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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第1章 見晴らしの丘攻防戦編
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018

 一夜明けて、翌日。

 戦局はどうなったかと言えば、ネヒョル軍団長の予想はピタリと当たった。


 俺の部隊と中央の部隊はそのまま待機。

 ゴブゴブの所だけで戦いが始まった。


 ここで調子に乗って、中央のロボスたちがゴブゴブの後詰めに行くと、逆に挟撃されそうなので、こちらも動きはない。

 中央はにらみ合いの状態が続く。


「……ヒマだ」


 戦わない方がいいのだが、今日は視界の端に敵が見える。

 俺の部隊が動かないように牽制に来たようだ。

 気を引き締めている状態で一日が過ぎた。日没である。


 ゴブゴブたちはなんとか陣に篭って耐えきった。

 これで敵は、攻めきれないと判断したわけだ。


「というわけで、敵は撤退すると思います。おつかれさまー」

 ネヒョル軍団長はもう終わったような雰囲気で会議に現れた。


「そんな簡単でいいんですかね」

「うん。だって、ここの戦場はこれ以上動かないもん」


「そうなんですか?」

「あと一人でも部隊長が倒れれば戦況は一気に傾くからね。予想外の戦場で負けたこともあって、慎重になっているよ。よかったね、ゴーラン。殊勲だよ」


 どうやら、俺が敵の部隊長を撃破したのがよかったらしい。敵が驚いたのだろうとも。

 軍団長クラスらしかったので、敵の中でも強い方だったのかもしれない。


 この世界の戦いは現代風な軍隊組織が浸透してないため、上の者が敗れると下がどうしていいか分からなくなる。


 作戦を知っているのが上官しかいないというのも大きいが、ここで重要になってくるのが支配のオーブの存在である。


 魔界の住人はだれしもが、誰かに支配されている。

 戦いの場合、上官はかならず支配のオーブによる底上げを受けている。


 それが負けるのだ。下の者が敵うはずがない。そこでパニックになる。

 俺が陣を落としたのも、部隊長を倒せたからに他ならない。


 そうでもなければ、たった六十体ほどのオーガ族の群れで、敵陣をひとつ破壊などできなかっただろう。


 このことを考えると、敵の部隊長の数が重要になってくる。

 あまり部隊長が多くなると力が分散されて弱くなってしまう。


 四人か五人がせいぜいだろう。

 本陣を手薄にするわけにもいかないので、陣には一人の部隊長しか派遣していないとすると……。


「たしかに部隊長を二人殺られた時点で、一気に戦局が傾くな」


 今日見たところ、俺が破壊した陣は再構築せず、そのはるか後方に仮の陣ができていた。

 この二日間で作ったのだから、突貫工事だろう。


 そこにも部隊長がいると仮定して、俺が乗り込んで倒す。

 敵はそれを考慮にいれて、大牙族よりも強力な者を配置せざるを得ない。


 すると戦場のどこかが手薄になってくる。

 その部分を突かれて部隊長が戦死となったら、その瞬間、軍団長が新たな部隊長を任命しないかぎり、新しい部隊長は生まれない。


 そしてここが重要だが、先ほど説明した通り、戦場で新しい部隊長を任命するならば前の部隊長より強くなければ意味をなさない。

 弱い者を指名しても同じ戦場ならば負ける。


 だがそれも難しい。ゆえにじり貧。もしくは詰む。


 つまり、あと一人部隊長が撃破された段階で、敵側は巻き返しが不可能になると判断した。

 ネヒョル軍団長が「戦況が一気に傾く」という理由はそこにある。


 結局、翌日と翌々日で徐々に戦闘は縮小していって、最終的には敵が撤退していった。

 向こうも攻める気を見せているので、追撃はできない。


 陣を払って帰って行く敵の列を見送って、俺はこの戦いが終わったことを喜んだ。


「これで村に帰れる」

 それは何にも増して嬉しいことだった。




 俺たちは帰路についた。

 ちなみに帰りのルートはバラバラだ。みな故郷に向かって歩いて行く。


 オーガ族は六つの村に別れて住んでいる。


 それぞれの村とは交流があって、仲が悪いわけではない。

 俺が住んでいるのは、「川向こう」と呼ばれる村だ。


 村の名前はない。ただ、川向こうとだけ。

 五つの村に比べて多少不便な所にあり、住んでいるオーガ族はそれほど多くない。

 二百人くらいか。


 俺は同村の者を引き連れて戻った。


「おかえり、ゴーラン。やっぱやると思ったぜ」

「そうね。ゴーランが我慢するとは思えなかったし、予想通り?」


「……おまえら」


 出迎えてくれたのはサイフォとベッカの兄妹。

 二十一歳と十九歳で、俺より四つと二つ上のオーガ族だ。


「なるほど、たしかに魔素が増えているな」

「ほんとね。あたしより少し少ないくらい? 笑える~」


「部隊長になってオレたちより少ないとか。さすがはゴーランだな。身体を張って笑わせてくれるぜ」


「帰ってきた早々それか、この駄兄妹」


 この両人は俺の幼なじみだ。

 こいつらの家は他に兄が何人かいるため、今回の戦場には来なかった。


 ただこの駄兄妹、魔素量で言えば村でも随一を誇っている。


 戦闘狂とも言えるくらい、戦うのが好きな兄妹で、俺は何度……いや何百回相手をさせられたことか。


 とにかく負けてもすぐに挑戦してくるので、ハッキリ言ってウザい。


「しかし出迎えるなんて気持ちがお前たちにあったのは驚きだ」


「なんだよ、ゴーラン。そりゃヒデェぜ」

「そうよ。ずっと待っていたんだからね!」


「ふむ……何か良くないことでも起こりそうな予感がするな」

 この脳筋駄兄妹は、俺に対する寛容さは持ち合わせてない。


 今でこそこうして友好的に会話しているが、小さい頃はもっと殺るか殺られるかの関係だった。


「まあ、あながち間違いじゃねえけどな」


「ちょっと待て、駄兄だけい。今なんてった?」

「誰もいないところで話せって言われてるんだわ」


「おまえそれ……だ・れ・に・だ?」

 激しく嫌な予感しかしない。


「えーっと、それを含めて?」

「……分かった。こっち来い」


 俺は駄兄妹を広場の端に連れて行った。

 帰還者たちはみな家族の元へ向かっている。ここには俺たちだけしかいない。


「……で、何をした?」

「ヒデェ言い草だな。オレはなにもしちゃいねえよ」

「じゃ、ベッカか?」

「あたしじゃないもん。部隊長にお客が来ただけだもん」


「俺に客?」

 どういうことだ?

 というか、なぜこいつらがそんな話を持ってくるんだ?


 駄兄妹の顔を交互に覗き込んだが、表情からはなにも読み取れなかった。




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