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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第4章 嗚呼無情編
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 襲撃から一夜明けて、被害状況が判明した。


「全体で八割の被害か」

「無差別の攻撃だったことと、こちらの対策不足だな」


 ハルムが頭を抱えている。


 全軍の三割が死亡という大惨事で、負傷して戦線に復帰できない者が約半数。

 たったあれだけの時間の襲撃で、一軍が壊滅したのである。


「メラルダ将軍は?」

「本陣へ戻られた。明日には部隊を引き連れて戻ってくるそうだ」


 怪我をした兵が多く、陣にある薬だけでは足らないらしい。

 そもそも治療する人手も必要。


「軍を分けて大丈夫なんですか? 天界の襲撃がまたあるんじゃ?」

「今回の襲撃で多数の聖気を使用しているから、連続の襲撃はまず不可能だろう」


「なるほど」

「ただ、次の襲撃を想定していないわけではない。ここを放棄して、別の場所に新しい陣を作ることにする」


「陣を放棄するんですか?」

「空からの襲撃は想定外だったのでな。あまり開けていない場所に陣を敷くことになるだろう」

 それらを含めて、本陣から人を派遣するようだ。


 ちなみに俺の部隊だが、半数が死亡している。

 残りは無事だが、怪我人がいないのは、攻撃を受けた者はみんな死んでいるからだったりする。


 オーガ族は魔法攻撃に弱いだけでなく、聖気の攻撃にも弱かった。




 俺は一連の出来事を振り返ってみた。


 巡回中の部隊が「聖気の杭」を発見したのが二日前。これは偶然見つけたらしい。

 さらに捜索をすると、森の中でも一本見つけた。


 巡回中の兵が聖気の杭を見つけたときは、まだ塩の柱になっていなかった。

 このことから、杭は一両日中に打ち込まれたことが分かった。


 その時点で天界からの侵攻があるかもしれないと、ハルムは警備を強化。

 本陣へ使いを出している。


 本陣にいたメラルダ将軍の話だと、実は同じ時期に本陣近くで聖気の杭を発見していた。

 将軍たちは「本陣への襲撃」を想定して警備を強化していた。こちらと同じである。


 その日の夜は寝ずの警備が続き、日が昇る頃になってようやく陣内も落ち着きを取り戻した。

 聖気の杭も塩の柱に変わり、もう襲撃はないだろうと思ったころにやってきたのだ。


 一方、メラルダ将軍がいる本陣はというと、俺たちの陣がいまだ警備を強化していた夜半過ぎ、ハルムの指示を受けた使者が本陣に駆け込んできたようだ。


 本陣近くだけではなく、ダイル軍団長の陣の周囲にも聖気の杭が打ち込まれている。

 ここでメラルダは考えた。


 広範囲に聖気の杭を打っている。まだ見つかっていないものもあるかもしれない。

 これは、一層警戒を強めた方がいいと。


 日が昇り始めた頃、突如、遠くから聖気の流れを感じたらしい。

 何かあったかとメラルダは一人、空を飛んで向かったのだという。


「一人でって……将軍は随分無謀なことをしますね」

「自分一人だけなら、何とでもなると思ったのだろう」


「それって本人が強いですからね。俺も部下を置いて飛び出すことはありますので、気持ちは分かります。……そういえば、よく本陣にいて聖気の流れなんて分かりましたね」


「杭を打ったり、天が裂けただけならば気づかなかっただろうが、結界を張ったからな。聖気の結界は直上に高く伸びる。警戒しているところに、そんな結界だ。魔素を排除するような結界ならば、ある程度離れても力のある者は気づくと思うぞ」


「そういえば、結界を張られてから力が衰える感じがしましたが、あれが結界の効力ですか」

「そうだ。天槍の大きさと本数から、将軍が効果を算定したが、二割程度、魔素に影響が出たのではないかと仰っていた」


 天界の住人が魔界に来ると、能力はおよそ半分になる。

 ゆえに奴らは、拠点を作って、そこを聖気で満たそうとする。


 今回の場合、拠点を作らずに結界内を聖気で満たしたわけだが、通常と違い、効果は限定的。


 天界の住人にすれば、もともと100%の力があったとすれば、そのまま魔界に赴くと能力は50%にまで低下する。

 それを今回の結界で底上げして70%くらいにまで戻したらしい。


 一方、俺たち魔界の住人は、結界の効果により20%の能力低下があっただろうとのこと。

 動きにくかったわけである。


「今回の侵攻で、かなりの被害が出ましたけど、あれを少なくすることはできなかったんでしょうか」


 俺が気になったのはそこだ。

 オーガ族は半数の十名がやられている。もし有効な対策があれば聞いておきたかった。


「今回は通常の侵攻とは違ったので、難しいな」

「通常の侵攻はどんな感じになるんですか?」


「空に穴を開けて、そこから先遣隊が降りてくる。先遣隊が地上を制圧すれば侵攻は開始されるが、全滅すれば撤退する」


 天界には、聖気の量が少ない者たちがいるらしく、そんな連中を使い捨ての駒として魔界に放出するらしい。

 もともと聖気が少ないので、魔界に来ても力が減少する幅も少ない。


 そんな連中が降下地点を制圧し、魔界の中に足がかりとなる『点』を作る。

 その点を少しずつ広げていって、ある程度の面積を得られた時点で結界を張って、拠点とするらしい。


 本来の天界の住人が降りてくるのは、その拠点が出来てからになるという。


「では今回はイレギュラーな出来事だったと」


「そうだな。我々が備えていたのは、ああいった空からの攻撃でなかった。結界内で戦う予定もなかった」

 ゆえに対策不足だったという。


 考えてみれば、敵のボス格の連中が最初からやってくるのはおかしい。


「では将軍も驚いたことでしょうね」


「空を飛んでここへ向かったら、強固な結界が張られていたため、すぐに状況に気づいたようだ。本来の姿――竜に戻って結界を破壊してくれたが、あれがあと少し遅れていたら危なかった」


 予定していなかった結界によって、ハルム自身も苦戦を強いられたらしい。


「結界が壊れてすぐに撤退しましたけど」

「力の増加分が反故にされたのと、我々が通常の力を取り戻したからだろうな。それと結界を破壊した者が外から来ていると思ったのだろう。引き際は見事なものだ」


 メラルダ将軍が単独で駆けつけてくれたことで、俺も命拾いできた。


 それと俺が連れてきた他の種族だが、サバイバル演習に出かけていて今回は被害を免れた。

 もし彼らもここにいたらと思うと、ゾッとした。



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[気になる点] >「そういえば、結界を張られてから力が衰える感じがしましたが、あれが結界の効力ですか」 >「そうだ。天槍の大きさと本数から、将軍が効果を算定したが、二割程度、魔素に影響が出たのではな…
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