表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第4章 嗚呼無情編
156/359

156

 夜になった。

 天界からの侵攻があるかもしれないということで、多くのかがり火を灯し、多くの兵を警戒に当たらせている。


 俺は自分の天幕に戻って、気休め程度の革鎧を着る。

「リグがいればなぁ……」


 なるほど、副官というのは重要な存在だとよくわかる。

 リグがいないため、すべて俺がしなければならない。


 武器は深海竜の太刀の方を選んだ。

 強敵相手の場合、殴ったところで効かない可能性がある。


「全員を集めるか」

 リグがいれば走り回ってくれるのだが、いないのだから俺が回るしかない。


 すべての天幕に声をかけてまわった。


「……ここにいないのは、どこかへ行っているわけか」

 その辺をうろついているのだろう。集まったのは十四名。


「いいか、よく聞け。天界から侵攻があるかもしれない。確定したわけではないが、その準備をしておく。全員いまから鎧を着て武器を手放すな。それと単独行動をするな」


「なんだよ、みんなで一緒にいろってか?」

「五人くらいで動くのはいい。ただし、それ以下になるな。今まさにやってくるってことも考えられる。気を抜くなよ」


 ここにいない六人にも同じことを伝えたいが、朝まで戻ってこないことも考えられる。

 そして脳筋のこいつらに任せると「伝え忘れてた」となったりする。


「念のため、ダイル軍団長の軍と合流するぞ」

 互いの接触が悪い方に働く可能性を考えて、離れたところに天幕を張っていた。

 このような事態になった以上、一緒にいた方がいい。


 武装した上で再度集合させ、俺たちはまとまって行動した。

 厳重な警備を敷いている軍の中に入る。

 ここからは、長い待ち時間だ。


 しばらくして、聖気の杭が塩の柱に変わったと報告が入った。

 杭が魔素の影響を受けて変質したのだ。


 これで天界に送る情報がなくなったわけだが、実は聖気の杭はもう一本見つかっている。

 同時期に塩の柱に変わったものの、ある程度本気で侵攻を考えているのではと、ハルムは言っていた。


 合理性を重んじる天界の住人は、何の意味も無く杭を打って、聖気を無駄遣いしないだろうと。


 まんじりとしないまま時が過ぎ、朝が来た。

 俺はハルムと一緒に警戒に当たっていた。


「侵攻はなかったですね」


 杭が塩の柱に変わってから、数時間が経っている。

 もう今日の襲撃はないのかもしれない。

 俺は帰って寝るかなと思い始めたそのとき、天が震えた。


 ――ビィーン


 弦が共鳴したような音。それは天が裂ける音だった。


「……来やがったか」

 覚悟していたが、恐れていたことが現実となってしまった。


 天が裂け、そこから光り輝く槍が幾本も魔界の大地に降り注いだ。


天槍てんそうだと!? 奴らは何を考えているんだ」

 ハルムが呻く。


「なんですか、それは」

「天界の結界術だ。時間制限があるし、威力もそれほどではない。そのかわり、聖気を馬鹿みたいに使う」


 エネルギー効率の悪い結界らしい。


「目的はなんでしょうか」

「この地の支配だ。……張られるぞ!」


 ハルムの言葉が言い終わるよりも早く、空間が音を立てて閉じた。


 ――ピキーン


 甲高い、硬質な音だった。はじめて聞いたのに、この結界の堅さが理解できた。

 これは破れないだろう。


「なんか、身体がダルくなったんですけど」


「本来、結界は擬似的な天界を作るものだが、天槍程度ではそれは叶わない。こっちが多少動きづらくなり、相手の息苦しさが多少改善された程度だ。ただし、これを張るのに、何体使い潰したんだか」


 聖気が無くなったり、極端に減った天界の住人は、回復の見込みがないため、処分されるという。


 空から振ってきた天槍は八本。

 天界の住人数人分の聖気が使われているだろうとハルムは言った。


「……来るぞ」


 空間が裂け、そこから天界の住人が姿を現した。


「白衣を着ていますが」

「あいつらはだいたい白いのを着ている。汚れたら捨てるんだと。それと、汚れが目立つから着るとか言っていたな。訳が分からん」


「なるほど、研究者と言うわけですね」


 天界の住人たちは、年がら年中研究ばかりしているという。

 そんな実験ばかりしていて何が楽しいのか分からないが、その動力に魔石を使用するらしい。


 魔石――俺たちの世界でいう、支配のオーブだ。

 魔素を溜め込む性質があるため、支配のオーブは俺たちに力をくれる。

 これは魔界の住人ならだれでも持っている。


 天界の住人たちは、それを欲しがる。

 研究に使うエネルギーがなくなると、俺たちを殺して支配のオーブを抜き去りにやってくるのだ。


「……あれが天界の住人?」

 天界の住人たちは、能面のような顔をしていた。

 もしくは彫り物の仏像のような。


 みな、研究者が好んで着るような丈の長い白衣を着ている。

 最初にやってきたのは十体ほど。

 全員がなにやら装置のようなものを持っている。


「あれは何を持っているんですか?」

「知らん。この結界を維持するのに必要なのだろう」

「なるほど」


 小箱かと思ったが、形がすこし違う。

 ゲームのコントローラーみたいにも見える。


 全員同じ物をもっているが、もうひとつ特徴があった。

 左腕に腕章をつけている。


 目を凝らすと、腕章は白地に三本線が入っていた。

 線は斜めに稲妻のように折れている。色は赤だ。


「あの腕章――白地に赤ですけど、あれは?」


「天界の住人は全員、どこかの研究機関に属している。そのマークだ」

「全員が研究者なんですか?」


「我らでいう国と同じだ。そこで育った者は親の研究を引き継ぐ。そして何百年、何千とかかる実験を何世代にも亘って研究していたりする。研究機関を移ることはまずないという話だから、あのマークだと……えっ!?」


 そこまで言って、ハルムは絶句した。

 俺はその理由が分からない。


「まさか……いや、間違いない」

「どうしたんです?」


「あれ……は……全滅した……はず」

「なんです? あのマークが何なんです?」


「エイラだ……研究機関エイラ……まさか……あれは、小覇王ヤマトと戦って、消滅したはず。どうしてエイラがっ!?」


 ハルムが絶句している間に、空間はさらなる音を立てて裂け始めた。

 今回の音は、前より数倍耳障りだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ