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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第6章 魔王際会編
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 どうやら、俺は旅に出る前よりも強くなっているらしい。

 たった数日の道中でも、まだ成長していた。


「だけど、これはさすがにおかしくないか?」

 演舞をしたときにできた大地のヒビ。


 明らかに『魔素が乗っている』攻撃だ。

 ……おかしい。


 たとえば幽鬼種に対して、俺たち鬼種は無力だ。


 何しろ、攻撃に魔素が乗らないからである。

 魔法を使えば楽に倒せる相手でも、苦戦してしまう。


 一応、気合いを入れれば少しは効くが、それをアテにして幽鬼種と戦いたいとは思わない。


「深海竜の太刀は、魔物の素材を使った武器だから魔素が乗ったが……」

 この事態、考えられる理由はふたつ。


 俺が魔素を操れるようになったか、この六角棍ろっかくこんが、魔素を乗せやすい素材であるかだ。

 真実は、これだけでは分からない。


「これは良い武器ですね」

 俺は長に返そうとすると、長は首を横に振った。


「それは差し上げます。素晴らしい使い手に出会えたことで、六角棍も満足していることでしょう。戦士の証、ぜひお使いください」


 そういうことならもらっておこう。

 俺が普段使っている金棒も頑丈な武器だが、これはこれで良い武器だ。


「ありがとうございます。大切に使わせていただきます」

 俺の言葉に、長は満足そうに頷いた。


 この集落の戦士の象徴。俺もそれに認められたことが、単純に嬉しい。

 それと、あとで魔素が乗るか試すことが出来る。


「ではこちらへどうぞ。選抜を始めますので」

「はい、見学させていただきます」


 俺が長の横に座ると、若いガチムチたちが我先にと並んだ。


「ああやって一列に並んで、勝ち抜き戦をするのです。先に三勝した者から抜けます」

「負けたらどうなるのですか?」


「負けた場合、列の一番後ろにつきます」

「なるほど、それは分かりやすくていいですね。……して、何人抜けたら終了ですか?」


「今回は二十名を予定しています。各集落からも代表者たちが出てきますゆえ」

 同じホーンド族の集落がこの辺りにいくつもあるようだ。

 この辺もオーガ族と同じだ。


「ではまたそこで集落の威信をかけて戦うわけですね」


「はい。今回選抜に勝ち抜いた二十名に、我が集落の猛者三十名を合わせて、五十名を出す予定で考えています」


「結構な人数ですね」


「各集落からも同じように選抜されてきますので、最終的に残るのは半数程度になるでしょうか」


 送り出しても半分は戻されるという。それでも長は嬉しそうだった。

 選抜に最後まで残るのは、意外と厳しそうだ。


 メラルダ将軍の部隊も、みな強そうな者ばかりだった。

 この国はこうやって兵の質を高めているのだろう。




 若者たちの戦いは、目を見張る者から目を覆う者まで、多種多様だった。

 みな攻撃一辺倒で、防御したり避けたりしないので決着がすぐに付く。


 互いに足を止めて、ノーガードで殴り合う感じだ。

 昔のアニメで、ほうれん草を食って強くなる主人公が、ライバルと一発ずつ殴り合う喧嘩をしているのを思い出した。


 このホーンド族は、オーガ族と同じく肉体に特化しているため、魔法は使えない。

 だからこそか、肉体をいじめ抜き、ああいった筋肉を纏っているのだろう。


「我が一族も見習うべきところが多くありますね」

 今度、オーガ族を鍛えるときに参考にしようと思う。


「そうですか。ぜひ広めてくだされ」

 長は笑った。


 選抜の方は見事デカい連中が勝ち抜き、最後の二十人目を巡っては、熾烈な殴り合いが行われていた。


 選抜の様相は悲喜こもごも。

 抜ければ六角棍を手にでき、集落で一人前と認められる。


 負ければまた次の機会を待たねばならない。必死にもなる。


 俺はいいものを見られて、とても満足した。


「食事をありがとうございました」

 出発の時である。


「なに、あれだけ食えるのですから、さぞやお強いのでしょう。また何かあれば寄ってくだされ。今度は精鋭を揃えて待っておりますので」


「そうですね。その時はぜひ手合わせしましょう」

 俺は長とがっちり握手して、集落を後にした。




 そして街道に戻り、俺たちは先を進む。


「このペースでしたら、町に着くのは明日になります」

「うん、それは別にいいだろう。急ぐ旅でもないし」


 魔王トラルザードと面会する前に、この腹減りだけでも何とかしておきたい。


「今晩は野宿になりますが、よろしいでしょうか」

「問題ない。できれば野生動物がいるあたりがいいな。これの威力を試してみたい」


 俺は長からもらった、六角棍を手に取った。

 最初は鉄かと思ったが、別の金属が少し混ぜられているらしい。


 俺が大地を割ったあれは、六角棍が俺の魔素を溜め込んで、振り下ろすと同時に発射したからだと結論づけた。


 それができるのならば、剣速で衝撃波を撃ち出せないかと考えたのだ。

 なんちゃって魔法攻撃である。


 ということで、野生動物で試してみたかった。


「そうですね。では、少々山に入りますが、どこかよい場所を探させましょう」

「頼む」


 また後ろの荷物持ちが走り回るのだろうか。

 少々申し訳ない気持ちになってくる。


「しかし、その六角棍は良い武器ですね」


「そうだろう? ホーンド族の戦士の証らしいからな」

「とても重そうで、私にはとても持てません」


 ストメルは蜂形態なので、そもそも武器は扱えない。

 その分、空を飛べたり毒針があったりするので、問題ないと思うが。


「ホーンド族みたいなガチムチな筋肉連中が振り回すんだ。頑丈に作ってあるからな……ほれっ!」


 俺は六角棍を両手で持って曲げた。

 そして曲がった。


「……あれ?」


 飴細工のように曲がってしまった。

 毛利元就みたいに、三本用意すればよかったのか?


「……ゴーラン様?」

「お、おかしいな……こんなに簡単に曲がるはずがないんだが」


 六角棍は知恵の輪のように曲がってしまっている。


「どうしてでしょう……」

「分からん……あっ」


「どうしました?」

「魔素を流し込んだからかもしれない」


 考えられる理由としては、それだけだ。


 筆記体のエルのように曲がってしまった六角混を持って、俺は途方に暮れた。



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― 新着の感想 ―
[一言] まっずいwwあんないい別れ方としばらく使う感じだったのにww
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