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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第6章 魔王際会編
202/359

202

 少しして、ストメルが衛兵の詰め所から戻ってきた。

 五人連れてきている。衛兵が二人と、部下らしき男たちが三人。


 部下がタライ……いや、ジェルマン族のエンブリオを担いで去って行く。

 衛兵が一人付きそっている。


 残った一人の衛兵は、俺から事情を聞きたいらしい。

「はあっ?」


 俺は殺気を飛ばして、六角棍を折り曲げた。

 魔素を流すとよく曲がる。あとでちゃんと伸ばしておこう。


 衛兵はビビるものの「規則ですから」と譲らない。

 俺にも譲れないものがある。ここは早くお引き取り願いたい。


 威圧感を与えるようにゆっくりと立ち上がった。

 衛兵は顔を引きつらせたが、呑気にお話ししている暇はない。

「ゴーラン様?」


「ストメル、この町でドブロイより強いのはどのくらいいる?」

「……魔王様を除けば十名くらいでしょうか」


「意外と少ないんだな」

「そうですね。魔王領は広いですので、各地に散っていると思われます」


「そっか……俺が本気で暴れたら、何人死ぬ?」

「その中ででしょうか」

「ああ」


 ストメルはしばし考える。

 俺が持っている六角棍、隣に立てかけてある吸魔鉄の盾。

 部屋の隅に飾ってある竜鱗の鎧を見た。


「その中ですと、数名はゴーラン様に勝てないかと思います」


 俺の最大の弱点は魔法攻撃だが、それを盾や鎧で弾くならば、純粋な力だけが物を言う。

 魔法主体の種族は俺に勝てないと踏んだか。


「……というわけで衛兵さんよ。アンタが無茶言ったせいで、魔王軍の将に欠員が生じることになるぜ」

 最大限の威圧を放って顔を近づけた。


「ゴーラン様、魔王様の町を守る衛兵を脅すような物言いは……」

 ストメルが困った声を出すが、それは無視した。


「このストメルが証人だ。お前のせいでこの町は滅茶苦茶になる。それをよく考えてもう一度言ってみろ」


「ですから……いえ、何でもありません。事情は捕まえた者を尋問します」


「だったら、すぐに去れ」

「は、はいっ」


 残った最後の衛兵は、駆け出すように部屋からいなくなった。


「ゴーラン様。いまの件、上に報告されますよ」

「大事な予定があってな。……すまんがフォローに行ってくれ」


また(・・)衛兵の詰め所でしょうか」

「そう、また頼む。向こうでゆっくりしてっていいぞ」


「……分かりました。行って参ります。どのみちフォローは必要でしょうし」

「迷惑かけるが、頼む」


 急かすように俺が部屋の入り口を指すと、ストメルはこちらをじっと見つめてから行ってしまった。




「……ふう。これでよし」

 邪魔者はいなくなった。


 俺は部屋を出て、ふたつ隣の部屋の戸を開けた。

「…………っ!」


 腹を押さえて呻いている冥猿族の男が俺を見た。


「やっぱりもう気がついていたか。もう少し強く殴っておけば良かったか。だが、その様子じゃダメージがまだ残っているようだな」

 好都合だ。


 奴に衛兵の存在や部屋のやりとりは聞かれていなかったらしい。

 この国の法律がどうだか知らないが、衛兵に連れて行かれた場合、そのまま処刑コースだろう。


 それだと俺が困るからみんな追っ払った。

 ここからは俺とコイツだけの時間だ。


 コイツは動けるようになるまで、痛みを堪えていたようだ。

「さて、聞きたいことがあるんだわ。わりとマジで」


 ネヒョルのこととか、ネヒョルのこととか、ネヒョルのことなんかを聞かせてくれ。

 わりとマジで。


「て、てめえ……こんなマネして、ただで……ぐぽぉっ!!」

「聞くのは俺で、答えるのはお前だ。分かりやすくていいだろ? じゃ、手始めに名前からいこう」


 こいつは上位種族の冥猿族だ。

 オーガ族時代の俺ならば、準備万端の状態で死を覚悟してやりあって、運が良ければダメージを与えられるかどうか。そんな相手だ。


 進化して、魔素がカンストしたいま、冥猿族程度ならば脅威と感じなくなってきている。


 上位種族はタフだ。生半可な攻撃では傷ひとつ与えられない。

 俺は後頭部をがっちりと押さえて、魔素をたっぷり乗せた拳で顔面を連打した。


「ストメルが帰ってこないうちに終わらせたいんでな。最初から飛ばしていくぞ」

 これで囀らなければ、吸魔鉄の盾で殴ることも考えたが、どうやら杞憂だったようだ。


 途中から冥猿族の顔がひしゃげてきたので、俺の拳もそれなりに効果があることがわかったし。


 男の名前はレギス。

 非合法な依頼を受ける集団に属していた。俺の予想は間違ってなかったらしい。


 レギスは小魔王ベッツという者を頂点としたアウトロー集団の一員で、ネヒョルに頼まれてこの町へ来たのだという。


 小魔王ベッツは国を持ってなく、何カ所かあるアジトを転々としながら暮らしているらしい。


 ワイルドハントやこの小魔王ベッツのように、特定の領土を持たない集団はそれなりにいる。

 普段は村を襲ったりして、手配がかかると別の国に逃げるなどを繰り返している。


 そしてこのレギス。意外や意外。暗殺専門らしい。


「お前みたいに短気な奴に務まるものなのか?」

「身軽だからどんなとこにも入れるんだ。だから……」


 そういえばコイツ。猿だっけ。

 種族の特性として肉体派だから強い。

 肉体系は魔法系よりも攻撃時に音が出ない。


 飛行種族は非力な者が多いが、コイツは身軽のわりに肉体派。

 暗殺に向いているのかもしれない。


「……で情報屋と合流するためにこの町へ来たわけか」


「そうだ。緊急の依頼があるって、すぐに来たんだ。だけど落ち合うはずの奴がなかなか来やがらねえ」


「それでイライラしてたわけだな。……ちなみにお仲間はもう捕まえたぞ」


「なっ……なんでお前がそれを!? いつだ?」


「うるさい。質問は俺の方からする」

 レギスの腹を殴った。今日、二度目の腹パンだ。


 悶絶しているレギスに俺は大きな笑顔で問いかけた。


「それで本題だ。どこへ行けばネヒョルに会える?」

 ネヒョルがはた迷惑なことをやっているせいで、俺や俺の部下たちがひどく迷惑している。もうあいつだけは許さない。


「知らない。神出鬼没でこっちから連絡がつかないんだ」

「ならば、知っていることだけ話せ」


 適度に痛めつけつつ情報を聞き出し終えたころ、ストメルが詰め所から戻ってきた。

 まあ、それなりに有意義な時間だった。今すぐ行動できないのが痛いが。


「ゴーラン様……それ、どなたです?」

「ああ、コレか? さっき捕まえた奴の接触相手だな。依頼を受けて暗殺を実行するつもりだったらしい」


「……えっと」

 ストメルは非常に困惑した顔をこちらに向けた。


「ストメル、すまんが」

また(・・)衛兵の詰め所ですね」


「ああ、よろしく頼む」

 今度はもう、何も言わずに出て行った。



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