ちなみに魔王どうし、たいへん仲が悪いと言われている。


「牽制しているんだろうな」


 大魔王になるためには、複数の魔王国を支配下に置く必要がある。

 つまり派手に動かざるを得ないわけで、そうなれば周辺の魔王から袋だたきに遭う。


 派手に動きたくとも動けないのではないかと思っている。


「その分、相手を決めて戦っているんだろうな」


 なにかのおりに宿敵の魔王を撃破する。それだけなら周辺国は動かない。

 かわりに魔王国がひとつ手に入る。


 小魔王国を次々と支配下においたり、複数の魔王国に手を出すよりも穏便に領土を広げることができる。


 各魔王は周辺国を牽制しつつ、機会を窺っている状態。

 そこで膠着しているのではなかろうか。




 俺はいま、謁見の間で魔王トラルザードが出てくるのを待っている。

 跪いて、頭を下げたままだ。そろそろ来てもいいんじゃなかろうか。


 今日午後イチの謁見らしく、魔王はいまだ休憩中。

 いい身分だな、というか魔王だったとつらつら考えていると、奥の方が慌ただしくなった。


 いよいよかと身構えたところ、俺の背後に気配が生まれた。


 ――バッ!!


 飛び退いて深海竜の太刀を構えた。本能の行動だ。

 のんびりした気分が一瞬で吹っ飛んだ。


「……?」

 俺の頭が混乱した。

 フードを被った老婆がゆっくりと歩いてくる。


 老婆はゆっくりと俺の前を通り過ぎ……玉座に座った。

 いつの間にか、護衛たちがその周囲を固めていた。


「――楽にしてよい」


 ズゥンと腹にくる。これは威圧だ。

 魔素量とか、そんなものじゃない。


 強者のみが持つ圧倒的なプレッシャー。

 本物が俺に向けられた。


 一瞬で俺の命を刈り取ることが可能。

 すぐにでもそれを行使できることが理解できた。


 威圧を受けた者は正気を無くすか、へたり込むか、逃げ出すくらいしかできない。


 俺は静かに息を吐き出すと、太刀を収めた。

 今日の出で立ちは、背中に六角棍と吸魔鉄の盾を背負い、腰に深海竜の太刀を佩いている。


 竜鱗の鎧は悩んだ末、着ていくことにした。

 竜種と会うのに、竜の鱗を身に纏って不快にさせることも考えたが、万一のことがある。

 身を守るものはあって困ることはない。


「名乗っても?」

「……許す」


「小魔王メルヴィスの国より参りました、ゴーランと申します」

「トラルザードじゃ。よう来た」


 先ほどの威圧は消えている。

 結局の所、魔王トラルザードは俺を試したかったのだろう。

 漫画やアニメでよくあるアレを実際にやられるとは思わなかったが。


 ちなみに魔王の威圧に耐えられたのは、俺に知識があったから。

 銃を向けられても、弾が入ってないことが分かれば恐れることはない。


 威圧を向けられてすぐに「試しているな」と分かったので冷静になれた。

 ただそれだけだ。


「謁見を許可していただき、まことにありがとうございます」

 なるべく平静を装って、そう告げた。


「よい。珍しい種族に進化したと聞いたが、なるほどたしかに面白い」


 よわい七十を越えたように見える老婆こそ、魔王トラルザード。

 名前から男を連想したが、違っていたようだ。


「もとはオーガ族です。進化して、素盞鳴尊の名が頭に浮かんできました」

「オーガ族は稀に変わった進化をするが……いや、その前に片付けてしまわねばならぬことがあるな」


「……?」


「報告は届いておる。いろいろとな。ここまでの道中、迷惑をかけた」

「……! もったいないお言葉です」


「それらは許すゆえ、使ってよいぞ」

「ご配慮、ありがとうございます」


 どうもいろいろバレている。

 ストメルの話だと、実質的なことは部下たちがやって、トラルザード自身はほとんど把握していない感じだったけど、細かい報告を受けているようだ。


 なんにせよ、盾と鎧は返さなくていいらしい。さっきのはそういう意味だよな。

 確約もらえてラッキーという感じだ。


「……であるが、我が町内で暴れた落とし前くらいは付けさせようかの」

「えっ!?」


 老婆がニヤリと笑った。

 こんちくしょー。このババア、るつもりだ。


 俺はとっさに吸魔鉄の盾を取り出し、身体の前面に置いた。

 案の定、俺目がけて魔法が押し寄せた。


「……って、これ。魔法じゃねえ。竜の咆哮か?」

 耳鳴りがする。


 竜の咆哮は噂だけしか聞いたことがない。


 竜種の中でも、咆哮に物理的な力を乗せることができる者がいるらしい。

 あまりに魔素が濃厚すぎて、物理的な破壊力を得るのだ。


 どんなものでも破壊すると言われるし、この吸魔鉄の盾じゃ無理だ。前面しか防御できない。


 鉄は二千度で溶けるんだっけか。

 ただの鉄くらいならもうドロドロになっている。


 巨大な溶鉱炉の中にいるみたいだ。

 盾を前に掲げたところで気休めにしかならない。


「くっそーがぁ!」


 圧倒的な力。

 圧倒的な魔素。


 そして、圧倒的な破壊力。


 身体が崩壊しかけている。原子分解か?

 違う、魔素を取られているんだ。


 極寒の世界に行って体温を奪われるように、濃厚すぎる魔素の中に浸かって、俺の中にある魔素が奪われてしまっている。


「このままじゃ、身体が崩壊してしまう」

 焦る。このままでは存在が消滅する。


 ヤバい、ヤバい、ヤバい!


(おい、オレ! 最大のピンチだ。何とかできるか?)

 俺は、俺の中にいる「オレ」に必死で呼びかけた。


 応えはなかった。だが、どうでもいい。

 どのみち、魔素を奪われている状態で俺にできることはない。


 魔素の多いオレにバトンタッチしてなんとかなるか?

 そんなレベルの話だ。




 俺はオレに身体を明け渡したつもりだったが、俺の意識はそのままだ。

「……あれ?」


 周囲の魔素はどんどんと濃く、凶悪になっていく。

 そして俺は、俺の意識を残したまま、俺の中にあるオレの意識が浮上してきた。



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