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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第1章 見晴らしの丘攻防戦編
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「……ただいま」

 戸を開けて家に入ると、両親と弟妹がごちゃっと集まっていた。


 オーガ族は身体が丈夫なので、戦前の日本以上に子沢山だ。

 その分、戦いですぐ死ぬのでトントンだろうか。


「おかえり。下克上したみたいだな。部隊長だって?」

「なりゆきで、やるしかなくなった」


「相変わらず覇気の無い息子だな。それでも無事に帰って来られて良かった」

 父親は俺の肩をガシッと掴んだあとは、バンバンと叩いて帰還を喜んでくれた。


 父親は戦場で片腕を無くしてそれっきりだ。

 いまは森の木を切り出して生計を立てている。


 魔界の住人とはいえ、働かなくては生きていけない。


「ずいぶんとまあ魔素量が上がったわね。もとから考えると信じられないほどだわ」

 母親は感心して俺を見ている。


「戦場に行く前はオーガ族の平均より少し多いくらいあったんだが」

「そうだったかしら」


 あまり俺のことを見てくれていなかった。

 もともと長生きしないと思われて、かなりの期間、いないものとして扱っていたからだろう。


「村じゃみんな歓迎しているぞ。あとで一回りしてこい」

「分かった」


「祭りが近いから、ついでに準備を手伝ってきなさいね」

「それも分かったよ」


 帰ってそうそうこき使われるのか。俺、部隊長になったんだよな。

 扱いが前と全然変わっていない……。




 王の配下は、以下の序列になっている。


 将軍、軍団長、部隊長だ。

 俺の場合だと、オーガ族を率いる部隊長だから、六つの村で一番偉いと考えればいい。


 偉いのは村長ではないのかと思うかもしれないが、魔界では強い者が偉い。

 だから俺が誰かに村を任せることはあっても、それは俺が任命したからであって、村長そのものが偉いのとは少し違う。


 日本人の感覚だと、文官と武官をイメージするが、魔界ではそのような分け方がない。

 将軍ストラテーゴスが兵権と裁判権を有していた、古代のテマ制が一番近いのかもしれない。


「おーい、部隊長。そこの木を取ってくれ」

「これか?」


「そう。十本ばかし持ってきてくれ」

「分かった」


 つまり、部隊長は偉いのである。六つの村で一番……。


「早くしねえと祭りが始まっちまうぞ。おめえらモタモタすんな」

「へーい」


「駆け足だ」

「うぇーい」


 俺も駆け足をした。部隊長なんだけどな。


 文官武官の別なく部隊長が統括するとは言っても、祭りの準備は職人の仕事。

 俺ひとりふんぞり返っていても始まらないからいいのだが。


 グーデンだったら、「がっはっはっは」と笑いながら一番働きそうな気がする。

「ほら、部隊長。足を動かせ」

「わ、分かった」


 だが、なんとなく納得がいかない。


 祭りの準備も終わり、ようやくゆっくりできた。

 村を回って挨拶という名の顔見せも済んだ。


 これで祭りまでゆっくりできるというのもだ。


(しかし……魔素量が増えたのは嬉しいが、面倒事も背負い込んでしまったな)


 魔界の住人ならば誰でも体内に支配のオーブを持っている。

 そして自分の住んでいる国のトップ。つまり王の支配を受け入れている。


 その国に暮らす者は全員だ。例外はない。

 支配のオーブを通して自分の力の一部を捧げている。


 ただし、国のトップに直接捧げるわけではない。

 それだと王だけが強くなって、他が弱いままだからだ。


 支配のオーブは四段階まで吸い上げる段階を踏むことができるので、それをうまく利用しない手はない。


 俺の場合、六つの村に住むオーガ族から少しずつ力を捧げて貰っている。

 その一部をネヒョル軍団長に捧げている。


 ネヒョル軍団長はファルネーゼ将軍に捧げ、ファルネーゼ将軍は小魔王メルヴィスに捧げている。

 力のピラミット構造だな。


「部隊長、やま村から使いが来たぞ。支配のない連中が村の近くに現れたらしい」

「……マジか。交渉して支配を受け入れるならば、俺のところに来るように言ってくれ」


 この国にいる者で、小魔王メルヴィスの支配を受け入れていない者はひどく目立つ。

 同じ陣営に属していると、支配のオーブを通して仲間はなんとなく分かるのだ。


 分かるのは仲間かそうでないかの違いだけだが、これは意外と重宝している。

 何しろ、スパイが入り込む余地が少ない。それに戦場で同士討ちの危険も少ない。


 そしていま報告のあった、どこの支配も受け入れてない連中。

 この世紀末ヒャッハーの世にあって、そういう連中が増えているのだ。


 王が倒れ、支配者が変わったことに起因する。

 新しい支配者を受け入れたくない場合や、追放の形で追い出されたような連中だ。


 彼らは行く当てがないため、国を巡りながら定住地を探す。

 ほとんどの場合、国外へ追い出されるのだが。


「……さて、どうしようかね」


 彼らは戦争避難民と言える。

 受け入れてもいいが、面倒事も一緒にやってくることがある。


 その場合、だいたい争いに発展する。戦争だ。

 わざと受け入れて戦争を起こさせる手もあるが、いまこの国は戦争のまっただ中だ。


 新しい火種を抱えることがよいのか分からない。だが……。


(もし、助けを求めてきたら、断れねえよな)


 それは我が家の家訓。

 守るためなら命すら賭して守れ。


 母親から言われた言葉は、転生した今もなお、俺の心にしっかりと刻まれている。



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