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「おい、どうしたんだよ。早く部屋に連れてってくれ」
「ああ……部屋は少し汚れていてな」
「構わねえよ。いいから早く」
「分かった」
気になる名前が出たことだし、こいつを逃すわけにはいかない。
(だけどなぁ……いろいろ問題あるんだよなぁ)
二階にあがり、俺とその男は部屋に入った。
「なんだよ、ちゃんと片付いているじゃないか……ん?」
男は床に音を立てて座ると、部屋の中を見回し、武器と防具に目を留めた。
武具を二度見して、ゆっくりと俺を見る。
「あー、あのな」
「おい、あの盾。おれは見たことあるぞ。クルーニャ将軍の側近だった奴……なんて名前だっけ?」
「ドブロイか?」
「そう。それだ。ドブロイの盾だろ。なんでこんなとこにあるんだ?」
一発でバレた。
まあ、仕方ないか。
「……もらった」
「なんで目を反らすんだよ。つぅか、もらえるはずがねえだろ! 盗んだのか? おまえ、大事な仕事の前に盗みを働いたのか?」
「人聞きの悪い。目の前で奪ったが、返せとは言われなかったぞ」
「……はっ? なんだそれ?」
「(一方的に俺が)殴って、(一方的にあいつが)殴られて、(俺の予想だと)友情が芽生えた(ような気もしないでもないような雰囲気があったような気がするんだがどうだろう)」
「…………」
すげー、疑わしそうに俺を見てくる。
「(言っていないこともあるけど)本当だぞ」
「ちなみに今、ドブロイはどうなっている?」
「顔を腫らして(じっくり寝てい)るんじゃないかな」
「殴ったのか!?」
「やべっ、心の声と間違えた」
「戦ったのか? なにやべーことしてんだよ! 指名手配されてるんじゃねえのか?」
「大丈夫だ。ちゃんと言い聞かせてきたから」
「おまえ、さすがにそれは無茶苦茶だぞ。将軍の側近に手を出したのかよ……って、あの鎧! 竜の鱗を使ってるじゃねーか! ふざけろ。よくあんなの持って町に入れたな」
「門番や衛兵に囲まれたけど大丈夫だった」
「囲まれてるじゃねーか! 大丈夫じゃねーだろ!」
「いや大丈夫だったぞ。竜種が住む集落と喧嘩したときにくらべたら、穏やかなもんだった」
「何やってんだよ! 竜種の集落で暴れて奪ったのか? 絶対指名手配されているぞ。くっそー、町に入るときも騒動起こしやがって! こっちの計画を潰すつもりか? なんでこんな脳筋が来てるんだよ!」
すげー嘆かれた。
というか、脳筋よばわりは心外だ。俺は頭脳派なのに。
「それで俺の戦利品の話は置いておくとして、そっちの話をしてくれ」
「おいとけない話だろ! なに普通に話を進めようとしてんだよ。この時点でもう、この町からオサラバして、二度とアンタには関わらないと誓うレベルだぞ」
男が腰を浮かしかけた。
ネヒョルとの関係が切れたらやばい。
「ぎゃーぎゃーうるせえな。早く話さねえと、これを持っていた奴らと同じ目に遭わせんぞ」
「わ、分かった……そ、そんなに凄むなって。おれは非戦闘種族なんだから」
軽く睨むと、簡単に大人しくなった。素直が一番だな。
「話があるんだろ。早く話せ」
「分かった……おれだって死にたくねえ。話したらとっとと自分の国に戻ることにするぜ。……んで、話だが、おれたちの種族は身軽でな、ちょっとしたことを調べたり、聞き耳をたてたりできるんだ。ネヒョル様には贔屓にしてもらっている」
話からすると、こいつは情報屋とも違う。
自分で調べるあたり、元の世界でいう探偵みたいな感じか。
「今回の依頼は、アンタにナナケイ族のセイトリーの情報を届けることだ」
「ナナケイ族?」
聞いたことがない種族名だ。
「ナナケイ族を知らないのか?」
「ああ」
「希少種族だが、魔王トラルザードの軍師といえば分かるか」
「ああ、一応な。噂だと本当にいるらしいが」
俺は行商人から情報を買うが、与太話のひとつとして聞いたことがあった。
魔王国には、人前には決して出さない軍師がいると。
「存在が知れ渡れば、まっさきに狙われるからな。隠すのは当然だろ。それでも噂は漏れるものだぜ。ネヒョル様はトラルザードの軍師の存在をずっと探らせていたんだ。ようやく俺たちが見つけた。まあ、この町でも噂くらいは聞けるけど、そういったヨタ話じゃなく、ちゃんとした情報だ」
「そのセイトリーという奴が軍師なのか」
「そうだ。先にナナケイ族について言うと、魔法が得意な種族で強力な魔法攻撃を連発してくると思えばいい。ただし、肉弾戦はからっきし。魔法に頼り切った種族だ」
「ほう」
魔法頼りな種族か。オーガ族の反対だな。
「俺はセイトリーの居場所をアンタに教える。アンタがセイトリーを始末すれば依頼達成。あとは分かるな」
「掴まらないように国外へ逃げろと?」
「そういうことだ。掴まることもあるから、おれの種族名やおれの名前は教えられない。どこに属しているのか、いま何をやっているのかもすべてだ。反対におれは、アンタのことは何ひとつ聞かない」
「当然だな」
「成功したかどうかは、国外にいる俺の仲間が後日、確認しにこの国へ来る。アンタは気にしなくていい。成功が確認されたらネヒョル様から報酬が支払われる。そこまではいいか?」
「問題ない」
「よし。じゃあ、セイトリーの居場所とそこへ至るまでの道順を教えるから……」
それよりネヒョルと連絡を取る方法を知りたいのだが、まだ焦る時間じゃない。
そのとき部屋の戸が開かれた。
「ゴーラン様、ただいま戻りました。おや、お客様ですか?」
ストメルだ。間の悪いときに戻ってきてしまった。
「…………」
俺がどう言い訳しようかと考えていると、男は驚愕した目でストメルを見た。
「アンタ、なんでトラルザード国の者なんかと一緒にいるんだよ!」
「? 私はゴーラン様が魔王陛下と謁見できるよう取りはからうためですが……ゴーラン様、この方は陛下に対して悪意があるようです。どういうことでしょうか」
不思議そうにストメルは俺の方を見た。
あちゃー。