表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第5章 窮鼠覚醒編
181/359

181

 あれから更に二日が経った。

 腹は相変わらず減るが、じっとしていると身体が疼いてくる。


「ちょっと運動してくる」

「はい、行ってらっしゃいませ。食事を用意してお待ちしています」


 少し動いただけでよく分かる。

 底上げされた力をもてあましている。


「おっ? ゴーラン。もうメシはいいのか?」


 サイファが武器を担いで歩いていた。

 全身に木の葉やら、蔓やらがくっついているのは、森の中を見回りしてきたからだろう。


「どうも体力が余っているらしくてな」

「ひっきりなしに食いもんが運び込まれたと思ったら、今度は戦いか。……んじゃ、おれとやるか?」


 いまのサイファでは、体つきが大人と子供くらい差がある。

 それでもサイファはオーガ族の中では頑丈な方。


「よし、やろう。それを使って本気で来ていいぞ。俺は素手で相手をする」

「余裕じゃねえか。遠慮しないからな」


「今までもしてきてないだろ」

 何百回、俺に挑んできたと思っているんだ。


「よっし、思いっきりぶちのめしてやるぜ!」

 サイファは二本の金棒を持ち、変則的な構えを見せる。


 どうやら戦いの中で二刀流ならぬ、二棍流を磨いたらしい。

「うらぁ!」

 僅かな時間差で左右から金棒が飛んできた。中々考えられた戦い方だ。


 今までの俺ならばそれを避けて間合いに入り、関節を決めるか、急所を打ち据えたところだ。


「ここは敢えて受ける」


 ――ぎぃん


 自分の身体に当たったとは思えない音がして、金棒が弾かれた。

 俺の方にダメージはない。


「かってぇーな、オイ」

「だな。俺もビックリだ」


 俺の筋肉がどうなってしまったのか。

 腕を動かしてみて、ギシギシいう筋肉。

 何かに似ているなと思ったら、ワイヤーロープに似ていた。


 昔、吊り下げ式のエレベーターを見たことがあるが、そのとき使われていた極太のワイヤーがこんな感じだ。


 自分の筋肉が、知らないうちにえらく硬くなってしまったようである。


 ――ガキン、ギィン、ゴォオン!


 サイファが金棒を振るうたび、俺の筋肉に跳ね返される。

 音が違うのは、当たった箇所が違うからだ。


 どうやら原種へと進化すると、想像以上に肉体が強化されるらしい。


「今度はこっちから行くぞ」

 軽く殴るつもりで拳を振り上げて……。


「……あれ?」

 サイファがいない。


 というか、俺がサイファの横を駆け抜けた。


「うをっ!? すげえスピードで抜けてったぞ」

「間合いを詰めようとしたら、行きすぎた」


 金棒の間合いだったので、数歩近づこうとしただけだ。

 心も体も戦闘態勢に入っていたため、動きに抑えが効かなかった。


 ちょっと呆然としてしまった。

 サイファの攻撃が続くが、今度は避けてみた。


「なっ! ちょこまかと……って、なにやってんだ、ゴーラン?」

「動きにくい」


 避けたつもりが、サイファから逃げるように遠くまで行ってしまった。

 攻撃だけじゃなく、避けるときも抑えが効かないのか。


「俺、弱くなってないか?」

 素早く動く反面、繊細な動きが不可能になった。ひどく戦いづらいのだ。


 古い時代のゲームを最新のパソコンで遊んだ感じだ。

 移動も視点移動も、動きが急すぎてかえって扱いづらい感じだ。そして……。


「腹減った」


 耐えがたいほどの空腹感が襲ってきたので、俺はまた天幕に戻ることにした。

 燃費が悪いというよりも、魔素がまだ必要値に全然足りていない感じだ。




 メシを食いながら、俺は色々と考えた。

 身体は動かしていれば慣れるだろう。それまでは使い勝手が悪い身体を騙し騙し使っていくしかない。


「急にスペックが上がったところで使いこなせなければ意味はないんだが、他の進化した連中はどうしているんだろうな」

 素朴な疑問だ。


 おそらくだが、進化幅が小さければ違和感も少ないかもしれない。

 今回、ただのオーガ族から原種へと進化した。


 こういう段飛ばしに進化した場合、違和感が半端ないのだろう。


「でもなんで俺だけ……?」


 通常はハイオーガ族になる。

 俺も進化するならば、そうなると思っていた。


「あのもや(・・)の世界が原因か?」

 あれは結局何だったのか。


 推理してみよう。


 俺とオレがいたからには、あそこは魂の内部だったのではと考えられる。

 なにしろふたつの魂が癒着している状態がいまの俺たちなのだから。


「魂は器に入っているというのが定説だし、あれは器の中なのかもしれない」

 いい感じに推理できてきた。


 日本にいた頃に、推理物のとある漫画を全巻読んだだけのことはある。


「とすると、器に魂が満たされるというよりも、もやを満たした世界が器で、魂がそこに漂っているのが正解かもしれないな」


 外見上の魂の器は、ふたつの魂が融合した状態に見える。

 だが、中に入ってみると、俺とオレが別々に存在しているという。


「……だから、人格が入れ替わるようにしてオレが表に出てこられるのかもしれない」

 おっ、推理が進んできた。いい調子だ。


 とすると、問題になるのはあの穴だが、穴の中は渦ができていて、もやも吸い込まれていた。

 中に入ったときに分かった。あれは魔素の渦、俺の力の源だ。


 穴が開いていたから、あそこは器の外に思えるが、穴の中もまた器の中だったんだ。


 食事で魔素を吸収し、敵を倒したときに魂の器が少し広がると言われているが、あそこに魔素が溜め込まれているのではないか?


 たえず渦を巻いているため、穴の外にはでて来ないが、俺やオレが入ったら、魂にくっつくようにして魔素がやってきた。


 あれは俺がずっと溜め込んでいた魔素の一部じゃなかろうか。

 それが進化のときに俺と合体した。


「とすると、相撲の懸賞金に似ているな」

 相撲に勝って懸賞金をもらうと、相撲協会が半分プールして引退時に手数料を引いた額を力士に渡すらしい。


 魔素を取り込むと、半分はすぐに身になり、残りは進化のためにプールしてあるんじゃなかろうか。

 イメージとしてはそんな感じだ。


 魂の器というのはじつは複雑怪奇で、単純に魂を入れておく入れ物だけではないのかもしれない。


「とすると、あの穴だが……あれこそ、今までプールしてきた魔素を得るための入口」

 進化するとき壁に穴が開くように、進化条件を満たしたので、あそこに穴が出現したのではないだろうか。


 だとしたら辻褄が合う。

 俺が穴に飛び込んで、魔素を身体にくっつけている間に、リグが見ていた俺本来の身体が変化したのだろう。


「オレ」の方が言っていた「穴の先に魔界がある」という言葉だが、あの穴を通って意識が戻る……つまり、もやのあった場所は控室みたいなものか。


 なんとなくだが、今ので自分が納得できる説明ができた。


 さすが俺だ。

 こういう推理がうまく行ったときは決め台詞セリフを言うんだっけ?

 たしか読んだ漫画で何度か使われていた……。


「おっちゃんの名にかけて、謎はすべて解けた!」


 いや違う。

 おっちゃん関係ないよ。


 どうも昔のことになると、記憶が曖昧になる。

 たしかおっちゃんではなく、身内が出たはず……そうだ。


「犯人はジッちゃん」


 これも違う。

 というか別のと混ざってるな。


 もっとこう、キャッチーなフレーズだった。


「身体はジッちゃん、頭脳はおっちゃん」


 うん、だいたい合ってる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] それただのジジイや
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ