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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第5章 窮鼠覚醒編
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○?????? ゴーラン ゴーラン


「ここはどこだ?」

 一面、白い世界だ。


 ひざまで真っ白なモヤが漂っている。


 歩いても、その先が見えない。

 というか、果てがあるのかさえ分からない。


「まさか死後の世界ってオチじゃないだろうな」


 俺は戦いに負けたのか?

 思い返してみたが、直前の記憶がない。


 たしか強力な敵と戦っていた気がする。

 記憶に鍵がかかったようにそこだけ思い出せない。


 当てもなく歩いていると、遠くに人影が見えた。


「おーい! 待ってくれ。ここがどこか教えてくれ!」

 駆け足で近づくと、俺と同じオーガ族の若者だった。


 しかも見たことがある。だが、名前が思い出せない。

 よく知っているはずなのだが、誰だったか?


 相手は初対面らしく、俺の方を凝視して訝しんだ。


「なんだ、お前は?」

「俺か? 俺はオーガ族のゴーランだ」


 きっと別の村の者だろう。名前が出てこないが、見たことある顔だ。


「馬鹿言え。ゴーランはオレだ。そもそもお前はオーガ族じゃないだろ。なんだそのひょろっちい身体は」

「なんだと。お前、俺に喧嘩を売るつもりか?」


 最近、オーガ族で俺に喧嘩を売ってくる奴はほとんどいない。

 こいつは、それを知らないのか?


「おもしれえ。オレに喧嘩を売るなんて、ここんとこ久しくいなかったが、変わっているな、お前」


 俺と似たようなことを言いやがる……いや待て。何かおかしい。


「お前……どこかで見たことがあると思ったら、その顔! 俺に似ているのか?」

「んだ? どういうことだ……いや、オレに似ているな。なんだこれ」


 俺たちは互いの顔をよく見た。

 自分の顔に似ているが少し違う。相手も同じらしい。


「俺はゴーランだ」

「オレもゴーランだ」


「…………」

「…………」


「お前、オレか?」

「オレだよ。……つぅことは、俺?」


 ここでようやく理解した。

 俺とオレ、どうりで似ているわけだ。


 しかもどうやら、俺の身体はオーガ族じゃなくなっているらしい。

 首から下を見て思った。これ、人間だったときの身体だ。


「おい、オレ。ちょっと話し会おう」

「おう。俺とは、一度話してみたかったんだ」





「……つぅことは、魂の坩堝の中から引き揚げられた魂が俺で、もとのオーガ族の魂だったオレにくっつけられたわけだ。……で、俺たちがオーガ族に転生した。分かるか?」


 互いの事を話し合い、情報を整理するとそういうことになる。


「なんでオレでなく、俺の方が普段表に出ているんだ?」

 もっともな疑問だ。

 オーガ族の身体なのに人間の魂の方が表層にあるというのはおかしい。


 だが、それには理由があると思う。


「恐らくだが、『魂の大きさ』が身体に対して大きすぎたんだな。幼少期はそれでも死にかけた。身体がまだ出来ていないうちに、二人分の魂だろ。あのとき、身体が悲鳴を上げていたんだ。魂の容量を少しずつ増やしたからよかったものの、あのままだったら、確実に死んでいた」


「なるほど。最初からオレが表に出ていると、身体が耐えられないわけか」


「そういうことだ。これは身体の防衛本能だろう。ガキの頃にオレの方が表に出た瞬間、身体が破裂して死んでいたかもしれん。魂の容量を増やしたからもうそれは起こらないが、やはりひとつの身体に二つの魂は多すぎるんだよ」


「なるほど。言いたいことは分かった。……それで、これは今、どういう状況なんだ?」


「俺が知りたい……と言いたいところだが、おそらく魂の状態なんじゃないか? 俺たちがここにいることから考えて、ここは身体の内部?」


「なるほど。変な感じだが、俺と話ができたのは良かった」


「俺もだ。ひとつの身体を二人で使っているんだ。他人とは思えないが、親子でも兄弟でもないし……俺たちはどんな関係なんだろうな」


「オレに難しいことは分かんねえぞ」

「そうだな。つぅわけで、ピッタリな言葉をいま思いついた」


「なんだ?」

魂の兄弟(ソウルブラザー)だ。どうだ」


「ソウルブラザーか。悪くないな。今日からオレとおまえはソウルブラザーだ」

「よろしくな、ソウルブラザー」


 俺とオレは固い握手を交わした。




○メラルダ


 我の部下ががんばってくれて、魔王ジャニウス麾下の軍勢は蹴散らした。

 いまミニシュが追撃をかけているが、国境付近まで狩り放題だろう。


 あの竜食みとやら。侵攻軍以外に兵を備える余裕など、なかったに違いない。

 ミニシュには、どれだけ恨まれてもよいから存分にやれと言ってある。


 問題は西方だ。

 こちらは混沌として状況が分かっていない。


 小魔王ユヌス軍が各地で暴れ回っていると話が入ってきている。

 だが、もともとはユヌス領へ各国がちょっかいをかけたのが真相らしい。


 それを聞いて我は不思議に思った。


 ――どの国がちょっかいをかけた?


 小魔王チリルや小魔王リストリスが倒されたいま、ふたつの国は立て直しに大わらわだ。

 他の国も同様。

 どこの国が何の目的で小魔王ユヌスの国を襲うのか。


「……と、そんな話を今してもしょうがないであろうな」


 戦乱は続いているし、その影響が我が国まで及んでいる。


 すでに出兵した連中は見境がつかない状況らしく、疑心暗鬼に陥った各国は、味方を定めることをせずに敵対ばかりしている。


 戦乱を収めさせようとしても、反対にこちらが狙われる始末。

 もはや末期。こうなっては、自軍を介入させ、大きなひとつのうねりを作って、終着点をどこかに持ってきた方がよい。


「小魔王ユヌス軍、撤退しています」


 意外な報が入った。

「撤退? 状況は?」

「分かりません。突然のことです」


「本国で何かおこったか?」

「それで軍を戻したのならば、よほどのことですが」


「そうよのう……」

 隣のハルムに聞いても、やはり要領を得ない。


「まあよい。ユヌス軍がいないのならば、周辺の安定化を優先する。オーケにそう伝えよ」


 ここはオーケに任せても大丈夫そうだ。

 一番の激戦だったが、ユヌス軍が撤退したのならば、状況は変わってくる。


「どちらに向かわれます?」

「ラルフのところが近いな。そちらへ行く」

「畏まりました」


 我らは軍を転進させ、もうひとつの戦場を目指す。

 しばらく進むと……。


「申し上げます、小魔王モニンの軍が撤退を開始しました」


 ユヌスに続いて、モニンの軍が撤退!?


「何が起きているのだ?」



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― 新着の感想 ―
[一言] きちんと逢ったのは初なのにあっという間に打ち解けた二人w
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