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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第5章 窮鼠覚醒編
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「気をつけろ! こいつらは並じゃない」

 ダイルが忠告するまでもなく、ネヒョルとその取り巻きは俺にビンビン殺気を飛ばしてくる。


「さあて、ゴーランはどこまで頑張ってくれるかな。ボクは楽しみだよ。……ちなみに勝てる相手じゃないからね」


 ネヒョルが手を振ると、黒い鎧が三体、前に出た。

 背はオーガ族の俺よりも高い。胸板も厚く、横幅もある。


 見た目は巨大な鎧の化け物だが、ネヒョルがそう言うならよほどの強者なのだろう。

 俺は深海竜の太刀を握りしめて、後ろに向かって叫んだ。


「ここは俺がやる。お前たちは逃げろ!」


 この混乱は直に収まる。

 敵がどう出るか不明だが、ここであんな化け物みたいな黒鎧とやり合う必要はない。


「ゴーラン、お前が逃げろ。あれは……我でも相手をするのはキツい」

 降格したとはいえ、軍団長職にあったダイルがそう言うのだから、実力はダイルと同程度かそれより上。

 それは聞きたくない情報だった。


「ネヒョルのやつ、とんだものを用意しやがったな」

 敵はたった三体。

 ネヒョルの周りにはまだいるが、それを投入するつもりはなさそうだ。


「先に言っておくね。彼らは亡霊将軍族だよ。亡霊騎士族だと、ゴーランが勝ってしまうこともあるからね。念には念を入れたんだ」

 ネヒョルの陽気な声が腹立たしい。


「亡霊騎士族の進化形だ」

 ダイルが説明してくれた。


 敵は三体とはいえ、こっちは俺とダイル。

 不利は否めない。


「んじゃ、おれらは残った右でいいのかな」

「そうだね~、一番近いし」


 サイファやベッカ、それに他のオーガ族が戦闘態勢をとりはじめた。

 死神族もいる。


「おい、おまえらは逃げろ! 束で掛かっても勝てねえぞ」

 無駄死には止せと言ったが、連中は聞く耳を持たなかった。


「こっちは全員で一体を相手にするだけだ」

「そうだよ。ゴーランは少しは信頼してくれてもいいんだよ」


 もちろん敵が強大でも数で押せばなんとかなる……が、それは向かった集団の半数を犠牲にするとか、そういった大胆な作戦が取れる場合だ。


 雑魚はいくら集まっても雑魚。

 各個撃破されて終わる。


「戦争が始まった時点で戻っても良かったんだけどね。眺めていたら見つかっちゃたし、今日はツイてないよ……でもゴーランと戦えるんだから、ツイていたのかな?」


「ネヒョル、てめえ、この戦争を仕組んでやがったな」

 今の発言で分かった。やっぱり裏で糸を引いていたのがいやがった。


「あっははは……そりゃそうだよ。ここの翔竜族の将軍には、西に来て欲しくなかったからね。いま西は大混乱の真っ最中さ。ここで足止めさせるために、がんばってジャニウスの将軍を動かしたんだよ」


 やはりネヒョルの策略だったわけだ。

「ワイルドハントがここら一帯で暗躍しているって聞いたが、何を考えてやがるんだ!」


「ボクの目的? そんなの教えると思う? そういえばゴーランさ」

「なんだ」


「なんでゴーランは上位種に進化しないの? オーガ族の進化は解明されているし、もうとっくに進化していなきゃおかしいくらいなのにね」


「何を訳の分からないこと言ってやがる」


「知らないのかな。オーガ族がハイオーガ族になるにはね、たったひとつが必要なんだよ。それはもう、ゴーランはクリアしている。でも進化していない。なぜなんだろうね~、どうしてだろうね~」

「……?」


 これから戦闘だっていうのに、ネヒョルは気の抜けた声を出す。


「いい機会だから教えてあげるよ、ゴーラン。オーガ族の進化に必要なものは、上位種族を倒すこと。つまり大物食いなんだ。すでにゴーランは何度もやっているよね。もうとっくに進化したと思ったんだけど、どうしてまだなんだろ?」


 心底不思議だというように、ネヒョルは首を傾げる。

「さあな、それより覚悟しておけ。こいつらを全滅させたら、次はお前だ」


「それは怖いな。でもそれも楽しみだな。……じゃあゴーラン、生き残るのは無理だと思うけど、足掻いてみてね」

 その言葉を待っていたかのように、亡霊将軍族が動き出した。


 亡霊将軍族が間合いの外から剣を振るう。

 長くて分厚い大剣だ。


 あんな場所から振ったところで、もちろん届かない。

 だが大剣は大地をえぐり、地割れが足下まてやってきた。


「……っと! あれは受けられねえな」

 地割れから足をとられる前に避けたが、あの大剣は危険だ。

 受けたところで、力で押さえつけられ、そのまま真っ二つにされそうだ。


 そして敵の黒鎧。

 太刀であれを斬れるだろうか。


「亡霊将軍の鎧は破壊できないぞ。あれは魔素の塊だ。本体はレイス族と同じ幽鬼種だ」


「それって、物理攻撃が効かねえじゃねえか」

 レイス族は物理攻撃がまったく効かない。俺たちオーガ族の天敵である。


「いや、少しは効く。ほんの少しだがな」

 ダイルは絶望的なことを言い出した。


 幽鬼種を倒す場合、魔素による直接攻撃が効果的だ。

 その最たるものが魔法。

 魔素をそのままぶつける魔法がよく効く。


 続いて、身体に魔素を纏わせての攻撃だ。

 爪でも牙でもいい。とにかく魔素を乗せて、相手の魔素を削り切るような攻撃が有効とされる。


 それより大分落ちるが、武器に魔素を乗せて攻撃する方法もある。

 うまく魔素を乗せられれば高い攻撃力を得るが、そんなことができるのは魔素の扱いに長けた者のみ。


 それならば魔法でも撃った方が効率がいい。

 そしてここが大事なところだが、オーガ族は有り余る魔素を頑強な身体をつくるのに使っている。

 腕力とかにだ。


 ゆえに魔法を撃てないし、魔素を乗せた攻撃もできない。

 つまり何がいいたかいと言えば……。


「……お手上げだ」

 どうやって戦えばいいんだ、これ。



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