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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第4章 嗚呼無情編
159/359

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○天界 エイラ研究施設内 混沌ドーム


 巨大なドーム型の建物の内部。

 中央には、円形の蓋が床に接するように置かれている。


「被検体の確保に入ります。混沌領域の開放を願います」


 外からやってきた白衣の者の言葉に、研究員が頷き、働いている者に指示を出す。


「混沌領域を解放せよ」

 その言葉を受けて、やや矮小な姿をした者たちが忙しなく動く。

 しばらくして中央の円盤が二つに割れた。


 そこから白や青といったもや(・・)が僅かながらたち登った。

 蓋があった場所には、巨大な円形の穴が姿が出現していた。


「混沌領域の解放を確認。これより四十秒間の維持に入る」


 外から来た男は、投網のようなものを持ち出して構えた。


「混沌の海へお願いします」

「サークルを混沌の海へ移動」


 白衣の男は投網を穴の中に投げ入れる。

 少ししてから手元の基盤を操作する。すると投網は自動で回収された。


「混沌の渦へお願いします」

「サークルを混沌の渦へ移動」


 ここでも同じ動作をする。


「混沌の雲へお願いします」

「サークルを混沌の雲へ移動」


 三度目も成功した。



「四十秒経過。混沌領域の閉鎖を開始」

 その言葉に従って、誰もが穴から遠のく。

 蓋がせり出してきて、ぴったりと合わさった。


「混沌領域の閉鎖を確認」

 研究員の言葉がドーム内に響き渡った。




○天界 エイラ研究施設内 容骸ようがい研究施設


「混沌の海から掬い上げた魂に、第14750001号から14751000号番までの番号を付与」

「第14750001号から14751000号番までを付与完了しました」


「混沌の渦から掬い上げた魂に、第14751001号から14752000号番までの番号を付与」

「第14751001号から14752000号番までを付与完了しました」


「混沌の雲から掬い上げた魂に、第14752001号から14753000号番までの番号を付与」

「第14752001号から14753000号番までを付与完了しました」


「残った魂は破棄」

「残った魂の破棄、完了しました」


 白衣の男は、手元の操作盤から情報を映し出し、完了のチェックを入れた。


「魂を魔石に込めよ。しかるのち、容骸ようがいに埋め込み作業開始。出来上がったものから、各250体ずつ被験体室へ移動。保管せよ」

「魂を魔石に定着させたのち、容骸に埋め込み作業開始します」


 しばらくは、大勢の矮小な者たちが作業に没頭する。




○天界 エイラ研究施設内 容体ようたい研究施設 被験体室


「各種被験体を100体ずつ使用する。使用準備開始」

「被験体の準備、開始します」


「順次、容骸の蘇生措置開始。容体ようたいになったものから実験を開始する」

「蘇生措置開始します。レベルのチェックお願いします」


「意識レベルチェック体制完了」

「呼吸レベルチェック体制完了」


「神経伝達レベルチェック体制完了」

「オールチェック体制完了」


 次々と容骸が意識を覚醒させ、容体となった時点で奥に運び込まれていく。


「被験体第14752801号から第14752850号までは魂の融合開始。第14752851号から第14752900号までは魂の結合を開始せよ」


「魂の融合を開始します」


「魂の結合を開始します」


 研究施設内から、くぐもった声や悲鳴、絶叫が響き渡りはじめた。

 それらはみな、魂を無理矢理別のものに変質させる痛みであった。


「被験体第14752813号、意識レベル混濁」

「破棄せよ」

「破棄完了しました」


「被験体第14752822号、肉体損傷」

「破棄せよ」

「破棄完了しました」


「被験体第14752836号、魂の共鳴なし。融合せずに飛散しました」

「破棄せよ」

「破棄完了しました」


「被験体第14752849号、魂の融合に成功」

「意識レベルを閉ざし、第46実験場へ入れていけ」

「第46実験場へ移動を開始します」


「被験体第14752852号、発狂しました」

「破棄せよ」

「破棄完了しました」


「被験体第14752864号、魂が結合せず、ともに損傷しました」

「破棄せよ」

「破棄完了しました」


「被験体第14752884号、魂の一部融合に成功しました」

「保管せよ」

「保管完了しました」


「被験体第14752896号、神経の断絶が確認されました」

「破棄せよ」

「破棄完了しました」


 こうして被験体を使った実験は続いていく。




○天界 エイラ研究施設内 ??????


 キャスターに乗せられて運ばれてきた容体には、まだ意識があった。


 実験に使用するにはB品であり、すぐに実験に回されることはなかった。


 キャスターに乗っているのは、被験体第14752884号である。

 魂の一部融合に成功したものの、中途半端に成功していることから、被験体が足りなくなったときの予備として脇に置かれたのである。


 実験は続けられる。

 ほとんどの場合、肉体が崩壊もしくは溶解し、原形を留めない状態になって運び出され、破棄される。


 すべての被験体実験が終了したとき、隅に置かれた容体に注目が集まった。


「それは?」

「被験体第14752884号であります」


「状態は?」

「魂の一部のみ結合に成功しています」


「よし、追加実験を開始する。被験体第14752884号を使用の準備」

「準備します」


 キャスターが移動され、実験台に被験体第14752884号は乗せられた。



「うう……があ……ががが……あばばばば……」



 被験体第14752884号の絶叫が実験室内に響く。


「……肉体は残ったか。実験のデータを確認」

「実験データ確認しました。この波形は結合実験の結果のものとも、融合時に見られるものとも違います」


「この魂を使い、容体を変えて実験を継続する。容体から魔石を取り出せ」

「魔石を取り出します」


「……ううう」


 データを参照していた男たちは、そのとき被験体から目を離していた。

 第14752884号はゆっくりと上半身を起こした。


 被験体はかりそめの肉体、かりそめの生の状態である。

 身体はただ魔石の力で動いているに過ぎない。


 被験体第14752884号は自力でキャスターから下り、ヨロヨロとした足取りでどこかへ歩いて行く。


「被験体の移動を確認」


「捕獲……いや、速やかに魔石を取り出せ」

「魔石の取り出しをします」


 矮小な者たちが行く手を塞く。

 被験体の後ろから白衣を着た者たちが追いついた。


「……ううっ……キ、キサマ……ら……ハ」


「被験体の言語機能確認」

「命令は変わらない」

「了解。魔石を取り出します」


 白衣の男が被験体に手を伸ばした。

 被験体の胸に手が伸び、その身体の中に手がめり込む……直前、被験体が振りはなった手が白衣の男に当たった。


 だが、その手は見えない何かによって弾かれた。

 白衣の男は動じず、そのまま手を被験体の身体に手を入れ、埋め込まれた魔石に触れる。



 ――ピシリ



 魔石にヒビが入り、魔石を体外に取り出したときには、そこから黒いもや(・・)がしみ出すように立ち上っていた。


「魔石の崩壊を確認」

「魂の回収を優先しろ」

「回収を優先します」


 だがもや(・・)はそのまま周囲に広がり、やがて消え去った。


 白衣の男が握った手の中に残ったのはただの魔石。


「被験体の魂をロストしました」

「魂を追跡せよ」

「追跡します」


 こうしてとある場所で行われた実験は、唯一の成功例を見失う。


 これ以降、同じ条件下で行われた実験でも、二度と成功例は確認されなかった。


 そして魔石にヒビが入り、そこから漏れ出た魂の捜索は、引き続けられることとなった。



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