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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第5章 窮鼠覚醒編
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 俺がどん引きしている間に出陣式が終わった。

 みんな大盛り上がりで、いい出陣式だったと思う。たぶん。


 ちなみにいま俺たちがいるこの場所は、砦として構築した最終防衛拠点だ。

 ここに籠もって戦うことになった場合、メラルダ将軍はすでにいなくなっている。そういう場所だ。


 そう、つまり今回は将軍も出陣する。

 メラルダ軍の総力戦が決定した。


「ハルムとミニシェは部隊を率い、陣を張れ」

「はっ」

「仰せのままに」


 晶竜族のハルムとミニシェは、メラルダ将軍の副官。

 実は二人とも小魔王である。


 二人とも支配の石版に名前が載っていて、将軍を入れたこの三名が軍を率いる。

 小魔王がそれぞれ軍を率いるとは、なんて贅沢なんだろうと思う。


「敵の数は多い。適当に相手してやれ」

「「かしこまりましたっ!」」


 ハルムとミニシェが軍団長を引き連れて陣を離れていった。


「ゴーランよ。お主らは我とともに本陣じゃ。魔王国の戦いを見ておれ」

「分かりました。邪魔にならないよういたします」


「陣の後ろにおればよいが、そことて安全ではない。何かあればダイルが判断しよう。それに従うのじゃぞ」

「はい。そのようにします」


 俺たちはメラルダ将軍の陣の後方にいることになった。

 本陣の背後は、もっと意思疎通の出来る部隊に任せるのが普通だ。


 ある程度戦況が読めないと、撤退時に邪魔になったり、後方からの援軍が間に合わなくなったりするからである。

 今回、撤退を視野に入れてないので、前面に戦力を集中させたようだ。


 ハルムとミニシェの軍が見えなくなり、ようやく俺たちの番になった。


「左手に川、右手は森林だ。森の奥には常に気を配っておくように」

 ダイルが今回の布陣を説明してくれた。


 まず北から南へ川が流れている。大河といってよい。川幅は広く、かちで渡るのは難しい。


 戦場となるのはそれに面した川岸で、川に近くなるほど小石が転がっている。

 メラルダ軍はこの川を左手において、斜行陣形を敷いた。


 一番川岸に近い位置にハルムが陣取り、それより斜め後方にミニシェ軍。

 同じく斜め後方にメラルダ軍が陣取っている。


 敵の目的は将軍の撃破であるから、最後部のここまで大軍を持ってくることになる。


 ただし、途中の二軍を放っておけないので、軍を分けることになる。

 斜行陣形のいいところは、ミニシェ軍が勝った場合、すぐに敵軍の後方に襲いかかれることだ。


 ハルム軍が勝っても同じ。

 すぐにミニシェ軍と挟撃できるわけで、敵は中途半端に部隊を分けると、思わぬ痛手を喰らうことになる。


 つまり、フォンバル軍はそれなりの数の兵をハルムとミニシェ軍に振り分けなければいけなくなってしまった。


 もしハルム、ミニシェの両軍が負けても、斜行陣形を敷いているために、メラルダ軍の後方を襲うことは叶わない。

 敵は自軍の後ろに付くくらいしか兵の運用はできないのである。


「問題は右手の森か」

 俺は飛鷲ひじゅう族を出して、森の中を上から探らせた。


 数日前から飛行できる兵たちが敵味方問わず、ガンガン飛び回っている。

 すでに空中戦がそこかしこで行われ、それなりの被害が出ているらしい。


 両軍対峙ということで、さすがに自軍の上は大丈夫なようで、制空権を持っている範囲ならば、自由に索敵できる。


 反対に敵陣がいるあたりの空には多くの飛行できる種族が飛んでいる。

 あそこに向かって偵察に行けば、すぐにでも囲まれて落とされることだろう。


「百から二百の集団が森の中と外縁に集結しています。数は五つ」

 飛鷲族からの報告があった。


 千から二千の集団が森にいるようだ。

 この森の中にいる小集団は想定された事態だ。


 余分な兵がいないこちら側はいたずらに兵を分けることはできない。

 森の中は完全に敵の領分となってもそれはしょうがないと諦めている。


「そろそろやってくるぞ」


 森が切れたあたりから、敵軍が姿を現した。

 部隊は三つ。数はこちらより多い。だが……。


「敵本隊が見当たらないな」

 ダイルが不審そうな声をあげる。

 俺も一緒に目を凝らしたが、あれだけ目立つと言われたラハブ族の姿が見えない。


 竜食りゅうはみとまで呼ばれたフォンバル将軍の姿はなかった。

 つまり、敵本陣はここから見えない。まだ余力を残しているようだ。


 ハルム軍と敵軍の戦闘が始まった。

 声と音ばかりで、こちらからは戦況がどうなっているのかよく分からない。


 今頃、他の軍がこちらに向かって来ているのだろう。


「次の戦いが始まったな」

 ダイルの言葉に俺は頷く。

 先ほどよりも近い場所で戦いの声と音が聞こえる。

 ミニシェ軍の戦端が開かれたようだ。


 残るは、本陣たるメラルダ軍である。

 そして敵は、最大戦力をここに投入してきているはず。


「ぬしらの力を我に見せてみよ!」

「――ォオオオオ!」


 地響きとともに、本陣でも戦闘が始まった。


「前が崩れることはないが、後方から攪乱するために敵がちょっかいを出すかもしれない。気を引き締めろよ」

「分かりました」


 俺たちはダイル独立部隊。

 今回の戦いでは、ダイル指揮のもとで、好きに動いていいとお墨付きをいただいている。


 必要があれば逃げることも許可されているが、逃げようと思う者は、この陣にはいないだろう。


「そういえば結局、フォンバルの姿が見えませんでしたね」

「ここぞという時に出てくるのだろう。この陣の大将は……ペインサーペント族か」


 巨大な蛇が、敵味方を蹴散らしながら大暴れしていた。

 あれが敵陣の大将らしい。


 尋常ではない暴れ方で、敵どころか、味方までも吹っ飛んでいた。



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[気になる点] ********************* 「百から二百の集団が森の中と外縁に集結しています。数は五つ」 千から二千の集団が森にいるようだ。 ********************…
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