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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第6章 魔王際会編
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 レギスを丁寧に尋問し、多くの情報を得ることができた反面、ネヒョルに繋がるものは入手できなかった。


 ただし、総合的にみると収穫はあったと思う。

 小魔王ベッツはネヒョルから依頼を受けて、指定された場所で暴れ回ることもあったらしい。


 レギスも加わっていたというから、間違いないだろう。

「神出鬼没のワイルドハント……とんだカラクリもあったもんだ」


 ワイルドハントはこれまで村や町、それどころか小魔王の住む城すら襲っている。

 やられた方はメンツにかけてワイルドハントを探し出した。


 どうしていつも逃げられたのか。

 その理由が判明した。事前に裏工作していたわけだ。


 たとえばネヒョルが町を次々と襲っていく。

 すぐに周辺が固められ、ワイルドハント捜索の包囲網が敷かれる。


 そうなってしまえば力業で脱出するしかない。

 だが、別の場所でワイルドハントの被害が出ればどう思うだろうか。


「奴らはすでに包囲を抜けてしまったのか!」

 そう思って、襲われた町へ向かう。


 抜けられて、中が空っぽの包囲を続ける意味はない。

 そして警戒が緩くなったところをネヒョルたちは悠々と脱出していた。そんな感じだろう。


 ネヒョルは相変わらず考えることが狡い。

 別の場所に偽物を出現させる方法、知ってしまえばやりようがある。


 知らなきゃ、俺でも包囲の中にいないと考える。

 逆に知っていれば、包囲外で暴れている連中は無視できる。


 これは覚えておいて損はない情報だと思う。


 そんなことをつらつらと考えていたら、ストメルが衛兵を連れて戻ってきた。

 来たのは五名……全員が衛兵だ。上位種族を連行するのだから、万全を期したのかもしれない。


「ゴーラン様、ただいま戻りました」

「何度もすまんな」


「いえ……それよりも、もう(・・)ないでしょうか?」

「ああ、こいつを連れて行ってくれればもうない」


「分かりました」


 聞きたいことはすべて聞いたので、レギスに用はない。

 衛兵が肩にかけていたワイヤーを下ろした。


「……なんだそれは?」

「拘束具ですね。上位種族ですと、通常のものだと引きちぎってしまうのです」

「なるほど」


 レギスを足から頭までガチガチに縛っている。ワイヤーのように見えるが、それよりも強靱なのだろう。

 衛兵はレギスを手早く縛ると、抱えて部屋を出て行ってしまった。俺の方を見ようともしない。


「なあ、ストメル。俺、衛兵に嫌われてる?」

「自覚がないのでしょうか」

 あれ?


「えーっと……さっき協力を断ったから?」

「そうですね。一応、他国の重要人物と説明しました。そのため無理強いできず、上官が涙目になったようです」


「そんなこと言われてもなぁ」

 あの時はレギスを尋問するのに、どうしても一人になりたかったのだ。


「それと冥猿族を無傷で捕らえたのも関係あると思います。ゴーラン様が暴れる原因を作ったらと考えたら、話しかけるどころか、目線すら合わせなくて当たり前かと」

 これ、副官からディスられている?


「よほどのことがなきゃ、俺は暴れないぞ」

「そうですか、分かりました」

 さすが副官。分かってくれた。


「これまでの道中、よほどのことがあったのですね」

「えっ、いや」


「この町にきてからもよほどのことがあったわけですね」

「えっと……」

 もしかして、怒っているのだろうか。




 何となく気まずいので、俺はその日からあまり出歩かず、大人しくして過ごした。

 謹慎ではない。自主的に出歩かなかったのだ。


 それから三日後。ようやく部下たちが城から戻ってきた。


「ゴーラン様。魔王陛下との謁見が決まりました。明日の午後になります」

「おっ、ようやくか。なにか準備するものはあるかな」


「いえ、身一つで大丈夫です」

「武器とか持っていってもいい?」


「ゴーラン様、何をしに行かれるつもりでしょうか」

「いや、他意はないんだけど、ないと不安だし」


「なぜ不安なのでしょう。……とくに規制はありませんけど、できればゴーラン様の場合、そういったものは身につけないでいてほしいのですけど」


「あれ? 武器とか持ち込んでいいの?」

「肉体を強化する種族や、魔法を使う種族がいますので、武器の有無で危険度は変わりません。それに上位種族が武器を持ったところで、魔王陛下に傷ひとつ付けられるとも思えませんので」


 なるほど。俺程度ならば武装していようが関係ないらしい。

 さすが魔王トラルザードといったところか。


「ならば正装の代わりに武装していくか」

 いや別に喧嘩しに行くわけじゃない。誓って本当だ。


「私は『控えの間』までですので、戦いになっても平気です」

「いや、戦うつもりはないから」


「副官の最後の仕事として、骨は拾って差し上げますが、果たして拾えるほど残っているのか……」

「なに不気味なことを言っているの!?」


 戦う前提どころか、俺が死ぬ前提になっているんだけど。

「冗談でございます」


「願望が入ってなかったか?」

「そんなことはございません。……明日が楽しみですね」


「…………ああ」

 やっぱり、ストメルは怒っているのではなかろうか。




 翌朝、俺とストメルは王城に向かった。

 ゆっくり歩いて午前中のうちに城に到着する。


 予約のときにもらった割り符を見せて中に入る。


「なあ、城ってこんなにデカいの?」

 小魔王メルヴィスの城に行ったときよりもかなり大きい。


 天井も本当に高い。三階建ての屋上くらいあるんじゃなかろうか。

「竜種が変身しても壊れないよう、天井を高くしているのです。二階以降は普通の高さになっています」

「そうなんだ」


 翔竜族のメラルダが変身した姿を見たことがあるが、たしかに巨大化していた。

 城の一階は変身しても大丈夫なように作られているらしい。

 柱と柱の間隔も広い。これでよく崩れないものだ。


 控室で待つこと数時間。

 城の使用人が呼びに来た。


「それではゴーラン様、いってらっしゃいませ」

「ああ、行ってくるぜ」


 いよいよ、魔王トラルザードとの謁見だ。



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